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作戦会議②

「その前に、まず謝らせてくれ」


 そう言いだしたのは、コギルだった。

 彼はヨハンとシモンに一瞥ずつ送ったあと、勢いよく頭を下げた。


「ペトロさんの実力を疑って生意気な事を言ってしまった! すまん!」


 ヨハンとシモンは、まるで猪の体当たりを目の当たりにした様な表情だ。

 あまりにも真っすぐなその謝罪に、思わず苦笑いとなってしまう。


「えっと、いや、僕達は別に──」


「そうだよ、それにその場合、謝るのはお父様にでしょ? って言ってもきっとお父様なら『なんだ、そんな事を気にしてたのか』って笑うと思うけどね」


 シモンの下手なモノマネ付きの言葉をどう受け取ったのか、それでもコギルは食い下がった。


「それでも、俺はお前たちが信じてる家族を疑った。仲間としても友人としても、最低だ」


 コギルの表情は暗い。ヨハンはその表情に疑問を感じる。

 確かに、父の事を悪く思われるのは気分のいいものではない。そんな思いをさせてしまったという負い目があるというのは理解できる。

 それにしても、少し大げさな気がする。

 気付けば顎に手を当てて考えてしまっているヨハン。視界の端では、シモンはこちらを待つように黙っている。


(こういう時に普通ではないと見えるのは、その人の人生においての価値観が自分と大きく異なるからだ。コギルは信じた人、ではなく家族と表現した。そしてその家族を疑う、つまり害する事に過剰な反応を見せる。家族に負い目でもあって、許されたいと思っている?)


 胸中での考察は、情報量が少なすぎる事もあってこれ以上の進展はなさそうだった。

 けれど、これは今後コギルとの関係を続けていく上で間違う事ができない返答である気がしたのである。

 だから、彼、ヨハンは正解に近いだろう回答をする。


「うん、わかった。許すよ。ただし条件がある」


「ああ、なんでも聞く」


「明日、一日、父上の言う事をなんでも聞く事。それで許すよ」


「……わかった」


 そこにシモンが意地悪そうな顔をして加わる。


「お父様、たまに変な冗談言うけど、それもちゃんと実行するんだよ?」


「わ、わかった」


 あまり重い話題にしたくない、そう思っているのはヨハンやシモンだけではない。

 きっと周りの人間もみな、軽い冗談のような一コマであって欲しいと願っていたのだろう。

 だからこそ、少し表情の暗かったトーアーサも含めて、全員に小さな笑いが広がる。


 このチームは、本当にいいチームだとヨハンは実感していた。

 誰かの為に、全員が同じ方向を向く事ができている。それに、能力だって申し分ない。

 もっと言えば、これから尊敬する父が一年間指導してくれるのだ。最高のチームになるのは間違いないだろう。

 だからこそ、ヨハンは願う。

 この場にいる全員が、これからの話を正しく理解し、納得して付いてきてくれれば良いと。


 そんな思いが少しヨハンの眉間に皺を寄せてしまい、その事実が自分でおかしくなって少し笑ってしまう。

 いい雰囲気なのだ、早く本題に入った方がいい。ヨハンは話を進める事にした。


「では、本題を話してもいいかな」


 その言葉で、柔らかくなった場に少しだけ緊張が走る。


「僕たちはこれから、父上の下で修業して旅の準備を整える。ここまではいいね」


 全員が頷くのがヨハンの視界に入る。


「それが終わったら、この国の王族へのパイプを作ろうと思う」


 その言葉に、全員が不思議そうな顔をする。

 それも当然である。ヨハン、シモン以外は勇者一行に加わる事を目的にしているのだと思っているからだろう。

 ベズィーがヨハンへ視線を向け、手を上げて質問した。


「質問! どうして王族なの?」


「そうだね、色々説明しなくてはならないけど、みんな地図は見たことあるかな」


 これにはシモン以外の全員が首を横に振った。

 それもまた当然の事で、村に生きる人間が、地図などを目にする事など無いが普通だからだ。

 というのも、村で生まれたなら生涯村から出ないのが普通なので、必要がないのである。

 生産職ではない職業、例えば町などに生まれて行商人の職をやるならば必要だろうけれど、そうでないなら地理など自分の生活圏以外は知る必要がない。

 または決まった住所を持たない冒険者も地図に触れる事があるだろう。

 ともあれ、ヨハンもこの場の人間が地図を知っているとは思っていない。


 一つ頷いて立ち上がったヨハンは、机の引き出しから地図を取り出し、皆が見える様に広げて見せる。

 それは大陸ではなく、彼らの住むアースガルズ王国の地図だった。その中心の円形に枠度られた土地を指さす。


 「ここが僕達の国、アースガルズ王国の王が直轄する地域。王都はオーデンセ城の城下町、ヴァーラスキャールヴだね」


 皆、初めて見る地図に感嘆の吐息が漏れている様子だった。

 ヨハンはそれの様子を横目に、話を続ける。


「そしてこの国は周囲を4つの州が囲むように存在している」


 ヨハンがぐるりと指を這わせた中心の円の周囲には、それぞれ北西にアールヴヘイム州、北東にミズガルズ州、南東にヴァナヘイム州、南西にニザヴェッリル 州と記載された場所があった。


「今僕達が居るのは、ここヴァナヘイム州の最南端、オーティウム村だ。この州はマリルボーン公爵家が統治している場所で、州都はナイツブリッジ。かつては王都を除く4つの州の中で一番領地が少ない州だったらしいけれど、20数年前に起きた内戦で1番領土を増やしたとされている。確か支配面積は2位だとされている」


 全員が再び吐息を漏らす。

 今まで触れた事のない情報は、きっと中々イメージがつかないだろう。


「僕は、まずこの州都ナイツブリッジを目指し、貴族とパイプを作って王族へアプローチしたいと思っている」


 そう言って全員を見渡すヨハンだが、全員からの視線は未だ疑問符が浮かんだままだ。


「えっと、それって王様に頼んで勇者一行に加わるって事、かな」


 ベズィーだった。

 次いでコギルが腕を組んで言う。


「確かに、勇者一行に加わるってどうやるのかしらないな」


 その言葉に、ヨハンは一つ頷いて言葉を続けた。


「そうだね。勇者の部隊は王派閥が管理する部隊だから、参加するには貴族の推薦と併せて王の許可が必要になる。この推薦はマリルボーン家か、もしくはマリルボーン家と王の力関係によっては王直属の貴族にパイプが必要だね。そして、そのパイプ作りが終わったら、もう一度方向を決める作戦会議をしたいと思ってる」


 何故だ? という顔をするコギル。

 ヨハンは、これが本題だという事を強調するように、少し身を乗り出し、言った。


「僕は。いや、僕とシモンは、最終的に勇者一行に加わらなくてもいいと思ってる。だから、もし勇者一行に加わる事が目的という人とは、行動を別にする事になるかもしれない」

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