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いつかどこかで④

「うおおおおおおおおおお!!」


 林の中に、俺の声が響き渡る。

 その声に力があったかのように、俺の体は強制的に腰から回転力を生み、その回転力が腕をまるで鞭のようにしならせる。

 一見すると、脱力して剣の遠心力で振っているように見えるかもしれない。

 実際は、体の中心から魔力によって生まれる決して人間では生み出せない回転力を、下手に腕で疎外しないように脱力して流しているのである。

 結果、凄まじいスピードで飛んできた矢を破砕した。


 矢の飛んできた方向からは、「うえええ!? まじ!?」というベズィーの声が聞こえる。

 彼女なりの必殺必中の策だったのだろう。

 それを叩き潰されたのは想定外だったかもしれないし、ショックなのかもしれない。

 けれど、驚くだけなのはよくない。それよりも先にやる事があるはずだ。寧ろ、戦闘中に驚きを表現する必要なんてない。

 俺は足元の小石を左手で拾い上げ、軽く魔力を纏わせてベズィーの方向に投げつける。

 「痛!」という声が聞こえたから、命中したのだろう。まだ実戦経験のすくない少女には厳しいかもしれないが、俺は叱咤の声を上げる。


「今のが魔法なら死んでいたぞ! もう降参か? ベズィー!」


 俺の声が届いた刹那。ベズィーは鉈を逆手に持ち、とびかかって来た。

 小気味いい連撃。コギルの様な一撃の重さはないが、リズム感があり、時々わざとリズムを外して切りつけてくる。

 驚くべきは、鉈を持つ手の形だ。

 鉈の柄には小指と薬指のみが巻き付いており、つまりは2本の指と手のひらだけで鉈を掴んでいるのである。

 それにしてはしっかりと斬撃にある程度の力が乗っており、こんな技法を見た事がなかった。

 恐らく、ケティルは近接戦闘の際は格闘を用いるが、彼女は鉈による片刃の剣術を選んだのだろう。

 それにしても、普通は「持ち替える」という方法になる。ベズィーはきっと、鉈を振るいつつも弓矢を放つという離れ業を可能にする為に、弓に使う親指、人差し指、中指を空けているのだ。

 弓を使いながら武器を使う。発想は子供っぽいが、それを可能にしているのは卓越した魔力操作の技術。それが無ければ、極端に軽い斬撃になるか、悪くすれば鉈がすっぽ抜けてしまうだろう。

 やはり天才なのだな、と思うと同時に、子供だなとも思う。

 斬撃の速さ、適度な重さ、テンポ。これは魔力操作が苦手な相手や、鎧で武装していない相手には非常に強いだろう。

 だけれど、魔力を纏った相手には軽すぎる。これはあくまで「魔力を持っていない相手を斬る」事に特化した技術と言ってもいい。

 つまり、動物に対しては強いが、武装した人間や魔物には効果が薄いだろう。


 それに、彼女は上半身に意識が向きすぎている。

 弓も、そして今行っている斬撃も、全て上半身と下半身を切り分けてしまっている。

 だから斬撃に重さがない。といって、下半身を使って斬撃に重さを足してしまうと指二本というグリップの弱さでは難しいだろう。

 最適解まで至っていない。切り分けるのであれば、切り離して活用すべきだ。


 近接戦闘における課題と方向性は大体見えてきた。そろそろ終わりにするか。

 ベズィーは必死な顔で鉈を振り回している。

 その速度は目を見張るものがあるし、動きもいい。

 ある時は回転し、ある時はすくい上げ、ある時は縦に回転して切りつけてきたりもする。

 多種多様な方向から、リズムよく切りかかってきており、時折リズムを外す動作も素晴らしい。

 だけれど、攻撃際に必ず目線が攻撃箇所を見ているし、足の向きがその方向を向いてしまっている。

 つまり、全神経を鉈を振る事に向けてしまっているから、動作が分かり易いのである。

 この輪舞を終わらせる為に、俺は彼女の目線から次の動作を読み、軽く足を払う。

 すると、冗談のように彼女はよろけ、そして転倒した。

 「ぴぎゃ」という、人間のものではないような悲鳴が聞こえた気がするが、気にしない、俺は彼女に木剣の剣先を向け、終了を宣言した。


「ここまでだ。よく頑張ったな、ベズィー」


「あー、やっぱり敵わないかあ。だってヨハン君のお父さんだもんねー」


 にこにこと、さわやかな笑顔で頭を掻くベズィー。


「あの矢の数をごまかす手はよかった。工夫したなと思う。まあ、実際の戦場で通用するものではないが、俺が君の残弾を知っているという状況を上手く使ったな」


 言われて、ベズィーは嬉しそうな顔をする。

 11射目、やけに威力のなかったあれは、きっと木の枝を投げ槍の要領で投擲したものだろう。

 そうして、発射本数を誤魔化したのである。

 その工夫を褒めてやると嬉しそうに笑うベズィー。けれど、彼女が人の好い笑顔を見せる度に違和感が付きまとう。俺は人知れず心の中で震える心地だった。

 彼女の心を知らなくてはならない。


「なあ、ベズィー」


「はい! なんでしょうか!」


「どうして、頭を狙った」


「?」


 不思議そうな顔をするベズィー。

 だが、これは確かめなくてはならない。

 果たして、友人の家族に、模擬戦とはいえ刃物のついた矢を全力で、それも頭を狙って打つなどという事が常人の神経で出来るだろうか。

 先に模擬戦を行ったコギルも、顔や首など、致命傷になりそうな場所は避けていた。

 これは意識して避けたというより、殺そうと意識しないとそんな場所は狙えないだろう。

 ならばベズィーはこちらに殺意があったのだろうかというと、そうではない。

 全く殺意が無かったのだ。

 魔力があるとはいえ、あれほどの矢を頭に受ければ、普通はただじゃすまない。

 この子は、ヨハンやシモンと共に旅をする事になるのだ。だからこそ、今のうちに確かめなくてはならない。その危険性を、その異常性を。

 しばらく考えて、彼女は口を開いた。

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