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子供たちと森の主⑬

 ベズィー達の下に駆け出したヨハンの目に、弓を引き絞るベズィーの姿が映る。

 ちらりと迫りくる騎兵に目を向けると、ゴブリン達が乗っていたのはヴェロキラプトルという、強靭な足で大地を駆け、申し訳程度の翼を有した飛べない鳥だった。

 その動物は、鳥というには凶悪だった。白い、しかし毛先だけが赤い羽毛に覆われ、真っ赤な丸い目と、嘴ではなく凶悪な肉食獣の尖った歯を持つ生き物である。

 その姿は、鳥の骨格を持った爬虫類と言っても納得できそうなくらいだ。

 ヴェロキラプトルの姿を素早く視認したヨハンは、ベズィーに向かって通信機ごしに簡単な指示を出す。


『ゴブリンは後だ! 乗り物から狙おう!』


『任せて!』


 簡潔にかえって来た返事が聞こえるや否や、ベズィーの弓から白い軌跡を描いて矢が真っすぐに飛ぶ。

 それは一頭のヴェロキラプトルの首に命中し、上に乗るゴブリンもろとも、もんどりうって倒れる。

 それだけでは終わらなかった。早打ちで次々と放たれるそれは、一射白い軌跡が放たれる度にヴェロキラプトルと、その上に乗るゴブリンの悲鳴と激突音が上がる。

 その軌跡が4度煌めいたところで、ヨハンとコギルが到着した。

 ポルルは少し遅れているが、程なく到着するだろう。

 時を同じくして敵の騎馬隊が接敵し、ゴブリン達は奇声をあげながらヴェロキラプトルから飛び降りて、ある者は手に持つ槍を振り回し、ある者は槍を投げつけ、ある者は腰から手斧を取り出し、近接戦闘が始まった。

 その数ゴブリン11、ヴェロキラプトル11。併せて22の悪意と凶刃と牙が、ポルルと合流した僅か5人の少年少女に向かって振るわれる。

 普通なら絶望的な状況だろう。

 だが──。


「ヨハンくん! 獣は私とトーアーサに任せて!」


 そのベズィーの声と共に白い煌めきが一頭のヴェロキラプトルの喉を貫く。

 そして次の瞬間、別の一頭の 足の腱をトーアーサが逆手に構えた短剣で正確に切り裂く。


「動いていてもこれはただの食材。どこが簡単に切れるか、私にはわかる」

 

 そう言って駆け抜けていくトーアーサ。

 ただ、トーアーサの短剣は重武装をしたゴブリンには刃が通り辛く、相性が悪いように思えた。

 ベズィーも、右手で逆手に持った鉈でゴブリンの近接戦を捌いているが、彼女の本命は弓だ。

 右手に鉈を持ったまま人差し指、中指、親指の三本で器用に矢をつがえて早打ちで ヴェロキラプトルを撃ち抜いていく。

 軽く握った鉈では重武装の相手に有効打を与え辛く、魔力を込めた矢も鎧ごと貫くほどの威力はない。

 だが、武装した相手に相性が悪い二人とは対象的な人間がいた。

 その人物は、雄たけびを上げながら袈裟切りに斧を振り下ろす。


「うおあああああああああ!!」

 

 コギルである。

 鎧が陥没する程の重低音を響かせてゴブリンは堪らずたたらを踏んだ。


「もういっちょおおおおおお!!」


 コギルは回転してから、まるで木こりのように斧を両手でスイングし、ゴブリンの鎧の胴を陥没させて吹き飛ばした。

 遅れて合流したポルルもきょろきょろとせわしなく戦場に視線を走らせながら、時折「精霊よ」と口の中で呟いてはゴブリンの鎧に炎を浴びせ、またある時は氷の弾丸でヴェロキラプトルを貫いた。

 そんな一行に負けじとヨハンも、盾を構えた一体のゴブリンに向かって剣で突きを放つ。

 それを盾で受け止めたゴブリン、一瞬、笑ったようにも見えた。

 恐らく、うまく受け止めて、相殺できたと考えたのだろう。

 だが、そのゴブリンは笑顔をその場に残し、体は大地に倒れ込む。

 ヨハンは突きから凄まじいスピードで剣を引き、反対に回転して横薙ぎにゴブリンの首を刈り取ったのだ。

 このフェイントは少し前、片腕となってしまった父との打ち合いで学んだ技法だった。

 父は押すと見せかけては引き、引くと見せかけては押してくる。正面からかと思えば横から、下からと戦いの中で相手の実力を出させない技術を見せてくれた。

 それまでは、どういう姿勢や切り込み方が一番力を発揮できるか、どの角度で切れば効率よく力を出せるかという事ばかり考えていたが、武芸としてはそれでもいいかもしれない。けれど、戦場ではそうではないのだ。

 戦場はどんな状況になるかわからない。即座にベストを尽くせる判断能力が必要だと知った。

 そしてなにより、必殺の一撃を持っている相手に対して、それをどう受けるか、どう返すかと考えている様では甘いのだと学んだ。

 撃たせないのだ。父の戦いは、相手によっては「卑怯だ」と感じてしまうほどに力ではなく、技術が洗練されていた。

 大地を踏みしめて力を籠めようと思えば軸足を崩され、しっかりと狙いを定めようとすれば視界を奪われ、力で押そうと進めばその倍逃げられる。

 満足に技を繰り出せない状況は、じりじりと心を苛立たせ、思考が力押しに偏ってしまい、またそれを見抜かれて苛々が積み重なっていく。

 体だけではなく、精神まで攻撃するその技術に、ヨハンは感銘を受けていた。

 その経験は、間違いなく戦闘に活きている。

 ヨハンは剣を振りかぶって一体のゴブリンに突撃すると、ゴブリンは盾で受ける構えをとる。

 だが、ヨハンは剣を振りかぶったままゴブリンの横を通り過ぎ、後ろからゴブリンを袈裟切りに切り割いた。

 そのヨハンに向かって盾を前にし、突撃してくる別のゴブリン。

 そこに、真正面から同じく盾を前にしてぶつかっていくヨハン。

 よもやそんな行動に出るとは思っていなかったのだろう、ゴブリンは驚愕の表情を浮かべながら突撃の衝撃を抑えるため、大地を踏みしめて堪える恰好をとった。

 だが、ヨハンはぶつかる事が目的ではなかった。衝撃を受け流し、するりと横に回って横凪ぎの一閃でゴブリンの命を奪う。

 数的不利をものともせず、彼らは着実にゴブリン達の数を減らしていった。

 あとゴブリンも数匹となったところで、別の場所に変化があった。

 ベズィーの警戒した声が聞こえてくる。


「まずい! 援軍だよ! 騎兵が30はいる!」


 コギルが戦闘の興奮からか、猛々しく声をあげる。


「30? 余裕だろ! かかって来いやぁ!」


 しかし、ベズィーはそれを否定した。


「違う! こっちじゃない!」


 ベズィーの焦った声につられて視界を移すと、孤軍奮闘するシモンの下に、土煙を上げて向かう騎兵の一団が見えたのだった。

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