子供たちと森の主㉛
周りのざわめきがまた大きくなる。
『子供』『まだ魔王を倒していないのに?』『次の時代に進むか』『レーヴァテインは闇に葬られる』『主はどうする』『主の意向を』『また滅ぼす?』『主のお言葉を』『全てを台無しにすればいい』『主のお言葉を』『ニンゲンなど何度でも滅ぼす』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』『主のお言葉を』
ざわめきからコールのようになったその姿なき声に、ベズィー達は戸惑い、流石のシモンも警戒に目をきょろきょろとしている。
ヨハンも、会話どころではないと感じ、周りを警戒する。
しかし、その不穏で不気味な空気を払う鋭い声が、クロヒョウの口から飛び出した。
「おだまりなさい!」
その一喝で、姿なき声はしんと静まりかえり、変わりに木と名乗った巨木が声を発する。
『すまないな、驚かせたみたいだ』
「い、いえ、大丈夫です」
『こちらの知りたい内容は概ねわかった。知ったところでどうなる訳でもないんだけどな』
「そうですか。それであの、もしよろしければ、テンセイシャやレーヴァテインというものの事について伺ってもよろしいでしょうか」
『……うーん……。テンセイシャについては、そうだな、俺から話す事じゃない。言えるのは、君の父親は多分テンセイシャだって事と、そうだったなら、この世界で数少ない俺の友達候補ってところかな』
「とも……だち、ですか。わかりました。必ず父をここに連れてきます」
『マジかよ、ちょっと楽しみだな。こんな気持ちは何千年ぶりかわからないな』
何千年。目の前の巨木は少なくとも何千年の時は超えて生きている。その事実がもはやどういう意味を持つのか、ヨハンには推察すらできなかった。
『さて、もう一つ。レーヴァテインについては……そうだな。どんな強敵でも倒す事ができる最強の武器、とでも言っておこうかな』
「最強の武器、ですか」
『そう、世界最強の脅威であっても、必ず倒す事ができるだろう。けれど、諸刃の剣でもある。つまり世界を滅ぼすほどの力も持っている』
「しかし、そのような武器を父が持っている姿を見た事がないのですが」
『まあ、そういうふうに感じるよな。レーヴァテインを持っていても、あまり大げさに使いたくないのかもしれないな、君の父親は』
「では、このことは胸に秘めておいた方が良いのでしょうか」
『あー、そうだな。まあそうかもな。今まで隠してたんだ、そういう事なんじゃないかな』
「わかりました。ありがとうございます」
『ああ。ところで、君たちは何かの素材が必要なんだって?』
「はい。父が足を怪我したので杖を作りたくて。父は魔法も使いますし、棒術や剣術、一通りの武術が使えますので、補助杖として使えて、更に魔力の通りの良い素材を探しています」
『なるほど。じゃあ、未来の友達候補の為に、一肌脱ぐか』
どういう事かわからず首を傾げるヨハン。
すると、巨木に張り付けられた人間のような部分の胸辺りから、メキメキと音を立てて、一本の太い枝がみるみるうちに姿を現した。
その枝は太く、といって持ち運べない程でもなく、両の手のひらで包もうとしても指が届かない程度の太さであった。
その様を見ていると、巨木から声がかかる。
『この枝をやるから、抜いてくれるかな』
言われて、ヨハンは巨木の下に駆け寄り枝を引っ張る。
予想外にするりと抜けたそれは、大人の身長より少し高いくらいの、おおよそ2メートルほどの長さだった。
『それはミスリルと比べても遜色のないくらい魔力伝導率のいい素材になる。それに、そいつは魔力を吸って成長する。俺が思いつく限りでは、最高の素材だと思うよ』
試しに魔力を巡らせてみると、吸い取られるように魔力が通っていく。
確かに良い素材になりそうだと頷いたヨハン。見やれば、シモンも嬉しそうな顔をしていた。
「ありがとうございます」
『いいさ。ただ、その杖の装飾に二匹の蛇が絡みついた装飾をどこかに施してほしい。あまり大きくなくてもいいから。それが目印になる』
「目印?」
『ああ、そうだ。君の父親に、お前の事を知っているぞって伝える意味もあるし、他にも色々な』
「その色々について、教えてはいただけないのでしょうか」
『君はいい奴だ。なんていうかな、話してみてわかる。だけどごめん、これは俺の一存じゃ話すかどうかを決められない。ただ、ぼかして伝えるなら大丈夫だろう。そうだな、言うなればこうだ。二匹の蛇はこの世界を操作しようとする者達への目印。そして俺の体を使った杖は、俺が参加してるぞ、変な事するなよって警告してる、って感じかな』
わかるようなわからないような、そんな内容。
けれど、この巨木からは決して悪意は感じない気はしていた。
ただ、信頼しきってはいけない、人間とは全く異なる存在の善意というのは、こちらの考える善意とは違うものだと認識する必要がある。
例えば村の人間の半数を虐殺して、「これからこの人たちは凶作で不幸になるから、数を調整して救ってあげた」という場合も善意からくるものである。
人間の価値観ではそんな善意など考えられず、少なからず悪意もあるだろうと思ってしまうが、それはこちらの常識でしかない。
善意か悪意かという事で判断せず、起こる結果がこちらにとって良いか悪いかで判断する必要があるとヨハンは思う。
思うのだが、判断に足る情報が欠如している事も事実である。
それに、父なら何が起きてもなんとかする気がしていた。
だからこそ、この巨木の申し出をそのまま受けてしまおうとヨハンは考えていた。
シモンも恐らく同じ考えなのだろう、特に異論のある顔をしていない。
「わかりました。そのように装飾を付けて父に贈ろうと思います」
『ああ。ヨハン、俺はニンゲンが嫌いだ。でも、お前はイイヤツだし、好きだ。いつか君の父親と話して、仲良くなれたらさ』
巨木はそこで一旦言葉を切り、数秒の後、言葉を続けた。
『そこにいる君とそっくりなお嬢さんも一緒に、俺と友達になってくれるかな』
【tips】
『森の主はおしゃべり?』
元々、森の主のセリフは殆どなしで、クロヒョウと大蛇が代弁する予定でした。
けれど、実際に書き始めたところ、予想以上に話すし、というか大蛇が再登場するシーンも消えてしまっている始末。
きっと、主も人間の事は憎んでいるし大嫌いだけど、元々は優しい性格なので、ヨハンとシモンの事を気に入ってくれたのでしょう。
最後のセリフも、元々は『気を付けて帰れ。また会う日を楽しみにしている』的なセリフの予定だったのですが、ぼっち拗らせているのがバレてしまうセリフになっていますね……。




