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子供たちと森の主㉒

 チェルシーさんとリビングにやって来た僕達は、早く北の森に行きたくてウズウズしていた。

 その様子を見てか、チェルシーさんは自分の荷物を持ってきて、笑顔で口を開いた。


「今日出立すると、夜になる恐れがあります。無用な危険は避けるのが得策ですから、森へは明日の朝早く出立してくださいね」


 気持ちは今すぐにでも飛び出していきたいが、チェルシーさんの意見は正論なだけに反論できない僕とシモン。

 そんな僕たちに、チェルシーさんは荷物をがさごそとやって、ひと振りの剣を出して見せた。


「短剣くらいしか武器が無いと言っていましたね。これを持っていってください」


 そう言って差し出された剣は、鞘に入ったままであるが戦闘用な無骨なものではなく、儀礼用のきめ細かな細工がなされたものに見えた。

 普段見るのは練習用の木剣ばかりで、真剣など数える程しか見ていない僕でもわかる。これは名工が作った名のある剣であろうと思うのだ。

 そんな剣を笑顔で差し出してくるチェルシーさんに、得体のしれない圧を感じてしまって僕達は少したじろいでしまう。

 その様子をどう受け取ったのか、チェルシーさんは指を顎に当てて口を開いた。


「これは片手剣なのですが、二人の身長からすると長剣のような扱いになってしまいますかね」


 その言葉に反応して、という訳ではないが、僕はシモンに目くばせする。

 彼女は先ほどの父と親しそうにしていたチェルシーさんに若干の対抗心を持っているのが見ていてわかる。けれど、この剣を使うなら自分だとシモン自身が感じているのだろう、チェルシーさんの差し出している長剣に手を伸ばして受け取ろうとする。


 だが、シモンが何度か受け取ろうと剣を握って引っ張るのだが、何を思ったかチェルシーさんは剣を手放さず、硬く握ったまま、笑顔でこういった。


「この剣、実はものすごく貴重な剣なんですよ。だから──」


 チェルシーさんは、そこで怖いくらいに笑みを深くした。


「絶っっっっっっ対に、失くさず持ち帰ってくださいね」


「そんなの、私が失くす訳ないじゃ──」


「絶っっっっっっ対に、失くさず持ち帰ってくださいね!」


「……わ、わかったよ……失くさないように気を──」


「絶っっっっっっ対に、失くさず持ち帰ってくださいね!」


「……はい、わかりました」


 チェルシーさんの笑顔と圧は、言葉を繰り返すほどに強くなり、ついにとうとうシモンは全面降伏の体だ。

 すると、チェルシーさんは満足したのか、シモンの頭を優しく撫でて「よろしい」と優しい笑顔である。

 そして、恥ずかしそうに撫でられるままだったシモンを横に、もう一つ荷物から取り出すものがあった。

 それは、先ほどと同じように美麗な細工が施された短剣である。

 チェルシーさんは僕に向かってその短剣を差し出した。


「じゃあ、シモンくんにはこの短剣を」


「は、はい。ありがとうございま……」


 受け取ろうとしたが、チェルシーさんの右腕からその短剣は離れなかった。

 多分、僕が全力で引っ張ってもビクともしないのではなかろうかと思える程、彼女の腕は強固だ。

 そして、笑顔で言う。


「絶っっっっっっ対に、失くさず持ち帰ってくださいね」


「……はい」


 僕は一回で降参だった。

 シモンはよくこれを3回耐えたものだ。体中の穴という穴から汗が噴き出すほどのプレッシャーを持った笑顔と声に、僕はとても耐えられなかった。

 そして、やはり満足そうに僕の頭を撫でて「よろしい」と言うチェルシーさん。

 僕とシモンは、何が起きても絶対に借り受けた剣と短剣は持ち帰ろうと心に誓うのだった。

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