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世界が違えば最強だったかもしれない

─初訓練:トーアーサ・ウェイク編─


 ポルルとの模擬戦は、俺が調子に乗ってしまったせいで彼の実力を出し切れないものになってしまった。

 勿論彼は決して弱くない。種族的な特性から言って、精霊魔法の使える彼はかなりの強さだろう。

 けれど、実戦ではどうかと言われると、難しい所だ。

 恐らく、ベズィーの方が実戦に向いているだろうし、運用がうまくいかなければ、この中で最弱となってしまう。

 一芸に秀でるというのはそういう事だ。ハマれば強いが、人生なんてそうそう思い通りに進める事はできない。

 

 まあ、とは言っても、個人で弱点が多いとしても、それを周りがカバーする事ができるならば、その尖った部分を伸ばすのもいい。

 精霊魔法には未知な部分が多いが、それでも魔法を発生させているのは自分の内側の存在だと推察されるから、俺たちが使う魔法の仕組みを教えるのも悪くないかもしれない。


 そんな事を考える俺を置き去りに、ポルルはヨハン達と水蒸気爆発について盛り上がっている様子だ。

 この世界での魔法の運用は単純だ。

 火の玉は相手にぶつけるだけだし、風の魔法は相手を吹き飛ばす事にしか使わない。

 高温の火を水に突っ込んで水蒸気爆発を起こすなんて考えもしないし、水を足元に撒いて滑りやすくし、風魔法を使って転ばせ、その泥まみれの体に冷気を送って体の芯から冷やして体力を奪うとか、そういう事をするのは俺くらいだ。


 ……そういう魔法の使い方をすると白い目で見られる事が殆どだしな。


 ともあれ、この水蒸気爆発は、かつての友人が大好きだったものだ。

 水は蒸発すると体積が約1,700倍に膨らむ。大量の水を一瞬にして蒸発させることによって起こす爆発は、少ない魔力で派手な爆発を起こすと大絶賛だった。

 彼女は、今も元気だろうか。

 

 空を見上げて思い出に浸りそうになる俺の耳に、靴の先で地面を蹴って感触を確かめるような音が入ってくる。

 トーアーサだ。

 彼女は俺の少し前に立ち、体の感触を確かめるかのように跳ねたり、伸びをしたりしていた。

 その眠そうな目がこちらの目と合うと、彼女は口を開いた。


「次、私だよね」


 言いながら柔軟体操を始める彼女。その目は全てに興味がなさそうにも見えるし、やる気を感じない。

 けれど、その体に流れる魔力は、これからの戦いに向けて循環をしており、闘争心も顕わに四肢にいきわたっている。


(表情に出さないタイプか。しかし、美しいな)


 俺は思わず胸中で感嘆していた。

 ヨハンやシモンも、膨大な魔力を早く循環しているし、ベズィーやコギル、ポルルも魔力量が非常に多く、まるで滝のように体を流れている。


 だが、トーアーサのそれは、荒々しさではなく、美しくゆっくりと四肢をめぐっており、まるで体が一つの大河の様だ。

 幼少期から魔力の流れを意識して訓練していたヨハンとシモンですら、ここまで美しく、体に合わせて隅々まで流れる魔力操作はできないだろう。

 そしてその伸びやかな体は、その強力な魔力を隅々まで流す事に耐える程に強固で、それでいてしなやかで美しささえ感じる程なのである。

 俺は彼女の才能に、そしてその才能の完成度の高さに見入ってしまう。


「なに? ジロジロ見ないで欲しいんだけど」


 彼女の声に、はっと我にかえった。

 よく考えると、年端のいかないトーアーサの体をジロジロ見るおじさんの構図になってしまっている。

 俺の頭の中では羞恥が縦横無尽に駆け回り、その動きが目に現れそうになって誤魔化すように目を瞑った。


 才能。俺にはないものが、まるでデパートのバーゲンセールのように並んでいる。

 ベズィーは勇者一行にすら匹敵する天才だ。しかし、そこにはどこか歪さが見え隠れする。

 コギルも、ある意味努力の天才と言えるし、ここにいると霞むが、普通の村や町であれば紛れもなく天才と呼ばれる部類だろう。

 ポルルも天才と言えるだろう。やはり精霊魔法は感覚的に魔法が使えて、燃費がよいのだから、この年でそれを意のままに使える事実は、まさに驚愕だ。

 トーアーサは模擬戦闘をするまでもなくわかる。彼女は天才だ。

 魔王から移植した目に映る魔力の流れの美しさ。これこそ努力だけでなんとかなるものではない。

 体の構造、魔力を生み出す細胞の量。全てが揃って初めてこうなるのではないだろうか。

 俺の心に、ズシリと何か重いものが産まれた。この中のどれか一つの才能でも俺にあったなら。そう思わずにはいられない。

 こんな年端もいかない子供たちに劣等感を抱くなど情けない事かもしれない。

 いい年をした大人として、最低なのかもしれない。

 けれど、どうしても羨ましいと思ってしまう。

 俺にその才能があったなら、もっと……。


「どうしたの? やらないの?」


 その声に、はっとして目を開くと、既に二本のナイフを逆手に持ち、ボクサーのような恰好で構えるトーアーサが居た。

 それは正に一瞬で間合いを詰めてきそうな程に柔軟で、したたかさを感じる構えだ。

 不意に、俺の視線がヨハンとシモンの方に流れた。

 二人は、俺を見ていた。トーアーサではなく、俺の方を。

 その目はキラキラと輝き、何かを期待し、何かを得ようとする貪欲さが見える。


 そうだ。もし俺に才能があったとしたなら、英雄譚の中心に立てたかもしれない。

 それは大衆の視線を一身に浴び、貴族や王族から期待の目をむけられたのかもしれない。

 けれど、才能が無く、世間から視線を向けられなかったからこそ、こうして二人を

育て、今その大切な二人からキラキラとした視線を向けられている。

 それでいいじゃないか。何を不満に思う事がある。

 俺は木剣を握り、一つ鼻で笑う。


「全力でかかって来い。トーアーサ」


 そう言った俺の心は幾分か晴れていたが、それでも、もやもやとしたものが残った。

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