お約束の馬車⑤
「知っている事……というのは……」
自分で情けないと思う程に掠れた声が、コルトンの喉から絞り出された。
だが、目の前の青年が何を求めているのか見当もつかない。
ダービー家の情報なのか、それとも別の何かなのか。
もとより、コルトン自身に情報が不足していた。
この若者たちは一体何者なのか。何を目的としてるのか。それが分からなければ、有効な答えなどできよう筈もない。
背後では、足音がゆっくりと、しかし明確にこちらに向かってきている。
その足音はコルトンの真後ろで止まり、それきり物音ひとつ立てなくなった。
それはまるで、首筋に刃物を当てられているかのような恐怖である。
その効果を吟味するかのように青年は頷いて、静かな声を発した。
「そうだね。漠然としすぎた。じゃあ、君たちの目的は? どこに向かっていた?」
幾分か絞られた問いになり、コルトンは体中から吹き出る汗もそのままに喋り出した。
「私は、この先のミンスターを納める領主、ダウロ・ダービー様に仕える騎士です。今回は、ご息女、ネモフィラ様の逢瀬の為にとある町まで行っておりましたが、今はその帰りです」
「そうか。やっぱり貴族の関係者だったんだね。でも、とても荒っぽい感じだったけど、そういうものなのかな?」
「い、いえ! この度は私と、隣にいる従者オルカン以外の兵士たちが裏切り、あろう事かネモフィラ様を誘拐したのです。私はお嬢様をお守りしようと過敏になっており、あなた方に刃を向けてしまいました」
「ううーん」
ここではじめて、青年が困った様な顔をする。
その顔は先ほどまでの恐ろしいものとは違い、むしろ愛嬌溢れる、といって差し支えない表情であった。
次の声はコルトンの後ろから聞こえてきた。
「これってさ、つまりこのおじさんと貴族のお嬢様助ければいい感じ?」
「そんなに単純じゃないけど、大まかに言うとそうだね」
と青年が応えるや否や、いつの間にか現れた少年少女たちによって、コルトン、オルカン、ネモフィラ以外の兵士が殴り飛ばされ、気絶した。
弓を持った女は黒焦げになった兵士を引きずるようにして連れてきており、その他の兵士達のもとに投げ捨てるようにする。恐らく先ほど逃げ出そうとした兵士だろうか、信じられない事に息はあるようだった。
「ええーっと、色々と行き違いはあったと思うんですけど、実は僕達、ミンスターの町に行きたいだけだったんです。その裏切った兵士さん達はそちらに引き渡すので、ミンスターまで案内してくれませんか?」
青年は、そう提案した。
流石のコルトンも、状況が飲み込めず目を瞬かせる。
隣を見やると、オルカンやネモフィラも同じようだった。
そこに、大きな盾を持った青年が頭を掻きながら口を開いた。
「あー、そうだな。信じられないかもしれねえが、俺たちに敵対の意思はない。なんなら協力できる事があるなら協力したい。だから、まあ、許してくれると嬉しいんだが……」
その言葉に少しずつ現状を理解しだしたコルトンは、提案に応じる事にした。
「そちらに敵意はないという事は分かりました。ではとりあえず、ミンスターまでまいりましょう。話はそれからです」
そうして、一行はミンスターの町まで同行する事になった。
捕虜とした兵士達もいるので、多少時間がかかったが、それでもその先トラブルもなくミンスターの町に到着する。
そして。
ヨハン達は地下牢に案内され、そのまま捕えられたのだった。
罪状は大逆罪。貴族の娘を害したとして、死刑の宣告をされたのであった。




