帰省⑤
俺はひとしきり説明を終え、全員を見渡していた。
ピュズリやケティルは見慣れた顔だ。眉間に皺を寄せた何とも言えない顔である。
これは本当に好意的な顔だと認識している。
色々ぼかして伝えたし、特に移植手術などは転生前の世界の知識なので、説明するのも憚られる。
この世界の医療技術など、半分は薬学、半分は祈りだとかそういうものだったりする文明レベルなのに、外科手術の話をしても混乱するだけだろうし、理解されるとも思えない。
リリィの事に関しては、俺も本当になんでこうなったのかわからんのだから、説明のしようがない。
ただ、ヨハンとシモン以外は俺がスケルトンを生み出した事を知らないから、その辺りはぼかしてふんわりと『偶然スケルトンの作成に成功した。よくわからないが元々人間だったらしい』という感じで話している。
そういえばヨハンやシモンにも、リリィをどうやって作成したのかなどの話はしていなかった気がする。
こういう、前世の知識交えての話をした時に、人は大概「何言ってんだこいつ」とか、「ふざけているのか」といった顔になる。
ケティルやピュズリのように、「理解しようとしたけどダメでした」という顔をする人は、俺の味方で居てくれる人たちだ。
まだ自己紹介を受けていないが、周りにいるアブセンス村の子供達も、一人を除いて似た様な顔をしているから、彼らも俺に好意的なのだろう。
一人、眠そうな目をした少女は少し胡散臭いと言いたげな目をしている。
リリィ作成の話の時に目を煌めかせていた、ベズィーと呼ばれていた少女とはまるで対極だった。
ただ、そういった顔は見慣れている。
けれど、ヨハンとシモンはまた違った顔をしていた。
ヨハンは話が進むにつれ、暗い顔になり、最後には顔を伏せてしまった。
彼は頭がいい。そして、優しい子だ。
きっと、移植手術の安全に関する不透明性や、リリィの不確定要素など、不安に感じる部分が多々あって、俺の事を心配してくれているのかもしれない。
その上で、自分に何ができるだろうかと考えてくれているのかもしれなかった。
今すぐ心配しなくていいと言ってやりたいが、言葉だけでは伝わらないかもしれない。
一緒に生活していく上で安心していって貰うしかないと思われた。
シモンは眉を寄せて悲しそうな、不安そうな表情をしている。
それはそうだ。一年ぶりに帰省したら、親の様相が変わっているのである。
髪の色はまだいいとして、目の色が変わっているなんて、おかしいにもほどがある。
きっと優しい子だから、俺の体の事を心配してくれているのだろう。
俺がそんな事を思いながら二人を見ていると、ピュズリが二人の頭に手を置き、口を開いた。
「それはそうと、うちの村の子らの紹介は後でするとして、数日あたし達も泊まっていいかい?」
「ああ、寝室はいくつか空いているから構わないが、それでも人数分はないぞ」
「かまやしないよ、ガキ共なんざ詰めて寝れば十分さね。ほらあんたたち、ちょっと上の様子を見に行くよ」
有無を言わさないピュズリの態度に、俺は取り合えず空いていない部屋を告げる事にする。
「上がって手前の3部屋は使っているから、それ以外で頼む」
その言葉に、こちらを見向きもせず片手を上げて応えるピュズリ。一同はぞろぞろとそれについていき、部屋には俺とヨハン、シモン、リリィだけになった。
多分、ピュズリなりに気をきかせてくれたのだろう。
その想いを汲んで家族水入らずで話をしようと、入口の近くでじっと立つリリィに声をかけた。
「リリィ、すまないが家族だけで少し話をしたいんだ。上に行った皆の案内でもしていてくれるかな」
言って少し待つ。だが、彼女は動かなかった。
彼女はさっきヘルムを外した素顔のままで、こちらをじっと見ている。
何か言いたい事があるのだろうかと考えるが、彼女は喋る事ができないため、意思の確認が難しい。
結果、俺は問うように言った。
「リリィ?」
沈黙だった。誰も何も言わない。誰も何も行動しない。意図しない静寂が訪れた。
だが、それも少しの間であった。
リリィは、ゆっくりとヘルムを被り直し、静かに部屋から出ていったのである。
なんだったんだろう、と不思議な気持ちをしていると、今度はもっと不思議な事が起きた。
ヨハンが、シモンが、俺の前で跪いたのだ。
そして、肩を震わせたヨハンの声が聞こえる。
「……父上。不甲斐ない僕を許してください」
それは懇願だった。顔は見えないが、恐らく涙を流しての懇願である。
何故そうなるのかわからない俺はシモンの方に視線を向けるが、シモンも同じ様子だった。
ギリ、と音が響く。初めて聞いたヨハンの歯ぎしりの音だった。
「僕はもっと強くなります。もっともっと、賢くなります。だから、わがままかもしれませんが……ずっと、ずっと……」
床に涙が落ちているのが遠目にもわかった。いや、たとえ目を瞑っても、その食いしばった歯の隙間から絞り出すような声が涙で濡れている事は、誰であっても分かるくらいだ。
シモンの耐えるような嗚咽が聞こえてくる。
ヨハンは、そこから先の言葉が喉につかえてしまった様に、必死に何かを口から出そうとしているのがわかった。
その言葉を待った方がいいのかもしれない。
問題と答えをちゃんと知って、それから行動した方が良かったかもしれない。
けれど、俺には耐えられなかった。
こんな二人を、これ以上見ていられなかった。
「ヨハン、シモン、さあ、おいで」
俺は両手を広げて二人を待つ。
顔を上げた二人の顔は、綺麗な顔だというのに、滑稽な程ぐちゃぐちゃだった。
流れる涙もそのままに、二人が飛びついてくる。
それを受け止めた俺は、心の動揺を隠すように、二人の心情が理解できない事を隠すように、優しく抱きしめて言う。
「おかえり。二人とも」
言葉の無い時間が過ぎていく。
何かをかけ違えた様な得体のしれない不安を、触れ合う安心感で覆いつくして、けれど、不安は消えたわけではなくて。
俺の頭の中には、今朝見た夢の中の言葉が繰り返されていた。
『あなたのこれからの選択は、世界の大きな結末に影響します』
今日の違和感が、後に大きな出来事に繋がるような。そんな嫌な予感がした。




