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子供たちと森の主㉙

 ヨハン達は入った時と同じように一時間程かけて森を出た。

 道中異常な魔力を持った存在に囲まれている感覚はあったが、襲われることもなく安全に出る事ができた。

 その反動か、森を出て少し歩いたところで、シモンがぺたんと座り込む。


「あー、緊張したぁ」


 ヨハンもそんなシモンの隣に座り込み、口を開いた。


「そうだね、でもシモンのおかげでなんとかなったよ」


「お兄様も頑張ったね、偉い偉い」


 そう言って頭を撫でてくるシモン。

 ヨハンは少し困った顔をしながらシモンに言う。


「ありがとう。けど、恥ずかしいからやめてくれるかな」


「えー、お父様の代わりに褒めてるのに」


「うーん……気持ちは嬉しいし、父上にも褒めて欲しいけど、やっぱり恥ずかしいかな」


 そこに、ベズィーが会話に参加してくる。


「でも、ヨハンくんもシモンちゃんも、全然緊張した感じしなかったよ? ヨハンくんは余裕ある感じだったし」


 それに対して、ヨハンは握手の形で手を差し出す。

 なんのことかわからない様子のベズィーだったが、差し出した手を握り返してきた。

 ヨハンは困ったような笑顔でベズィーに向かって言う。


「ほら、手汗すごいでしょ? 僕は代謝が良くないから、あんまり汗をかかない方なんだけどね」


「ほんとだ、すごいね、そんなに緊張する場面だったんだ?」


 そのやり取りに、コギルも参加してくる。


「ほらそこ、いちゃいちゃすんな」


 その言葉に、真っ赤になったベズィーがあわあわと口を開いた。


「別にイチャイチャなんかしてないし」


 全員が笑顔になり、ほのぼのとした雰囲気が一行を包む。

 だが、まだ目的は達成されていないのだ。

 その事を思い出すかのように、シモンが険しい顔をして言った。


「でも、あの森は本当にすごいね」


 ヨハンは一つ頷いて続ける。


「ああ、道中の魔物達がそんなに強くないから少し自惚れていたかもしれない。僕たちはまだ殆ど村から出ていない、世界を知らないんだって事を思い知らされたよ」


「うん、あのお父様ですら、自分は世界の中で弱い方の存在だって言ってたもんね。私たちは非戦闘職の人たちよりは多少強いけど、その程度なんだって改めて実感した」


「父上が弱い方っていうのは、ちょっと大げさだと僕はいつも思ってるけどね」


「私も。だってお父様って普通に考えて高みにいるでしょ」


 そう言ってヨハンとシモンは笑い合う。

 だが、ベズィー達は何かが納得いかないという表情で眉根を寄せていた。

 耐えきれなくなったのか、コギルがヨハンに声をかけた。


「なあ、俺も村から出た事はないんだけどさ。ヨハンは信じられないくらい強いと思うんだ。そんなお前なら、あの森の連中くらいなんとかなるんじゃないのか?」


 それに答えたのはシモンだった。


「絶対無理でしょ、ハイブフェアリーと白い蛇が、主っていう存在の会話してる時点で戦力差がわかるし」


「あの妖精と、大蛇が強いって事か?」


 どういう意味かわからず問い返すコギル。

 だが、確かにシモンの説明は分かりづらいかもしれない。

 本来、ハイブフェアリーは肉食の種族だ。大蛇も草食という事はないだろう。

 基本的に肉食の生き物は他の種族と群れる事があまりない。

 ゴブリンが家畜や乗り物という意味で飼育している事はあるが、それは知能の低い生き物を飼育しているに過ぎないのである。

 同等の知性を持つ種族同士が、主という存在の下で共存している。

 この事実は、ハイブフェアリーと大蛇だけとは限らないのである。

 その他様々な森の生物が主という存在に従っているのだと考えると、姿は見えない周囲に居た凄まじい魔力を持った存在達も、結局は主という存在の支配下にあるという事だと推察される。

 だから、ハイブフェアリーや白い大蛇に対して個別に敵対する事は不可能で、どれかと敵対した場合は森全体が襲い掛かってくると見た方が良いだろう。


 シモンが、コギルにもう少し説明しようと頑張るようだ。


「えーっとね。あの森はなんか変なんだよね。森全体が主っていう存在に支配されているみたいな感じ。だから、敵は目の前だけじゃなくて、森の生き物全てって考えた方がいいよ」


 その言葉に、ベズィーとトーアーサも会話に参加した。


「でも、ヨハンくんとシモンちゃんなら、森全部相手でもなんとかなりそうだけど」


「草一本も残らなそう」


 この温度差は、どこまでいっても平行線な気がして、ヨハンは心の中で一つため息をつく。

 けれど、彼らは仲間だ。説明を尽くさなくてはならない。

 見えているものが違って価値観が違うのはわかる。それは受け入れたいと思うし、自分達に向いている信頼に関しても嬉しく思う。

 だけれど、この認識の違いは、命に係わる事だと思われた。

 だからこそ、どれだけ反論されようとも、何度でも説明して、理解してもらう必要があるのだ。

 そう考えて、ヨハンが口を開こうとしたその刹那、森から射られた矢の様な速度で走ってくる存在に気付いた。

 シモンが警戒の声を発する。


「何か来る!」


 それは、慌てて戦闘態勢に入るヨハン達の前で、砂煙を上げて立ち止まった。

 現れたのは、一頭のクロヒョウだった。

 クロヒョウはヨハン達をゆっくりと見回して、言う。


「準備が整いました。主がお待ちですので、森までお越しいただいてもよろしくて?」


 人間でいうところ女性の声で言うその存在に、一行の視線は「どうする?」と問うかの如くヨハンに集まった。

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