帰省②
シモンの声に反応して全員が武器を手にする。
ヨハンも剣を抜き放ち、目の前の化け物と相対していた。
一方で、この相手には荷が重いと思われる人たち、つまりベズィー達へピュズリが声を飛ばす。
「早くこの場を離れな! あんた達のせいで誰かが死ぬのは嫌だろ!」
嫌な言い方だな、とヨハンは心の中で苦笑する。
だけれど、それは事実だとも思う。
本人達には悪いが、目の前の化け物はとても誰かを守りながら戦える生易しい相手ではない気がしたのだ。
その化け物は、何も言わず、何も動かず、不自然に見える程不動の姿勢で居る。
何かを待っているのだろうか。だとすれば、一体何を。
こういう時のヨハンとシモンの思考は対極的だ。
たとえば甲羅に閉じこもった亀が居たとする。その亀に頭を出させるにはどうすればよいか、という問題に対して、ヨハンはまず観察する。
どういう生態で、どういう環境になれば頭を出さざるを得ないかを考察する。
ではシモンはというと、取り敢えずつついてみるのだ。こちらが起こした行動にどう反応するかを見るのである。
つまり──。
「あなたは何者? お父様はどこ?」
投げかけられたシモンの声に、鎧の魔物は反応を示さなかった。
目の前に居るのに、無視されている感覚。その感覚にシモンは若干の苛立ちを感じたのか、声の棘が更に鋭利になっていく。
「どうしたの? 答えないなら斬っちゃうけど、いいかな」
シモンの挑発に鎧の魔物は何を思うのか。一切反応しない。
この対応は異常だ。こちらの存在を検知して出てきたであろう存在なのに、こちらの言動に一切の反応を示さない。
ヨハンは相手に少しでも動きがあれば見逃すまいとしながら考察する。
相手は動けない訳ではない。事実ここまで歩いてきたのである。つまり、何かトリガーがあるはずだった。
そのトリガーは何なのか。
(僕達が玄関に到達したときにこちらに来て姿を見せて、そこから動かない……?)
ヨハンは視線を動かさず、予測の経過をシモンに伝える。
「シモン、この魔物は恐らく何者かに支配されている存在だ」
それに反応したのは、ケティルだった。
「まじかよ、こんなもんを従えてるやつが……まさか、先の黒髪のテンセイシャみたいなやつか?」
「わかりません。ただ、複雑な命令は与えられていないか、複雑な思考が許されていない可能性が高いです。与えられた命令は恐らく『この場を守れ』という感じでしょうか」
その予測に、シモンは一つの回答を得たようだった。
「わかった。じゃあ、あいつを倒せば話が出来る親玉が出てくるって事だね、お兄様」
少し短絡的な気もするが、それは正解だと思われた。
だから、ヨハンはゆっくりと頷く事で応えとした。
ケティルが舌打ちをしつつ、動く事が出来ずにいたベズィー達に命令する。
「ほら聞いたな! さっさと散れ!」
ベズィー達の足音が聞こえると同時に、鎧の魔物の方にも動きがあった。
ヨハン達は何が起こるのかと身構えたのだが、鎧の魔物がとった行動は──。
後ろを向いたのだ。
まるでこちらの面々に脅威など感じていないかのように、こちらに背を向けたのだ。
これには全員が驚愕し、どう行動すべきか迷った。
その迷いの刹那、家の奥から声が聞こえてきた。
「なんでお前たちがここに? それにケティルとピュズリまで、なにがあったんだ?」
それは、聞き違う筈など無い。尊敬する父、ペトロの声だった。




