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子供たちと森の主①

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 ペトロが武器を作り始めた頃、アブセンスではヨハンが姿見の前に立っていた。

 ヨハンが最も尊敬する人物、彼の父であるペトロ・トリスメギストスの教えでは、身なりは重要だという。

 彼は目を閉じてペトロの言葉を思い出していた。


『人は、例えば料理が目の前に出てきた時に、匂いや見た目から味を想像するものだ。そして大体の場合大まかに的中する。この想像する行為は本能であり、人間が他の生物より優れた部分でもある。これは料理を人間に置き換える事が出来る。声と身なり、もちろん匂いもだ。それら全てでもって大方の人物像を想像する。特に初対面となるとその情報が全てとなるし、出会う人全ての素行調査などできようもないから、この『印象』という断片的な情報で中身を想像するんだ。だから、身なりや立ち振る舞いはとても重要なことなんだ』


 まるで今まさにそこに居るかのように再現された脳内の父の言葉に、うんうんと頷く。

 あまり人と出会わなかった三カ月前までと違って、人の行き交う村で生活してみると、父の言っている事が実感としてわかるのだ。

 そして、父がその後に続けた言葉も思い出す。


『ただし気をつけなさい。食べてみると予想外の味のする料理があるように、人間も中身が全く違う事もある。良い意味でも悪い意味でも予想は裏切られる事がある。だから、賢い人間は見た目や立ち振る舞いだけで人を判断しないように努める。そして、もっと賢い人間は、見た目や立ち振る舞いだけで異常な程正確に中身を当てる事ができる』


 恐らく、父は自分達には賢い人間になれと言いたかったのだろう。父程になると、もっと賢い人間として見た目だけでも全てがわかるのだが、お前たちにそれは無理だと言いたかったのかもしれない。

 ヨハンは、恐れ多い事を承知でこう考えていた。尊敬する父に並びたい。追いつきたいと。

 その思いはアブセンスに住み、他者と触れ合うにつれ大きくなっていった。

 それまではあまり他者と言葉を交わす事も無かったし、意見を交わす事など皆無だった。世間知らずと謗られてもしょうがないという境遇だったのだ。

 けれど、世間を知るにつれ、ペトロの異常さに気付くのだ。

 その知識、情報は他者に理解されない程に深く、それでいて活用する事にも長けている。

 何百年も生きた存在であったならそれも納得できるが、それと同等の深さを持った知識と経験があるように思えてならないのだ。

 ヨハンが父への畏敬の念を深めていると、扉をノックする音が聞こえてくる。


「お兄様、遅れちゃうよ」


 少し開いた扉から、自分と同じ金髪碧眼の人物、双子の妹であるシモンが声を掛けてきた。

 ヨハンは「わかった、すぐ行く」と簡単に返事をし、最後に姿見を一瞥する。

 鏡に映るのは、青いシャツに白いパンツ、足元には茶色の革靴を履いた金髪碧眼の青年だった。青はヨハンの好きな色であり、先ほど少し顔を出したシモンは赤色が好きで、シャツもその色の様子だ。

 2人は双子だが、時折感性が真逆だったりするもので、ヨハンは物質的な世界、そして静寂を好む性格から、青色に静寂を感じて好むようになったし、対してシモンは動物的な混沌とした世界、どちらかというと激動を好む傾向があり、色の好みもそういう事だろうとヨハンは予想している。


「よし、行こうか」


 ヨハンは、そう言って部屋を後にした。


〇〇〇


 庭先では、シモンが伸びをしながら待っていた。

 ヨハンは雑草で埋め尽くされた庭に一瞬目線をやったあと、シモンに話しかける。


「ごめん、お待たせ」


「んーん、別に待ってないよ、お兄様」


 彼女も伸び放題になった庭の雑草に思う所でもあるのか、視線は雑草たちを見ながら言葉を返してきた。

 彼女の黄金の髪は、太陽の光を弾くように光り輝き、その横顔は女神の子と言っても決して遜色がないほどであると感じられた。

 その姿が眩しく、ヨハンは思わず目を細めた。

 勿論彼女は父の教えを正しく理解できる聡明な頭脳を持ち、身体能力も優秀である。

 ヨハンは、自分があの父の息子である事を誇りに思っている事と同じくらいに、自分の妹の事も誇りに思っていた。


「お兄様、雑草ってすごいね」


「ああ、そうだな。命の逞しさを感じるな」


 言って、二人で雑草を見渡す。

 ヨハンとシモンが生活の拠点として借りているのは、一軒家であった。

 広い庭もあるし、畑が耕せるほどの敷地も貸与されている。

 だが、そこには一切手をいれていない。

 それはここに住む事になった初日に二人が決めた取り決めの結果であった。

 二人は、まず二人が生活するにあたって、労働力としてのリソースをどう割くかを話し合ったのだ。

 特に生命活動に直結する食に関しては重点的に話し合った。

 まずは農業。これは一年間というリミットがある上に、人一人が生活するカロリーを畑だけから得るのはかなり大変だと思われた。

 例えば、ジャガイモを栽培する場合、一株あたり5個取れると仮定する。そして収穫は年2回だと想定した場合。

 消費が一人朝、昼、晩の一個ずつとして計算しても、二人だと年間730個のジャガイモが必要になる事から、 73株を2回育てなくてはならない。

 かなりの労働になるし、それにジャガイモばかりを食べるわけにはいかない。

 そうすると、もっと多くのジャガイモを作り、金銭に変えなくてはならない事などを考えていくと、農業などやったことが無く、トライアンドエラーを繰り返す必要のある二人に向いている食料調達とは思えなかった。

 だから、農地や庭は一切手をつけないという事で二人の意見は一致した。

 珍しい植物などを発見し、それの保管を目的とする場合を除いて、庭や農地の管理には一切労力を割かず、他の事に労働力を割り振りたいという事である。

 食料については、狩りをする事にした。といって、自分達で捌いて、皮をなめしてとなると、それも効率が悪い。だから、狩りで得た獲物は、村長であるケティルの紹介を得て村に卸す事にした。

 加工に関してはその道のプロに任せて、自分達は素材を集める事に特化しようという戦略だ。

 これに関して二人は徹底していた。料理も一切しない事にしているし、道具も自作はせず、購入するようにしていた。

 それらにかかる時間を省いて、勉強や鍛錬、交流などに費やそう、という二人の計画だったのだ。

 そして、その計画は今の所順調であり、たまに同年代の村人たちと食事をしたり、少し遠出をしてみたりと、余裕もあった。

 二人にとって、ここでの生活は勉強の一環という認識なのである。だからこそ、その勉強を楽しく行うという考え方はあるが、生活を楽しむという考えは一切ないのだった。

 そんな二人の下に、数人の村人たちが声をかけてくる。

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