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学ぶ子供達

 トーアーサの化粧事件が起きた翌日の朝、ケティルとピュズリはそろそろ帰ると言って簡単な別れだけして発っていった。


 それから昼食を挟み、今は庭で全員が藁人形に向かって拳を打ち付けて訓練をしている。

 ヨハンとシモンは文句も言わず正拳突きのような形で藁人形を打っているが、ベズィーやコギル、ポルルは多少不満があるようだ。

 ベズィーが疑問符を正直に言葉に乗せる。


「ペトロさん。私弓の方が得意なんですけど、なんで藁人形を殴る訓練を?」


 聞かれたからには答えなくてはならないだろう。俺はふむ、と勿体つけてから答える。


「体術は全ての基本だ。それと、どう打てば体のどこに力が必要なのかが分かり易い」


「???」


 返って来たのは言葉ではなく疑問符がついた表情だけだったが、それ以上答えないでいると、そのまま訓練を再開してくれたようだ。


 ふとトーアーサを見やる。

 昨日の一件の後、彼女に化粧道具をプレゼントしたのだが、ちょっと大人げない意地悪をしてしまったから当分使ってくれないかなと思っていた。

 けれど、今日も彼女は化粧をしている。どうやらシモンに手伝ってもらったようだ。

 シモンは「面倒くさい」といってあまり化粧をしないタイプなのだが、今日はトーアーサとお揃いの口紅をしている。

 見やるとベズィーも同じ口紅をしている事から、揃えようという話になったのだろう。

 後でベズィーにも化粧道具一式を渡しておかなければ。


 そんな事を考えながら、トーアーサから視線を移して、全員の動きを見る。

 各々、恐らくヨハンやシモンを手本にしているのだろう、正拳突きのようなものをリズムよく打っている。

 中でも、やはり目を引くのはトーアーサだ。

 彼女は完全にシモンの動作をトレースし、それを少し繰り返すと、今度は腰の入れ方を変えて力の動きを調整しているようだった。

 身体操作のセンスだけは抜群にいい。これで魔力量が伴えば、この中で一番の強さになっていただろうに。


 俺は再びトーアーサに目を奪われ、思考に潜る。

 俺はトーアーサに親近感を覚えている。この親近感が、態度にも出ている。

 けれど、おかしな話だった。俺はきっと友達に飢えているのだろうが、それを子供達の同世代の人間に求めるのはどうかしている。


 俺にだって友は居た。それこそ、かけがえのない友。勇者一行時代に俺に味方してくれた稀有で優しい友人たち。

 それはケティルやピュズリもそうだ。


 だけれど、彼らは友である前にライバルでもあった。

 勇者一行は人気がなければならない。成績優秀でなければならない。

 明確な順位などはないが、常に比べられている。

 前世の記憶で言えば、アイドルグループのようなものだろうか。

 俺はアイドルグループに属した事はないが、音楽を多少やって、バンドのメンバーとファンの奪い合いも経験した。

 ファンが別のメンバーに流れると、まるで裏切りにあったような気持ちになって自制なんてできないくらいに悔しさと恨みに苛まれた。


 勇者一行も同じようなものである。

 いや、もっとひどいかもしれない。

 彼らは貴族の推薦を得て勇者一行に加わっているのだが、それはつまり、推薦してくれた貴族の看板を背負わされているに等しいのだ。

 多額の金と時間を使って教育され、それに見合う結果を求められてその場にいる。

 勇者一行の中で、誰かが目立つと誰かが霞む。そして霞んだ人間は民に見向きされないだけでは済まない。貴族が黙っていないのだ。

 人気度を使った代理戦争のようなものだ。だから、必死になって成果を出そうとする。

 そんな中で、やはり本当の意味で弱みを見せあえる友達を作る余裕なんてあるだろうか。

 いや、才能のある奴はいいだろう。けれど、少なくとも俺には無かった。

 ずっと焦っていたし、ずっと申し訳ない気持ちでいた。

 ずっと悔しかったし、ずっと羨ましかった。


 だから、今になって弱みを見せる事ができる存在を求めてしまった結果、酔っていたとはいえ、友達のような距離感でトーアーサと話をしてしまったのかもしれない。

 ヨハンやシモン相手には恰好つけてしまってそうなれないというのに、きっと努力ではどうにもならない事に思い悩む彼女だからこそ、そうなってしまったのかもしれなかった。

 これは、反省しないとな。


「トーアーサ、俺の手のひらに拳を打ってみろ」


 彼女は素直にうなずくと、俺の前までやってきて、正拳突きで俺の手のひらを打つ。

 パシンという小気味いい音が聞こえて、皆の視線も集まったようだった。

 俺は解説を始める。


「拳を打つ時、相手に力の流れがどこからどう流れるか、それを考えるといい」


 言いながら、俺はぐっとトーアーサの拳を押す。

 すると少し後ろによろけるようになるトーアーサ。


「トーアーサ。どこに力がかかっている」


「一番は肩、次に腰、最後に足だけど、これは地面に逃げている」


「つまり力を、足から腰に伝えて、肩に伝えて、拳の先に放っている。だがそれだと限界がある。肩が耐えれない出力の打撃は出来ないし、腰も同じだ。つまり、点で鍛える必要が出てきてしまう」


 言って俺はトーアーサの方を掴み、拳と両肩が一直線に並ぶようにした。

 そして拳も縦拳ではなく、横拳にさせる。


「右手と右足を前に……そう、利き手と利き足を前にした半身で構えるんだ。そして、左脚を伸ばして左脚の地面から力を左肩、右肩、右手の先に真っすぐ伝える様に意識して拳を打ち出してみろ」


 言って俺は再度彼女の前に手のひらを出すと、先ほどよりも大きな音が響く。

 そして再度彼女の拳を押してやると、今度は微動だにしなかった。


「わかるか、俺が押したとき、力はどこに行っている」


「左脚、地面に直接伝わってる」


「そうだ。力が直線になっている。今度は足の使い方だ。踏み込みではなく、踏み出したら、足より先に拳を相手にぶつけろ。そうする事で力を逃がさずに対象に伝えられる」


 そして再度手のひらを出すと、今度は俺の手があまりの衝撃に弾かれてしまう。


「……さすがだな、トーアーサ。覚えるのが早すぎて困るくらいだ」

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