子供たちと森の主㉞
ピュズリは笑い声を上げて言う。
「なんだい、あんた達と一緒に居たくて帰れないってのかい」
ヨハンは顎に手をあて、それに回答する。
「その可能性もあります。ただ一緒に居たいなら天界に僕達も連れて行けばいい、そうできないのは人間を入れてはいけないなどのルールがある、とも考えました。けれど、やはり黒髪の男の件が気になります」
「ふうん?」
わかったようなわからないような顔のピュズリに、ヨハンは続けて説明する。
「世界を旅したピュズリさんやケティルさんが知らないという事は、天生者という存在は一般に知られていない、もしくは隠されている。そしてそれを知っていた父上。黒髪の男は嫌な奴でした。けれど、僕とシモンの剣が折れた後、「あとはお前だけだ」と標的を父上に変えたのです。つまり、命を奪わない選択をした。これは何故天生者を知っているのか、知っているとすればその者はどこに居るのかを聞き出す為に生かしたのではないかと思います」
「大した名推理だね、それで?」
「あくまで推論ですが。偶然や好意的な意味であれば対話をしたでしょう。なぜなら、ここで危害を加えると、その情報の元となる天生者と対立する可能性が高いので。つまり、最初からその天生者を殺すつもりだった。もっと言えば、アブセンス東部でゾンビを発生させていたことも、これに繋がる気がするのです」
「つまり?」
ピュズリの合いの手に、ヨハンは答える。
「父上は、なんらかの禁忌を犯して天から命を狙われている。それは恐らく、僕とシモンをこの世に出生させたことではないかと推測しています」
「って事は、ゾンビ事件は撒き餌だったと言いたい訳だね? そんな話、繋がっているようで偶然の可能性が高そうだけどねえ」
「そうですね」
「まあ確かに、あいつが神様に狙われる生活しているとは思えないから、だとしたらこの世界にその血を宿した子を残すことが禁忌ってのも、まあ、そうなのかもとは思うけど、ちょっとどうだろうねえ」
すでに優しい顔になったピュズリ。きっと、長年一緒に行動した友人が同じ人間ではないと言われている状況に思う所があったのだろう。
けれど、だからといって友情は変わらない、まるでそう言っているかのような表情だった。
そこに、ケティルが神妙な顔で口を開いた。
「なあ、お前らこの国の王の一族の成り立ちについて知っているか」
突飛な質問である。
そもそも、片田舎では王の名前すら知らない事が普通だった。
誰が納めていても生活に変わりはないし、王都の情報など、どこからも入ってこない。
税を納める相手は領主であるから、領主の名前は知っている者もいるが、それも村人全てというわけではない。
毎日田畑を耕し、動物を狩り、パンを焼き、食事して寝る。この生活の中に王室の情報など関係がないし、入り込む余地すらない。
定期的に王室の情報が得られる手段があれば別だが、そんなものがあるはずもない。
だから、王の名前を民が知っているのは王都や都会の一部だけである。
ヨハンとシモンはペトロの教育により王の名前くらいは知っていたが、もしそれから代替わりしていたとしたらわからない。王子の名前は教わらなかったからだ。
そして、王の一族の成り立ちなど知るはずもなかった。
全員の眉間に皺が寄ったところで、ケティルが再び口を開いた。
「初代の王は、神の一人と子を成したそうだ。それからは神の血を引く一族が国を総べる事になっている。だから王の一族は血を大事にするし、貴族も王族の血を取り入れた家という事になるらしい」
またも現れた情報に、ヨハンの脳内はまるで火花がそこここで発生しているような騒々しさとなっていた。
情報がそこら中に散らばり、一つの形として表現されているのに、複数の形が合わさってもっと大きな何かを表現しようとしている。
けれど、それが精細に描かれているわけではなく、まるで印象派の絵画のように曖昧だった。
そこに、パン、と手を打ち鳴らす音が響く。ピュズリだった。
「この話はここまでだよ! さあ、メシが冷めちまう。あとヨハンにシモン、この話はペトロには話すんじゃないよ? あいつも何か考えがあってあんたらに話さないって可能性がある」
頷くヨハンとシモン。もとより話すつもりはなかった。
もしペトロから話してくれるなら、それがどんなに自分達にとって過酷な内容であっても聞くつもりではあるが。
ピュズリは、笑顔の奥に呆れた様な表情を浮かべて、ヨハンとシモンに言う。
「まったくあんたたちには驚かされるね。喋る巨木が支配する森に始まって、神様の世界にそこから来た存在だぁ? ほんとに、世界をどうこうするのは、魔王でも勇者でもなくて、あんた達なんじゃないかねえ」
その言葉にどう答えればいいものか。ヨハンもシモンも変な顔をするしかなかった。




