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格好いい土下座

 ヨハン達が通されたのは、10人以上は座れそうな大きなテーブルが中心に置かれた部屋だった。

 調度品もそれなりに豪華そうなものが揃っており、貴族の部屋の一室、といった感じだった。


 ゾモスを先頭に、ペンシル、ミルサルに連れられてヨハン達が入室すると、先に部屋で座っていた面々の顔が明らかになる。


 テーブルの真ん中に座っているのは、恐らく領主ダウロだろうと思われた。

 厳格な顔つきをしており、白いひげを上品に整えた男であった。


 その左右には見知った顔があった。

 向かって右側にはコルトン。馬車の一件で同行した騎士の男だ。

 左側には──。


「あ、やっほーネモフィーちゃん、元気してた? 私の方はさ──あいた!」


 空気を読まないベズィーの挨拶は最後まで言えなかった。コギルが軽く蹴りを入れて止めたのだった。

 二人は「なんで蹴るの?」「うっせ空気読め」などと言い合っている。

 これには、領主の左側に居た人物、ネモフィラも口を半開きにして驚いている。

 コルトンは頬のあたりをピクピクとさせているし、厳格な顔を作っていた領主でさえも、顔を歪ませているようだった。


 関心したような、それでいて呆れたような声をダウロがあげる。


「大した余裕だな。私の記憶が確かなら、君たちは死刑の予定で捕えていたと思うのだが」


 ダウロの表情は、ヨハン達に対して良くない印象を持っているだろうことが明らかだった。

 こういう空気を出されると、どんな人物も口を開く事を躊躇ってしまう。

 ベズィーの凄い所は、そういう場合でも空気を読まないのだ。

 勘違いされがちだが、ベズィーは決して空気が読めない訳ではない。寧ろ、感情の機微を読み取るのが敏い方だと言える。

 誰かが自分のペースで事を運ぼうと空気を作ろうとすると、ベズィーはそれを崩そうとする。

 そうして、相手の思惑に嵌らないように立ち回るのだ。

 これは、1年間一緒に生活してきたヨハン達全員が知っている彼女の性格である。

 

 そう、性格である。別に何かを狙ってそうしているのではない。ヨハンの父ペトロ曰く、恐らく彼女の家庭環境に何か起因するものがあるのではないかという事だった。

 だから、彼女は死刑という言葉に怯えた風もなく言う。


「死刑って見た事ないけど、首吊りだっけ? うえー、苦しそうでヤだ。ね、ヨハンくん、死刑回避できなかったら、せめて他の処刑方法がいいんだけど、交渉できるかな」


「うーん、難しいんじゃないかな」


「まともに答えるなよヨハン、話が進まねえ」

 

 考えて応えるヨハンに、呆れ顔のコギル。

 そんな様子の一行に、ため息をつきながら瞑目したダウロ。代わりにコルトンが口を開いた。


「ダウロ様の領土では、死刑判決が出た場合、執行には3カ月の猶予期間がある。これは冤罪を減らす為に情報を募ったりする期間だ」


 その説明に、ダウロが付け加える。


「とはいえ、実際には死刑の承認には私の許可が必要だ。これでも忙しくてな、死刑囚の刑を実行していいかどうかの承認はどうしても後回しになるから、事務的にも3カ月以上はかかるんだ」


 そこに、ヨハンが続いた。


「つまり、後回しに出来ない何かが発生した。そういう事ですね」


 ダウロは重々しく頷き、ヨハンを見つめて言う。


「その通りだ。君たちの刑についてだが──」


「お待ちください! ダウロ閣下!」


 その声は、今まで黙していたゾモスだった。

 彼は言うや否や、両膝を着き、頭を地面にこすりつける様にして続ける。


「どうか! どうかこの者達にご慈悲を!」


 ゾモスに続くようにペンシル、ミルサルも同じように地面に頭をこすりつけ、「お願いします!」と懇願した。


 ヨハン達は、大の大人がここまで頭を下げる所を見た事がない。

 だが、その姿に惨めさや情けなさはなく、いっそ美しくもあった。

 そしてその気迫は物凄かった。ゾモス達の気迫に飲まれ、ヨハン達はおろか、ダウロ達も声を失ったくらいである。


 誰もがどうして、と疑問に思ったに違いない。

 事実、ダウロ、コルトン、ネモフィラの三人も、ゾモス達の姿に圧倒されながらも、何故そうなる、と疑問が顔に出ていた。


 ダウロ自身、領民から死刑囚に対する恩赦を求められた経験はないが、あったとしたら、その罪人の家族や友人などからだろうと思っていた。


 では、ゾモス達はヨハン一行と近しい人物なのかというと、そうではない。

 僅か10日前にヨハン達が投獄され、そこで知り合った筈だ。

 だというのに、まるで自分の人生を捨ててでも恩赦を願うその姿は異様だ。

 この10日間で一体何があったのだろうか。


 その場に緊張の沈黙が訪れる。

 そして、その沈黙を破ったのは、瞑目し、ため息をついたダウロのどこか疲れているような声だった。

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