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それぞれの進み方⑫

 彼女、リリィは森で息を潜めるようにしていた。

 といって、実際には息をする事ができない体であるから、雰囲気というものだった。

 ここに来るまで、多少の困難が伴った。

 彼女は一体のスケルトンである。村人に見つかりでもすれば、大騒ぎになってしまう。

 こればかりは、人口の少ない村で、それも外れに住んでいる状況が味方し、誰にもすれ違わなかった。

 だが、問題は土地勘が無い事である。

 彼女は基本的に彼の家から出た事が無かった。だから、森がありそうな方向に向けて進み、時間がかかりそうなので、走って向かった。

 生まれ変わった彼女の体は、信じられないほどの魔力を保有しており、まるで風のように走る事ができたのだ。

 しかし、中々森には辿り着けず、誰かに見つかれば討伐される恐れがある為、内心肝を冷やしながら疾走を続け、ついに辿り着いたのが今彼女の居るこの森である。


 彼女は、勇んで森を進んで行ったが、それでは動物が逃げてしまうかもしれないと思い、今は息を殺すように茂みに身を隠しながら進んでいる。

 そして──。


(居た!)


 ついに見つけた獲物は、シカであった。

 角が無いので、雌か、もしくは仔鹿かもしれない。

 リリィは、よし、と胸中で呟き、弓に矢をつがえようとして──。


(あれ? え? うま、く、いかない)


 思えば弓など扱った事のない彼女は、うまく矢をつがえる事が出来ずにかちゃかちゃとやっている。

 矢は右からなのか、左からなのか、よく見れば左につがえる場所があるのだが、そこに宛がっても上手く引く事ができない。

 だが彼女は諦めない。それが功を奏し、少し手間取ったが無事に矢をつがえて、弓を引く事ができた。

 そしてさあ狙うぞ、という体制になった時には、もう鹿の姿は無かった。

 胸中で嘆息が漏れる。だが、諦めるのはまだ早いと思った。

 気持ちを切り替えるように、心の中でよしと呟いて、使い慣れない弓よりも、扱いが簡単そうな槍の方がいいかもしれないと考えながら、彼女は探索を続けた。


〇〇〇


 それからどれくらいの時間が経ったのか。朝早くに家を出た筈なのに、もう日が傾いて暗くなろうとしている。

 リリィの胸中では、こんなに長く家を空けて、彼は大丈夫だろうか。自分はもしかして、余計な事をして、彼を危険に晒してしまっているのではないかと不安に心がざわめいていた。

 だけれど、彼女は彼の力になりたかった。栄養もそうだが、美味しいものを食べれば、少しでも気分がよくなるんじゃないかと考えていた。

 心の中に何度も蘇る、あの優しかった顔をもう一度見たい。その気持ちが、彼女を突き動かすのだ。

 それを考えている時は、不安も恐怖も全てなくなってしまう。妄信に近い執着、だけれど、それが彼女の全てなのだ。彼女には、いや、彼女の世界には、彼しか居ないのだから。

 ふと、前方の茂みが揺れた気がした。

 そこから、黒く、恐ろしい獣が姿を現す。

 その獣は、彼女の知識には存在しなかったが、ブラックドックという魔物だった。

 目の前にいるのは中型犬くらいの大きさだが、成長すると子牛程の大きさになる。

 黒い毛並みは美しくすらあり、眼は赤く発光している。口には肉食動物特有の凶悪な牙が覗いており、狩人なら間違いなく逃げ出す程強く、狂暴で恐ろしい存在だ。

 だが、リリィにそんな智識がある訳もなく、槍を構えて、飛び出すタイミングを伺っていた。

 そして、ブラックドックがリリィの方に顔を向けた刹那、リリィは構えた槍を突き出して突進した。

 そのスピードはすさまじく、並みの人間では目で追う事も難しい。

 だが、そんなスピードの突きを、ブラックドックはひらりと躱してみせる。


(どう、しよう)


 避けられる事が想定外だったリリィは狼狽した。ブラックドックと睨み合った状態で、引くことも、進む事も出来ないでいた。

 一方、ブラックドックも同じなのか、グルグルと唸り声をさせながらも、動きらしい動きはない。

 長く続くかと思われた膠着。それを破ったのは、戦い慣れておらず、そのプレッシャーに耐えられなかったリリィの方だった。

 骨の体のどこにそのような力があるのかというほどの踏み込みでもって、俊足の突きを放つ。

 しかし、その突きは躱され、運悪く木の幹に槍が突き刺さってしまう。

 咄嗟に抜こうとするが、それが裏目にでた。リリィの視界が真っ白に染まる。

 ブラックドックはその逞しい前足でリリィの後頭部を殴り付けたのだ。堪らず倒れこむリリィに、ブラックドックはマウントポジションをとる。

 リリィが見上げると、そこにはブラックドックの恐ろしい牙が見えた。


(嫌、だ。怖、い。助、けて)


 骨の体をカタカタと震わせ、胸中で助けを求める。

 心の灯が消えそうになる。けれど。

 けれど、彼女は諦めなかった。もう一度彼の暖かい笑顔を見るのだ。それを呪文のように何度も何度も唱え、ありったけの魔力を込めた右腕でブラックドックを殴り付けた。


「ギャウン!」


 その声を残してブラックドックの体躯は吹き飛び、木の幹に体をぶつけて止まる。

 その隙に立ち上がったリリィは、矢筒から一本の矢を抜き、ブラックドックの体に突き刺した。

 何度も、何度も突きさして、いずれ、ブラックドックは動かなくなった。


(倒、した?)


 胸中で確認するように呟いた彼女は、それからしばらくの間、震えて動くことができなかった。

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