子供たちと森の主⑳
チェルシーさんの言の通り、ギヨームさんの容態が落ち着くまで少し待つことにしたが、ギヨームさんは思いの外早く意識を回復させた。
「う……俺は……」
呻くように声を出したギヨームさんに、チェルシーさんはにっこりと笑って答える。
「無様に負けて気を失った様ですね」
「うぐ……」
体以外にも痛む場所があるような顔をするギヨームさん。
シモンが自分の胸に手を当ててほっと安心したように言う。
「よかったぁ、死んでなくて」
「ですが、これは下手したら命を落としてしまっていたかもしれません。末恐ろしい子ですね、シモンは」
怖い事を言うチェルシーさんは、僕に真剣な視線を向けて続ける。
「ヨハンくんはかなり手加減をしたみたいですが、シモンちゃんはどうなんでしょうね」
シモンはそれに抗議する。
「ちょっと待って! したよ! 手加減!」
「ですが、ヨハンくんの一撃である程度村長の魔力は測れた筈。過剰な一撃だったのではないですか?」
「うーん……」
言われて難しい顔になるシモン。ただ、これには僕も意見はある。
ギヨームさんは決して弱い相手ではない様に思われたし、対人戦闘などやったことがないのだ。
それにまずは勝たなくてはならないという前提条件を満たすために、全力を出してしまったとしても責められる事ではないし、うまく加減して欲しいというのも無茶だと思うのである。
妹の為にチェルシーさんに反論をしようと口を開きかけたが、チェルシーさんの方が早かった。
感情の分からない真剣な目でシモンを見据え、言葉を紡ぐ。
「ねえ、シモンちゃん。もし、あなたに何か重要な目的があって、どうしてもその目的を達成するのに邪魔な人間がいたとする。あなたはどうする? 諦める? その人を手にかける?」
シモンは、眉根を寄せ、一つ唸ってから回答を口にする。
「質問が漠然としすぎじゃない? でも、聞きたい大筋はわかった気がする。例えば、魔王を倒すのに必要な殺人があったらどうするかって事だよね」
僕は、自分の喉が鳴るのを感じた。
「殺すよ。でも、もちろん殺人なんて嫌だし、そうしなくてもいいように全力で手は尽くすけどね」
その答えを聞いて、チェルシーさんは少し暗い目になって頷く。
「……そう。わかりました」
僕とシモンの大きな違いの一つを見せつけられた気がした。
僕はきっと簡単には割り切れない。チェルシーさんに同じ問いをされたとしたら、答えられない。
けれど、シモンは違う。どこまでも現実を見て、どこまでもちゃんと答えを出している。
彼女だって人の命を奪う行為が簡単にできるわけじゃない。僕にはそれが痛いほどわかる。一緒に生活をしていつも思う、彼女は僕以上に優しくて、他人を思いやる気持ちが人一倍強い人間なのだ。
だけれど、彼女は自分の気持ちや考えを切り捨てる事になんの躊躇いもない。
弱い僕にはそれができない。どうしても自分の心が邪魔をしてしまう。
例えば家畜を屠殺する際に、手心を加えて苦しませてしまうような弱さだ。
シモンはそうはしない。苦しまないように逝かせるために最善を尽くすだろう。
僕の視線が地面に落ちるか落ちないかの狭間。シモンの声が聞こえた。
「でも! それは私の場合!」
シモンは言って一度こちらに視線を向けたあと、言葉を続ける。
「私達は二人で目的に向かうって思ってる。きっとお兄様なら私なんかよりもより良い最善の手を考えてくれる。それでも誰かをどうにかしなきゃいけないなら、私がやるよ」
そして、満面の笑顔でこう言い放つのだった。
「だってさ、私は剣で、お兄様は盾だから。私はただ障害を排除してって、人を守るのはお兄様。ロールがちゃんと分かれてるから、私は迷わない。ね、お兄様」
そう言ってこちらを向くシモンの顔は、相変わらず僕にはとても眩しかった。




