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1人と1体の生活⑤

○○○


 チェルシーの家から帰った俺は、自宅の庭で素振りをしていた。

 木剣を振り上げて、振り下ろす。振り上げては振り下ろす。

 これを繰り替えす。


 素振りには様々な意味がある。

 持っている武器の具合を確かめるため。あるいは剣技などの型を体に叩き込むため。筋肉の鍛錬のため。

 だが、俺は剣技と呼べるものを身に着けている訳ではないし、木剣の具合を確かめても、実践では役に立たない。鍛錬だとしても、ただ振り下ろすだけの素振りで身に着くのは、振り下ろして切りつける時の筋肉よりも、振り下ろした剣を「制止させる」ための筋肉が主に鍛えられる。

 つまり、勢いを止める側の筋肉への負担が大きく、効率的とは言えない。


 素振りの種類を変える。

 仮想敵を想定して、下半身を使って右へ左へと動きながら様々な切り込みを試してみる。

 シャドーボクシングのような素振りだ。

 武器の訓練を自己流でやると、武器を振るう上半身の筋肉ばかりを鍛えてしまう者が多いのだが、偏った筋肉の鍛え方をしていると、戦場で苦手が沢山できてしまう。

 こうして下半身を絶えず動かしながら鍛えるのは効率がよいと言えるが、所詮は自分が思い描いた仮想敵へのイメージトレーニングに過ぎない。

 予想外の攻撃や、不測の事態へ対処する際の筋肉などはつかない。

 常に戦場をコントロールできるならいいが、そうでない場合が続くと疲弊しやすい体になってしまう。

 戦場は敵味方含めて多数の存在が介在する。それを戦場の只中でコントロールしようとするのは効率が悪い。

 起きる事を受け入れて対処する方が現実的ではある。


 「リリィ、頼む」


 俺がそう声をかけると、リリィは薪を凄まじい勢いで投げてきた。

 俺はそれを木剣で弾く。

 右へ左へ投げてくる薪は、或いは上から放物線を描いて、様々な角度から飛んでくる薪を木剣で弾き落す。

 リリィの膂力は凄まじく、弾こうと剣を当てると、薪が爆ぜ割れる程だった。

 それが、10回程続いた後、異変は始まった。

 球速はだんだん早くなり、当たれば命すら危ういようなとんでもない勢いで薪が飛んでくるようになった。

 それだけではない、間隔もおかしい。

 薪を打ったと思った時にはもうすでに次の薪が飛んできているのだ。勿論剛速球で。

 ちらりとリリィの方に視線を向けると、彼女はなんというか、「ノッてきた」ようだった。

 右に左に走りながら、腕が霞むほどの速一投度で薪を投げつけてくる。

 更には飛び上がって投げてくる事もあり、どこから薪が飛んでくるかわからないのである。

 一投一投の破壊力は凄まじく、全力で剣を当てないと逆にはじき返されてしまう。

 いつしか、薪の音とは思えないほどの破壊的な音が連続して響くようになった。


 俺は歯を食いしばって全ての薪を捌いていく。何かを考えていると、体が間に合わない、だから頭の中を真っ白にしながらただただ薪を木剣で弾いていく。

 まるでテニスのノックのようでありながら、あり得ない程の威力と速度と連射性に、体の無駄な動きを排し、俺はただただ効率のいい動きのみに集中していた。


 移植で手に入れた右腕がしなり、移動の推進力は左脚、右足はサポートに過ぎない。

 20投目あたりから薪に魔力が付与されている事が幸いし、俺の左目はその魔力の軌跡をはっきりと視認できていた。

 ゾーンに入る、という言葉があるが、俺はそれを実感していた。

 視覚情報に集中するあまり、音が消えたような世界。

 自分の体の動きが緩慢に感じる程に、先を行く感覚と思考。

 やけに大きく聞こえる鼓動や呼吸の音。

 

 しばし無心で体を動かしていると、唐突にそれが終わった。

 見やると、リリィは動きを止め、当然だが息切れした様子もなくただ立っている。

 傍らにあったはずの200本程度あったはずの薪は、一本もなかった。


 俺は、どっと押し寄せる疲れを抑えきれず、大の字に倒れ込んだ。

 リリィが駆け寄ってくるが、そちらに意識を向ける余裕もない。

 けれど、一つ確信した事がある。


「はあ……はあ……久々に全力で……動いた」


 リリィは覗き込むようにこちらを見ている。

 だから、そんなリリィに笑いかけた。


「リリィも明日から一緒にやろう。思ってたよりずっと楽しいぞ」


 そんな俺の誘いに何を思うのか、彼女はじっとこちらを見ていたのだった。

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