表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/131

面談


─ハルビャルナルソン夫婦の場合─


「という訳で、あんたあの子たちを鍛えてやっておくれよ」


 どういう訳だ。と問いたいが、それは置いておこう。

 ここはリビングである。ソファテーブルを挟んで向かいには一組の夫婦が居た。

 金色の髪に、少し尖った耳。茶色の目が下がった目尻に収まった、見た目は10代後半の様に見える女。

 ピュズリ・ハルビャルナルソンは少女の様な甲高い鈴の音の声で、老獪な喋り方をする。

 傍らの夫、ケティルは頭を申し訳なさそうに頭を搔きながら「すまねえな、ペトロ」と低く無骨な声を弱々しく発していた。


 俺は渡された資料に目を通しながら疑問を口にする。


「彼らはアブセンスの人間なんだろう? 鍛えてどうするつもりだ?」


 その言葉に、ピュズリはにっこりと笑って応えた。


「そんなの決まってるじゃないか。あんたの子供たちの旅に加えておくれよ」


「いや、簡単に言うが……」


 言い淀む俺に、ケティルが真剣な表情で言った。


「頼むペトロ。あいつらには、好きに生きて欲しいんだ」


 その声に、思わず俺は閉口した。

 何故なら、その考え方は『一般的ではない』からだ。


 言いたいことはわかる。俺の前世の世界ならケティルの言葉は諸手を上げて受け入れられるだろう。

 けれど、この世界において、村で生まれた人間は原則一生村を出る事はないのが普通だった。

 何故かというと簡単だ。他の生活拠点が物理的に遠いからだ。

 転生前の日本では、車もあるし電車もある。なんなら飛行機だってある。

 けれどこの世界の人たちはよくて馬だ。村人など、明日食うのも大変な事が多いから、徒歩という手段以外は難しいだろう。

 前世で東京から大阪まで新幹線で2時間半寝ていれば着く感覚だが、同じ距離でもこの世界の村人は死と隣り合わせの危険な道を、闇に怯えて野営しながら半月は歩かなければならなかった。

 

 そしてそんな苦労をして都会に辿り着いても、伝手がなければ仕事は難しいし、原則世襲制の仕事が多い。

 パン屋の子供はその技術や家財を相続してパン屋を継ぐ。大工の子供はその技術やコネ、道具を継いで大工になる。

 職業を自分で選ぶという概念があまりないし、選ばなくていい方が幸せだという価値観の世界なのだ。自分で仕事を探したり選んだりしなくてはならないのは不幸な事だとされている。

 つまり村から街へ移住するとすれば、結局冒険者協会に登録して、低賃金で日雇いの労働をする事になる。

 あるいは傭兵組合に自分を売り込み、P.M.C(private military company、つまり民間軍事会社)に就職し命を散らす者も多いと聞く。

 村人が街に移住して成功できる例としては、何とか資金を稼いで住所を得る事が出来た場合だ。

 住所があれば狩人組合に個人事業主として登録する事も出来るので、魔物や動物の素材を売って生計を立てるという生き方もできる。

 だが、この世界の村々では、そういう生き方は好まれない。

 それに、狩りなら村でもできるので、わざわざ苦労して都会で行う必要があるのかという事もある。


 けれど、村人も外に全く無関心というわけではない。

 だから、行商人が村に来た時、または詩人が旅で訪れた時にはその村の有力者達が招いて宴会をするのである。

 外の世界の話を聞きたい若者たちはこぞってその宴会に参加して、ちょっとした非現実に村が活気づいたりもする。


 そして、例外もある。

 有力者に才能を見出された村人は、村を簡単に出る事が出来るのである。

 いや、簡単ではない。有力者はその人物自身を欲する訳ではない。才能や実力を欲するのだ。

 つまり、才能が無いと判断された場合や、実力が期待値を下回った場合はあっさりと捨てられる事になる。俺みたいにな。


 とはいえ、都会にも才能ある人間は山ほどいるのだから、才能を見出されて有力者に取り立てられる村人など本当に僅かだろう。

 その本当に僅かな切符を勝ち取ったケティルの言葉は、果たしてこの世界の村人の幸せに一致する考えなのだろうか。

 俺はなんと答えようか迷っていた。

 

 そんな俺に、ピュズリが気楽な様子で声をかけてくる。


「ま、そんな重くとらえないで、気楽に考えとくれよ。あの子達の人生は、結局あの子達が選ぶもんだし。この話を受ける受けないもあんたがやりたいかやりたくないかさね。だけど、会ってやるくらいはしてやって欲しい、駄目かい?」


 そこまで言われてしまうと、会わない訳にはいかなかった。

 前世だろうがこの世界だろうがどこの世界だって、子供の未来の為に努力をするのが大人の役割なのは変わらない筈だからな。



─ベズィー・シモンズの場合─


「ベズィー・シモンズ、もうすぐ成人で現在14歳です! 魔物や動物の生態に興味があって、夢はいつか誰も見た事がない魔物を狩る事です!」


 俺が面談を許可して、一番目に入って来たのは彼女だった。

 女性にしては少し身長が高い方ではあると思う。細身だが引き締まった肉体を持つ彼女は、笑顔が似合う人間だった。

 ソファに背を伸ばして座るその姿は体育会系の教育を受けたように見える。


 しかし、俺は彼女の自己紹介と違わぬ内容が書かれた資料に目を落とし、不思議に思っていた。

 魔物や動物の生態に興味があるというのはわかる。目の前の少女はきっと心優しい一面があるのだろうという事は想像に難くない。

 だが、なぜ興味のある生き物を狩ろうと思うのか。

 誰も見た事がない魔物に出会ったら、保護したいという方向にはいかなかったのだろうか。

 俺がどちらかというと研究者気質なのもあって、半分わからなくもない。

 確かに興味を持った物質や生物は、分解したいと思ったり、解体してみたいと思ったりもする。

 けれど、一般的にその考えを実行できる人物はサイコパスだし、マッドサイエンティストではないかと思うのだ。

 だから、確認の意味を込めて聞いてみる。


「たとえば、どんな魔物に会いたいんだ?」


「そうですね……ドラゴンとか!」


「なるほど、どうしてドラゴンなんだ?」


「だって! 大きくて強そうでカッコイイじゃないですか!」


「お、おう」


 強くなった圧に、俺は気圧される思いで少し腰が引ける。


「それで! その強いドラゴンを倒した時にこそ、私が淘汰したんだ! って自然を感じられると思いませんか!?」


 うん、サイコパスだこれ。

 

 彼女は前世で言うと欧米でよく見かける恐竜に憧れる無垢な少女の心を持ちながら、独自の理論で命を奪える猟奇的な殺人鬼、もしくはマッドサイエンティストの感性を有しているように思えた。

 彼女の説明では、なんでその結論になるのか常人には理解できないかもしれない。

 因みに俺は理解できない。


 けれど、だからこそ可能性を感じた。

 とんでもない才能や、普通より優れた何かなんてものは、結局のところ何かが正常ではない証明のようなものだ。

 普通の性格で普通の体なら、普通の事しか出来ない。普通ではない思考や普通ではない感性が備わっているからこそ、普通ではない結果を生む事ができると俺は思っている。

 俺は凡人でしかないから、確信をもって言える訳ではないが、目の前の彼女は、少なくとも田舎の村で生涯を全うする事が幸せになるような人物ではないように思われた。

 だから、俺は彼女に質問を続けた。


「わかった。で? 狩人の手伝いをしているんだって?」


「はい! まだ未熟ですが、村では腕がいいって言われる事もあります」


 それはそうだろう。資料によると、ケティルが指導している事もあって弓に魔力を通わせて放つ事ができるらしい。

 魔力とは不思議なもので、空気の抵抗を極端に下げる事が出来るのだ。

 つまり、遠距離であっても普通では考えられない程真っすぐに飛ぶという事。

 そして威力も高くなるのだ。

 いいこと尽くしの様に思えるが、魔力を物質に通す事に比べて、体を離れた後も魔力が保たれるようにするのはかなり難しい。

 俺もヨハンやシモンも出来ない事はないが、独特な集中力が必要なため、実践で使用できるかどうかは疑問だ。

 ケティルですら、戦闘では肉弾戦が多めで、弓はたまに使うくらいに留めているくらいである。

 それを実際の狩りでも行っているというのだから、相当な才能を持っていると思われた。

 俺は、もう心が決まっていた。

 ヨハンやシモンについていくかどうかは彼女自身が決めるとして、俺なりに彼女を育ててみようと思う。

 別に狩人として成功しなくても面白い事になりそうだ。そう思わせるほど、ベズィー自身が輝いて見えたという事が決め手だった。


「わかった、ベズィー。訓練は数日後からになるが、やってみるか?」


「はい! お願いします!」


 こうして、ベズィーとの面談は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ