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最強なのに最弱

─初訓練:ポルル・ハルビャルナルソン編─


 林の中でベズィーとの模擬戦を終えた俺は、このままポルルとの模擬戦を行う事にした。

 ポルルを見やると、緊張しているようだが、両の拳を胸の前で握り、「頑張るぞ」と戦意を高めている様子だ。

 実際に、彼は村人たちの中で戦闘能力だけで言えば一番高いのではないかと思う。

 なぜなら、彼は精霊魔法という一種ズルいとも言える力を持っているからだ。

 そんな彼が、こちらに向かって言う。


「よろしくお願いします!」


「ああ、わかった。肩の力を抜いて、気楽にな」


 頭を下げる彼に、俺は手を振って答えておく。


「ヨハン、杖を」


「はい、父上」


 俺の声に、まるでそう来ると思ってましたと言わんばかりに素早く手渡される杖。

 まったく、本当に気が利く子だ。勿論ヨハンだけではない、隣で汗を拭く為に用意してくれたであろうタオルを持っているシモンもだ。

 俺はそんな二人に感謝の気持ちを込めて「ありがとう」と言い、タオルを受け取って汗を拭く。

 それはまるで、先ほどベズィーの周りに見えた光景の痕跡を消そうとする行為のようだった。

 いくら入念に汗を拭っても、ベズィーへの心配、それと同時に自分の左目への不安が拭いきれずに残ってしまう。

 あの光景は一体何だったのか。そして、なんとなく魔力が見えるとだけ認識していた左目は、どういう能力を持っているのだろうか。

 理解できていない情報、わからない事は不安というもやもやとした塊となって心に溜まっていく。

 これへの対処法は多くない。理解するか、目を逸らすかの二択だ。

 目を逸らしていいものではないが、今は情報が少なすぎるので理解もできないだろう。

 だからこそ、懊悩してしまう。悩む、という行為は解決できない問題に直面した時に何もできずに立ち止まってしまう行為に似ている。

 俺は、立ち止まる事よりも前に進む事にした。

 今はこの問題から目を逸らし、情報が集まった時、解明して理解する事にしたのである。

 まあ、未来の自分への丸投げとも言えるのだが。

 ともあれ、今はなすべき事をやるべきだ。

 そう思って、再度ポルルに視線を向ける。

 彼はずいぶんとやる気に満ちている様子だった。柔軟体操を行い、手を握ったり開いたりしている。


 精霊魔法の使い手は、基本的に武器を使わない者も多い。

 人間の魔法使いであれば、体内から体外へ魔力を流す際に増幅し、かつその魔力を損なわない様に魔導効率の良い物質で作成した杖などで武装する。

 特に長杖はその本体の中で魔力を循環させ、魔法として魔力を放出する際にかなりの増幅ができるように設計されている事が多い。

 だが、精霊魔法にその常識は通じない。

 何故ならば、精霊魔法は体内の魔力を殆ど使用しないからだ。

 精霊魔法のメカニズムはまだまだ研究が必要だが、体内から、脳波に近いなんらかの魔力の波を発生させ、大気中の魔力に作用させる魔法ではないかと思う。

 だから精霊魔法の使い手は、森などの方が力を発揮するのだ。

 なぜ森だと力を発揮するかって? 実はこの世界の植物は、微弱な魔力を発生させているのだ。

 だから原理で言えば、精霊魔法の使い手が力を発揮するのは、魔力を発生させている媒体が多い場所。つまり植物が多い場所、人が多い場所、魔物が多い場所、魔族が多い場所となる。

 精霊魔法の使い手であるエルフも性質が異なるが魔力を発生させているので、エルフが多い場所でも力を発揮するだろう。


 ただ、ここで間違えてはならないのは、周りに魔力が満ちているからといって、エルフが無条件に強くなるかというとそういう訳ではないという事。

 最大限の力を発揮できる、というだけで、本人の魔法の技術があがる訳でもないし、精霊魔法を使用するために発生させる脳波のような魔力の行使も、巧い下手はあるし、使用すれば人間の使う魔法ほどではないにせよ、それなりにエネルギーを使う。


 と、いうのは全て俺の独自の研究による持論だ。

 この世界では魔法とはなにか、という問題に対して特に研究される事はない。

 なんなら、人の体を動かすエネルギーに関しても、「そういうものだ」くらいの認識でしかない。

 

 ともあれ、精霊魔法とは、人間の使う魔法とは異なるものであるという事。

 そしてそれは自身の魔力ではなく、大気中にある魔力に干渉して引き起こす事象であるという事。

 つまりは、人間の魔法よりもコストが低く、理論で言えば人間の体内で生成されるよりも大きな魔力を扱う事が可能かもしれない、そんな魔法なのである。


 人間社会で生活するポルルにとって、それを使用できるのは大きなアドバンテージだ。

 さて、どの程度の実力を発揮してくるのだろうか。


 人知れずにやりとした笑顔となってしまった俺は慌てて仏頂面を張りつけ、再度審判役を買ってくれたピュズリに目で合図する。


 頷いた彼女はポルルに一瞬だけ優しい目を向けたのが見える。

 それはまるで、精一杯がんばれと応援している様にも見えるし、無理するなよと警告している様にも見えた。


 ともあれ、もう始まるようだ。

 彼女の異様に若い声が耳に飛び込んでくる。


「はじめ!」

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