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夢の中での邂逅

 あれからリリィと鍛錬の日々を過ごし、一定の充実を伴った毎日を過ごしていた。

 そして、子供達が帰ってくるまでもうあと一か月程かという時だった。 


 俺は暗闇に居た。

 昨夜ベッドに入って入眠するところまでの記憶はある。

 つまり、これは夢という事だろうか。


 目を開けているのか閉じているのかもわからない暗闇。

 この感じは覚えがあると思ってじっとしていると、遥か彼方の前方が、うっすらと光っているのが見えた。

 目を凝らしてその光を見つめる俺に、女の声が聞こえてくる。


『あまり驚いていないようですね』


 予想通りの声に、俺は笑って応える。


「ああ、そろそろ来るんじゃないかと思ってた」


『そうですか。相変わらず、読めない人です』


「その方が楽しいんだろ?」


 一瞬の間。何も聞こえないが、相手はきっと笑ったのだろう。そんな間だった。


『今日は忠告しにきました』


「お前にしては優しいじゃないか」


『私はいつでも優しいですよ?』


 俺は鼻で笑って言葉を返す。


「言ってろ」


『信用がないですね』

 

 言って笑う彼女。

 話が脇道に逸れつつあった。普通の相手ならそれほど気にする事でもないのだが、彼女は決して普通ではないというのが問題なのである。

 例えば、もし時間が迫っているとする。このままだと本題の話ができないかもしれないとすれば、普通は多少強引にでも本題を話し始めるだろう。

 けれど、彼女にそういう考えはないのだ。

 本題の話ができなければそれでもいいと考える。いや、むしろ『本題がある事を仄めかしたのにかかわらず、それを聞こうと努力しなかったのなら、それがその人の選択』と一方的な理屈で割り切ってしまう程度には理解しがたい存在なのだ。

 だから、俺は本題を聞き出そうと口を開いた。


「それで? ありがたい忠告とやらを聞こうか」


 こちらの考えを見透かしたのか、一瞬試すような間のあと、彼女の声が聞こえてきた。


『そうですね。あなたは予想外な事ばかりを起こす人です。その結果、既にイレギュラーな存在が多数あなたと、もしくは『彼ら』とえにしを結びました。これはあなたの物語の結末だけでなく、この世界の物語に大きく影響するとみています』


 俺は眉根を寄せる。

 言っている事の意味がいまいちわからないからだ。

 不足する情報というのは、まるで足りない酸素のようだ。

 意図するしないを別として、本能的に求めてしまう。

 俺は彼女の言葉の続きを待った。


『全く困った人ですよ、あなたは。だから心して聞いてください。あなたのこれからの選択は、世界の大きな結末に影響します。そしてあなたがこれからの一年で何を残すかで、その結末の後に何がはぐくまれていくかに影響します』


「おいおい、世界の結末? なんの才能もない俺の肩には重すぎやしないか?」


『何の才能も持たされなかった理由を、何故だと考えていますか? いえ、言い方を変えましょう。世界の結末を左右する大きな役割を持ちながら、才能を与えられずにこの世界に、魔王を討伐する使命という方向性だけを持たされて遣わされた理由は何故? 仮にも、才能を与える能力を持った神に転生の術を受けたのに。そう考えられませんか?』


「……今まで似た様な事を考えなかったと言えば噓になる。けれど、答えはいつも出なかった」


『そうですか。無理もありません。それに神というのも、人間の概念上で近いからそう呼称するだけで、結局は単に人間と異なる種族でしかありません。間違いだってするし、未来予測を読み違える事だってあるでしょう』


「俺を転生させた神は、間違ったということか?」


『そうは言っていません。ただ、ペトロ、あなたは向いていなかったのでしょうね。そして、そろそろこの世界に何を残すべきかを真剣に考えるべきです』


「まるで俺が死ぬみたいな言い方だな。俺にはまだやるべきことがあるんだがな」


『そうですか。けれど、これは老婆心から言います。傍に置いているあの娘は諦めなさい』


「……リリィの事か?」


『彼女はきっと物語の障害になります。あなたの子供達にとっても脅威になり得るでしょう。全てはあなたの選択の結果です。残念ですが早いうちに処分した方がいいでしょうね』


 残念などとは欠片も思っていないだろう、穏やかな彼女の声。

 俺は胸中で生まれた若干の苛立ちを喉の奥にしまい込み、沈黙を選択する。


「……」


『……そろそろ目覚めの時ですか。それでは、これからどのような物語を紡ぐのか、楽しみにしていますね』


 視界が眩しくなり目を開けると、俺の目には窓から差し込む日の光が飛び込んできた。

 堪らず顔をしかめて腕で目を覆う。


 最悪な気分だが、起きない訳にはいかない。最近日課となったリリィとの鍛錬でもして憂さ晴らしするかと体を起こそうと思ったその時、玄関から鋭く大きな声が聞こえてきた。


「全員抜刀! 戦闘準備!」


 俺は思わず飛び起きた。

 その声は、アブセンスに行っているはずのシモンの声だった。

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