1人と1体の生活④
しかし、いつまでも見つめ合っている訳にもいかない。
俺は久々に向き合ったチェルシーの本当の顔を視界に入れながら、リリィを紹介する事にした。
「実はチェルシーに紹介しようと思って訪ねて来たんだ。彼女の名前はリリィ。彼女は……俺の家族、みたいなものだ」
言葉の最中、具体的には「家族」のところで、チェルシーの眉が動き、視線の鋭さが増した気がした。
それと同時に、リリィはグリンと音を立てるようにこちらを向いた。
尋常ではない居心地の悪さを感じる。理由はなんだろうか……。
チェルシーにとって、リリィは無作法者であって、かつ魔物である。だからそんな人間を家族だと言う俺に思うところがあるのかもしれない。
そしてリリィにとって俺は自分勝手な理由でこの世界に産みだした我儘な主だ。
だから、家族などと馴れ馴れしい呼称はやめて欲しいといったところだろうか。
けれど、俺はこれからリリィの事を説明する時には、家族と説明するつもりだった。
だから、今回はこれで納得してもらうしかない。俺は家族についての引っ掛かりを無視して、このまま言葉を続ける。
「そして、彼女は元人間なんだ。俺は彼女を人間に戻す手段を探そうと思っている」
そこで何かに気付いたチェルシーが口を開いた。
「まさか、背格好は違うように思うのですが、『彼女』ですか?」
「いや、違う。全くの別人だし、生前のリリィの事はよく知らない。リリィは……そうだな、俺のせいでスケルトンとして生きる事になった、というところだ」
「なるほど、そうですか」
そう言ったチェルシーは、殺気を一段階あげた。
ギヨーム村長は、目に涙すら浮かべて、小さく「ひぃぃ」と悲鳴を上げている。
何故だ、と疑問符を視線に乗せると、チェルシーは答える様に口を開いた。
「それで、どうしてそのリリィさんはペトロの腕を親し気に掴んでいるんですかねぇ」
「え?」
言われて見やると、確かにリリィは俺の二の腕辺りを掴んでいた。
何故か言い訳しなくてはと脳裏に浮かび、俺は口をぱくぱくさせながら答える。
「あ、いやあの、お前が怖かったんじゃないか?」
「私、笑顔で話してるつもりですけどねぇ」
いや、怖い。大の大人でも余裕で逃げ出す程度には怖い。
そう思ったが、それは飲み込み、俺はリリィを産みだした経緯、そしてそれからの事。移植手術を行った事。その後リリィが献身的に助けてくれた事を話した。
ギヨーム村長は俺の話に「おお!」「なんと!」「そんな事が!」と大げさな相槌を打って聞いてくれた。
特に、俺が意識を失っている間、リリィが献身的に俺の世話をしてくれていた時の事を話している時など、彼は目から流れる涙をそのままに、時折頷きながら聞いていた。
ひとしきり話し終わった時、チェルシーがこちらに向かって聞いてくる。
「それで、ペトロはリリィの事をどう思っているのですか?」
「質問の意図がわからんが……ああ、そういう事か。勿論、恩は感じているし、絶対に人間にしてみせると思ってる」
俺の言葉に、チェルシーは珍しい表情をした。
眉間に皺を寄せ、何かを懊悩するような、そんな表情だ。
その表情を引っ込めて、普段の顔に戻った彼女は、もう一度口を開く。
「……では、人間になった後、リリィをどうするつもりですか?」
俺はリリィに目をやり、笑いかけてから言う。
「勿論、俺との主従関係から解放して好きに生きてもらうさ。その為の援助も出来る限り行うつもりだ」
俺は真摯に伝えたつもりなのだが、何故か半眼でこちらをじっと見るチェルシー。
何かおかしなことを言ったかなと眉根を寄せていると、チェルシーは立ち上がってリリィの方を向き、握手の形で手をさし伸ばした。
リリィは何の事かわかっていないようなので、リリィの耳元に顔を寄せて言う。
「これは握手という、手を握り合う挨拶だ。相手の手を右手で握ってやってくれ、優しくな」
リリィは、言われた通りにチェルシーと握手を交わす。
チェルシーもしっかりとリリィの手を握り、言葉を発した。
「彼はこういう人ですから、きっとこれからも大変だと思いますが、お互い頑張っていきましょうね」
そう言って笑うチェルシー。
何故かとても居心地が悪い気がして身じろぎする俺に、ギヨーム村長はどういうことだ? と視線で問いかけてくる。
だが村長。その答えを一番知りたいのは俺だ。




