子供たちと森の主㉔
指示を出すシモン、指示に従って動くヨハン。
最初は言語で行っていたが、やがて声は無くなり、まるで思考が繋がっているかのように無言で連携をするようになる。
ある時は切りつけた相手に追撃するために、シモンがヨハンの肩に手をかけて飛ぶ。
ある時はヨハンがシモンの手を引き、先ほどまでシモンが居た場所を斧が通り過ぎる。
ある時はヨハンの盾にシモンが足をかけ、ヨハンが盾を払う仕草でシモンを敵の只中に飛ばす。
そしてそれは、阿鼻叫喚の戦いの中でいっそ美しく、時にタンゴの様に激しく。時にクラシックバレエの様に優雅に。二人は舞うように戦場を動き回る。
血しぶきすらも美しくすらあるその光景は、敵対する者としては恐怖でしかないだろう。
攻撃的な本能が強いゴブリンをして足を震わせる者が居たくらいである。
だが、二人は止まらなかった。
体を伸ばして渾身の突きをするシモン。シモンの正面のゴブリンは喉を貫かれ絶命するが、左右から別のゴブリンが襲い掛かる。
しかしシモンの伸びきった足をヨハンは掴み、反対側に引っ張ると、標的を失ったゴブリンはたたらを踏み一瞬の停滞が生まれ、その隙をついてヨハンが盾のぶちかましで両者を吹き飛ばす。
そのころにはヨハンの背後の敵を蹴散らしたシモンが帰ってきて、吹き飛ばされたゴブリン達に留めの斬撃をお見舞いしていった。
援護に入るべきベズィーもポルルも、その圧倒的な光景に手を止めてただ見ていた。
トーアーサ、コギルの二人はなんとか残党のゴブリンを倒しヨハンとシモンの下に駆け付けるが、ベズィー達と同じく目の前で起こる非現実的な光景に動く事すらできなかった。
踊る二人。ゴブリンやヴェロキラプトルの血肉は、それを引き立てる演出に過ぎないかのように。
そして、ついに立っているのが二人だけになったかと思うと、その二人は笑いあって大の字になって倒れ込んだ。
息の荒いシモンが、空を見て晴れやかに声を出す。
「ねえ、お兄様」
同じく息の荒いヨハンも、言葉を返す。
「なんだい?」
「私さ、なんでかわからないけど、昔を思い出してさ」
「父上が倒れた時の?」
「お兄様も?」
「ああ、思い出してた」
「やっぱり双子なんだね。覚えてる? あの後さ、みんなでお父様にお説教されたよね」
「ああ、チェルシー姉さんもギヨーム村長も、僕達と一緒に父上のベッドの前に並ばされてな」
「それで、持って帰って来た植物で作る薬は、病気を予防するための健康にいい薬でさ」
「結構怖い思いして取って来たんだけどな」
「そうそう! ほんと! でもさ」
「うん?」
「今度は早かったね」
「……まあな」
そう言って、累々たる死体の只中で、そこだけ異空間の様にさわやかな二人を、ベズィー達はなんとも言えない顔で見ているのだった。




