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子供たちと森の主⑰

「うーん、この植物は……多分北の森にならあると思いますけど。それよりも、ペトロの体調が悪いと聞いたのですが」


 チェルシーさんのその言葉を受けて、改めて僕たちは今回の経緯と目的を話した。

 父が病に臥せっている事、万病に効く薬なるものの存在を見つけた事、ガンビールノキが素材として必要な事。

 その説明を黙って聞いていた二人の大人は、眉間に皺を寄せて何かを考える様にした。

 ギヨームさんがチェルシーさんに向かって口を開く。


「北の森というのは、どの辺りなのだ?」


「そうですね」


 言いながら立ち上がったチェルシーさんは、地図を持ってきてテーブルに広げ、一点を指さす。

 それはここオーティウムより北東に向かった場所にある森の様だった。

 地図全体の縮尺を推測しながら考察すると、馬を走らせ急げば片道で数時間程度の距離だろうか。

 もしくは、僕とシモンなら馬に近い速さで走れるだろう。父が僕たちの乗馬練習のために飼っているロバはそこまでの速度は出せないので、今回は走っていくことになるだろうか。

 同じ事を考えていたのか、シモンがこちらに視線を寄せる。僕はそれに頷いて立ち上がった。


「ありがとうございます。チェルシー姉さん、ギヨーム村長。早速その森に向かってみます」


「待ちたまえ」


 制止の声をあげたのはギヨームさんだ。チェルシーさんも同じ意見なのか、早く現地に向かいたい僕たちに諭すように言う。


「あのね、ヨハンくん、シモンちゃん。北の森は狂暴な動物がいるんです。確か肉食の鳥竜の姿もあったと思います。魔物もいるかもしれない。そんなところに行ってどうするんですか?」


 シモンは笑顔のまま当然のことのように口を開いた。


「普通に素材を取ってくるよ。装備は短剣くらいしかないけど、何とかなるでしょ」


「そうだね。けれど、確認は必要だと思うよシモン。チェルシー姉さん、そこには草食の生き物もいるのですか?」


「ええ、いますけど……」


 その答えに、シモンは笑みを深めて言う。


「じゃあ、大丈夫だね!」


 安心する僕たち二人とは対象的に、チェルシーさんとギヨームさんは眉根を寄せて目線を交わし合う。

 先に出ていた鳥竜とは、主に二本足で爬虫類のような眼光をした生き物の総称だ。腕に羽根が生えている種族もいるが、基本的には飛べない。図鑑によると遥か南方にはプテラノドンという実際に飛ぶことができる大きな鳥竜もいるとか、トリケラトプスいう四足歩行の鳥竜もいるとも記されている。この鳥竜という分類も何が基準となっているのか少し曖昧である。

 そして、僕たちが住む王国で主に生息している鳥竜は肉食で危険な存在である場合が多く、一般的にはそれが住まう森は近づくべきではないものとされていた。

 魔物は更に危険度が高く、その生態もバラバラである。動物達と違って魔力を操り、見た目だけでは脅威度がわからない生き物だ。

 一説によると魔王や魔族が生み出した存在ともいわれている。

 それらが居る森となれば、確かに危険極まりない。

 けれど、僕は二人を安心させる為に言葉を発した。


「草食の生き物が絶滅していないなら、つまり草食の生き物でも生きていける場所という事。僕たちなら大丈夫だと思います」


 僕の言葉に、反応したのはギヨームさんだった。


「奢りだな。君たちは生き物を舐めている。草食といえども他を傷つけ、殺害する能力がないという訳ではない。それに、足の速さ、群れ、彼らは様々な生き残り方を必死に模索して生きているんだ」


 それはまるで、中央での権力という力を失って、それでも生き残っているギヨームさん自身の事を語っているようにも感じた。

 僕はそんなギヨームさんの視線を真っ向から受けて、それでも言う。


「けれど、僕達は行きます。どんなに危険でも、それはかわりません」


「……そうか」


 ギヨームさんは苦笑いし、少し遅れてチェルシーさんの嘆息の音が聞こえる。

 けれど、ギヨームさんは今一度鋭い眼光をこちらに向けて声を張った。


「ならぬ!」


 これにシモンが抵抗する。


「なんで!? いいじゃん! ギヨームさんには関係ないでしょ!」


「民が目の前で命を落とすかもしれない選択をしているんだ! それを見過ごす事などできない!」


「だから! 私たちは大丈夫だって言ってるじゃん!」


「ならば! 私を倒してみよ!」


 僕たちは唖然とする。言ったギヨームさんは腕を組んで仁王立ちし、笑みを深くしていた。


「ヨハン、シモン。これでも私は貴族の血筋だ。剣の覚えもある。それこそ、幼少の頃から血の滲むような努力をして、己が血筋を恨みながらもいつか民を守り、王国の剣となるその時まではと剣を振るってきた。我が家に何本か木剣がある。勿論木斧もな。それを使って模擬戦をして貴様らが勝ったなら、北の森への遠征を許そう!」


 そう言って厳しい視線をこちらに向けるギヨームさん。その視線に真っ向から受けて立つ僕とシモン。

 視線から火花にも似た何かが弾けて、まるで既に戦いが始まっているかのような雰囲気だった。

 そこに、チェルシーさんの重いため息が被さり、何かをあきらめた様な声が遅れてやってきた。


「練習用の木剣ならありますよ。ヨハンくんとシモンちゃんも斧じゃなくて剣ですよね?」


 頷いた僕たちに、ギヨームさんは少し驚いた様子だった。

 そして、僕たちは庭で模擬戦をする事になった。

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