表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/131

学ぶ子供達②

 やはりトーアーサの身体操作の才能は凄まじい。ここまで吸収が早いとは思わなかった。

 ゆっくりとひとつひとつ体得していく事を目指すつもりだったが、こうなってくると欲が出る。


「トーアーサ、インパクトの瞬間に魔力を相手の体の中で弾けさせるイメージで打ってみて欲しい。できそうか?」


「わからない。でも、出来る気がする」


「よし、コギル、盾の上下を持って胸に当てて標的になってやってくれ」


「うす、師匠」


 小走りにやってくるコギルは、そのまま盾を胸に当てて待ち受ける。


 俺がトーアーサに教えているのは、前世でジークンドーと呼ばれていたものだ。

 とはいえ、俺が直接習ったわけでもなく、本やネットから得た情報に過ぎないのだが。


 そして魔力の流れは前世でいう気の流れに通じるものがある気がする。

 だからこそ、自分の体に魔力を巡らせ、相手に攻撃的な魔力を送り込むイメージが大事なのだ。


 魔法はむしろ逆で、曖昧な魔力を具体的な事象として発現できるように定量化、つまり数字に変えていくロジカルな作業だが、体術に魔力を使う場合は、もっと感覚的で曖昧なイメージが必要になる。


 そんな事に思いを馳せている間に、二人は向き合って開始の合図を待っているようだった。


「よし、トーアーサ。さっきの突きにイメージを加えろ。自分の体内の魔力を相手の体内に送り込んで爆発させるイメージだ」


「わかった」


 頷いた彼女は、一瞬の精神統一を済ませると、目で追うのも難しい程の速さで突きを繰り出した。

 それはコギルの胸に当てられた盾の中央に当たり、まるで重い鉄同士がぶつかった様な重低音が響く。


 その拳を受けたコギルが息を吐きながら言う。


「重ぇ、すげえなトーアーサ」


 だが、俺は納得できなかった。もっとだ、もっとやれるはずだ。


「トーアーサ! そうじゃない! それはただの早い拳だ! 速さはつまり衝撃になる。早ければ早い程物質の表面に与えるダメージは大きい。けれど、お前はそれじゃ勝てない!」


 言われて、再び構えを取るトーアーサ。


「体に魔力が巡るイメージをしろ。空気を大きく吸って、その酸素が体の隅々にいきわたるイメージをしながら、ゆっくりと吐け。それを3回繰り返して……そう。それからインパクトの瞬間に体にため込んだ魔力が拳の先で爆発するイメージだ。やってみろ」


 空気がしんと静まり返った。

 ヨハン達も、トーアーサの様子を固唾を飲んで見ている。

 俺の本気が伝わったのか、トーアーサが深呼吸をする度にピリピリとするようなまるで静電気のような魔力が周りに膨張していく。


 三度目の息を深く吐く音の刹那。視界の動きの後に音が遅れてやってきた。


「ぐ……あ……」


 先ほどよりも幾分重い音の後に、コギルの苦悶が漏れる。

 見やると、彼の顔は青ざめているように見えた。


「成功だトーアーサ。次はこれを使ってやってみろ」


 そう言って俺は一本のナイフを彼女に投げてよこす。


「右手で逆手に持ち、左手を柄に添えて押し出すように突くんだ。今の拳と同じで、踏み込みの足が地面に着く前に当てるのと、インパクトの瞬間に魔力を爆発させる感覚を忘れるな」


 再び頷いて構えるトーアーサと、青ざめながらも胸に盾を当てて歯を食いしばるコギル。

 再び重い音とコギルの苦悶の声が場に響いた。


「さ、さっきよりは、軽い、ぜ」


 青ざめながらも言うコギル。そうだ、さっきよりも魔力操作が甘い。

 驚異的な身体操作と魔力操作が出来るトーアーサだが、どちらかというと魔力操作が追い付いていない。

 じれったくなった俺は、トーアーサから短剣をひったくるようにして、構える。


「トーアーサ、こうだ、まずは魔力をちゃんと巡らせる事を習慣づけろ」


「あ、あの、師匠、俺、もう」


 青ざめた様子のコギルが何か言っているが、そんな事に構ってはいられない。

 魔力が見える目を持つ者がいたならば、もしかすると感嘆の声さえ上げるかもしれない。

 だってそれはそうだ。魔力が決定的に足りない俺が、膨大な魔力を持つ仲間に追いつくために長年独自の理論で組み上げ続けた魔力操作だ。

 この技術にかけては、ヨハンやシモンにも負ける気がしない。


「魔力を正しく溜めて、爆発させるのは、こう!」


「……あっ……かはっ……」


 俺が手本として打った攻撃を受けたコギルは、何やら口の端に泡を纏わせ、ガクガクと震えながら数歩後ずさり、そして倒れた。


 ヨハンの声が聞こえる。


「コギルーーーー!!」


 ベズィーとポルルも駆け寄って来た様子だ。


「え? 大丈夫? これ大丈夫なの?」


「コギルさんが死んじゃう! っていうか息してないよ! 死んじゃってる!!」


「え? やばくない? 死んじゃって大丈夫な感じ?」


「大丈夫な訳ないですよ! 死んじゃったら大変ですよ!」


 そこにシモンがやってきて、やおら真顔で言い放つ。


「みんな! 大丈夫! コギルは死んだんじゃない!」


 そして、固唾を飲んで皆の視線を浴び、目を見開いて言った。


「死んだんじゃない! 殺したんだよ!」


「「なるほど!!」」


 みんな楽しそうにわいわいしているが、……正直興奮してやり過ぎた。すまん、コギル。

誤字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ