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音楽

 ──ある一日──


 俺は子供達が訓練に勤しむ姿を見るともなしに見ていた。

 いや、本来ならばしっかり見なければならないのだが、ヨハンとシモンが率先して指示を出し、皆素直にそれに従っている。


 一応、修練の方向性は各々に定めて伝えてあるから、俺も全く何もしていない訳ではないのだが、正直に言うと子供達が優秀過ぎて困っている。


 と、そんな俺の様子に何を思うのか、コギルが意を決したような顔で話しかけてきた。


「師匠。そろそろ俺も次のステップに進みたいです。何か新しい修練方法はありませんか?」


「そうだな。けれど、まだまだ君は基礎が足りていない」


 俺がそう言うと、コギルの顔に少し影が差すのが分かった。

 事実はそのまま伝える事が重要だが、そこには配慮が必要なのだと、村の子供達を預かってから特に思う。

 ヨハンやシモンは、こちらの心情を汲み過ぎるくらいに汲んでくれるから気付かなかったが、俺にはそういう配慮が全く足りてない。

 コギルを元気づけるためにも、俺は少し明るく言う。


「だが、新しい修練方法はある。みんなを集めてくれ」


「……はい」


 差した影は幾分かましになったろうか。それでもコギルの表情は明るくない。

 俺はままならない思いを苦笑に変えて、立ち上がったのだった。


 

 全員が集まった庭で、俺はやおら腕を組み、勿体付けて言う。


「連続性のある動きには、リズム感が必要だ。そして、リズム感の良い人間はそのリズムを崩す事も可能である」


 頷く一同。特にコギルは深刻な顔をしているように見える。


「そこで、これから足さばきの訓練を通じてリズム感を体得してもらう。やる事は簡単だ、俺が一定のリズムで手を叩くから、そのリズムに合わせてステップを踏んで欲しい」


 言われて皆一様に変な顔をした。それはそうだ、いまいち想像がつかないんだろう。

 だから、俺はすぐさま説明に移る。


「まず両足を肩幅に開いて立つ。次に右足を大きく上げて、1つ目の手拍子で左前に出す。次に左脚を大きく上げて2つ目の手拍子で交差するように左前に出す。そしてまた右足を大きく上げて、3つ目の手拍子で元の場所に戻す。同じように左脚も大きく上げて4つ目の手拍子で元の場所に戻す。これで両足共に最初の肩幅の位置に戻るはずだ」


 俺の言葉に、足の動かし方の順序を確認しだす子供達。シモンやトーアーサ、ベズィーは余裕そうな顔をしているが、以外にもヨハンは苦戦している。コギルとポルルも不安そうな面持ちだ。

 奇しくも男性陣は眉間に皺を寄せ、女性陣は笑顔という図になった。


 実際に始まった時、同じような構図が続くのだろうか。

 俺は少し楽しくなってきて、開始の宣言をした。


「では、始めるぞ。耳は俺の手拍子を聞いてちゃんと動くんだぞ。はい! 1! 2! 3! 4!」


 パンパンと手を鳴らしながらカウントし、全員の様子に目をやってみる。

 やはりこの練習で最も順応が早かったのはトーアーサだった。最初の一巡は少し戸惑った様子だったが、それ以降は腰でリズムをとってまるで一流のダンサーの様な動きだ。

 次点ではベズィーと、以外にもポルルが上手かった。

 足だけでなく手を上手く使ってリズムをとっている。

 少し時間がかかったが、シモンも負けていない。慣れてくると笑顔さえ浮かべてステップを踏んでいる。

 予想外に苦戦しているのはヨハンだ。ヨハンは戦闘でのリズムが悪いと感じた事はないし、相手に合わせて動くのがうまいと思っていたのだが、見やれば汗をびっしょりとかきながら、なんとかリズム通りに動いているという感じだ。

 そしてコギルはというと──。


「くっ! なんだこれ! マジ難しい!」


 足がもつれてしまって何度か転びそうになりながらも、必死に足を動かしていた。

 だが、足の順番に意識が行き過ぎていて、基本的にリズムをとる事ができていないようだ。


 本来、木こりにだってリズム感は必要だ。木を連続して斧で叩くという行為は、普通に行うと疲労感が募る。

 それを歌や口笛でリズムを付けて行う事でより効率的に斧を振るったりもするものである。

 それは鉄に槌を振るう鍛冶師もそうだ。

 けれど、コギルはそういった部分が欠けていると言えた。

 彼にとって斧を振るう行為は、最大火力で叩きつける修練なのだ。

 だから、リズムも何もなく、ただただ一撃の威力を求めた。けれど、お互いに鎧を纏い、魔力で防御し、盾を備えた戦闘は、いかに威力ある一撃であっても、それだけで終わらない。

 連続性のある戦闘という行為の中で、いかに早くその場のリズムを掴んで利用できるかという技術も必要なのだ。


 少しの間ステップの練習をさせた俺は、コギルの足がもつれる回数が極端に増えた所で終了を宣言する。

 すると、ベズィーが笑顔で聞いてきた。


「楽しい! これってどういう練習なんです?」


「ああ、これはボックスステップと言ってな、ダンスの練習に行うものだ」


「だんす?」


「踊りの事だよ。ですよね父上」


「ああ、そうだ」


 最早会話に入れない位に疲弊したコギルをわき目に、ヨハンとシモン以外の全員が不思議そうな顔をする。

 トーアーサがその疑問を口にした。


「踊り。それって収穫祭の時のような?」


 俺は頷いた。


「ああ、そうだ。皆も何か音楽をしてみるといい。こういうのは、楽しみながら学ぶものだ」


 言った俺の言葉に、ヨハンとシモン以外の全員の頭の上に疑問符が浮かんだ。



○○○



 その夜、シモンの部屋にて反省会が行われていた。

 参加者は当然、ヨハン、シモン、ベズィー、トーアーサ、コギル、ポルルの6名だ。

 当日の訓練の様子を振り返り、議題は「音楽とは」という事になっていった。

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