いつかどこかで
─初訓練:ベズィー・シモンズ編─
コギルとの模擬戦を終えた俺は、ふらふらになりながらも立ち上がる彼を子供達に任せ、次の模擬戦を行うために気持ちを切り替えようと目を瞑った。
コギルという青年はとても好感が持てる人物だった。
最初は反抗的だったが、それは結局、責任感が、いや、想いが強いからという事だろうし、俺に負けて涙を流した彼が、最後はこちらの事を「師匠」と呼んだのには驚いた。
とはいえ、少し荷が重くもある。
俺は結局持たざる者だ。今は彼に出来る全てを伝えるが、師は別の、もっと才能ある人物にして欲しい。
俺ができるのはせいぜい、出来ない人間が、どうすれば出来る人間と並ぶ事ができるかという所までだ。
その先、より実力を伸ばすのならば、才能あふれた、実力ある存在に師事される方が望ましいだろう。
そんな考え事をしている俺に、声がかかる。
「ペトロさん! 次は誰ですか!?」
快活で、キラキラとした目をして声を掛けてきたのは、ベズィーだった。
彼女は普通にしていると元気で前向きな少女で好感が持てる。
けれど、ヨハン達の話によると、恐らく村のメンバーたちの中で一番の強者である事が推察されるほどの使い手だ。
別に順番を決めている訳でもない、次はベズィーと模擬戦をしよう。
「問題がなければ、君にしようと思うが、どうかな」
「本当ですか! がんばるぞー!」
そう言って、ぐっと拳を作るベズィー。そして、彼女はヨハンの方を向き、何故かおずおずと声を掛けた。
「ヨ、ヨハン君!」
「ん? なんだい? ベズィー」
コギルと会話していたヨハンではあるが、話しかけられた事によって、顔だけベズィーの方を向いて応えた。
それに対してベズィーは、顔の下で何故か先ほどよりもか弱く拳を作って言う。
「……頑張るから、見ててね」
「うん、応援してるよ、頑張ってねベズィー」
変なやりとりだ。いつも元気なベズィーが彼女らしくない。
ヨハンと何かあったのだろうか。
そう思ってシモンに視線を向けると、彼女はこちらの視線に気付き、やれやれ、といった表情で肩をすくめた。
謎は一層深まった。
ともあれ、やる事は変わらない。俺はベズィーに向かって簡単にルールを確認する事にした。
「ベズィー、獲物はいつも実践で使っている装備で構わない。俺は木剣でいく。あと、君は狩人だ、近接戦闘は厳しいだろう。だから、ある程度距離を設けてスタートしよう」
「はい!」
俺の説明に、思わずいい子だ、と頭を撫でたくなる人好きのするいい笑顔が返ってくる。
「庭では狭いから、裏の雑木林に行こう。その方が、君の本領を発揮できるだろう?」
そう言うと、更に輝く笑顔となったベズィーが再度元気よく「はい!」と返事を返してきた。
雑木林に到着した俺たちは、矢を使う模擬戦の危険性をヨハン達ギャラリーに強く警告し、なるべく距離をとって観戦してもらう事にした。
そしてベズィーには、好きな位置から始めるといいと伝えてある。
開始の合図は、ベズィーに帯同してくれているピュズリが魔法を上空に打ち上げてくれるそうだ。
そうして、いつ始まるかわからない模擬戦に備えて屈伸をして体を温めていると、遥か遠い場所から上空に向かって炎の玉が打ちあがり、空で爆発するのが見えた。
俺は、呟くように言う。
「さあ、どう来る? ケティルの後継、ベズィー・シモンズ」
俺は、自分が少し楽しみで興奮している事に気付き、苦笑いをしながら周囲を警戒するのだった。




