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ぬいぐるみたちのメンタルヘルス  作者: 三森れと
Karte1『不眠症の白ウサギ』
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Karte1『不眠症の白ウサギ』5

そう言って那須さんは辛そうに白ウサギちゃんの頭を撫でた。


「眠れなくなったことを隠していたようで、ある時、寝たふりをしていたこの子に私が気づいて。その日からは毎日、朝までずっとこの子の様子を見ていたんですが、やはり眠れないみたいなんです……」


那須さんの表情と声色を感じてか、それまで明るく振る舞っていた白ウサギちゃんも悲しげな顔をした。


夢野さんは元々優しい声色を、那須さんに話しかける時よりも更に声を和らげ…例えるなら小さな子供に話しかけるように白ウサギちゃんに尋ねる。


「今度は白ウサギちゃんに聞くね。今那須さんが言っていたように、白ウサギちゃんは眠れないのかな?」


「うん…ねむれないの……」


「急に眠れなくなっちゃったのかな?それとも、その前から眠りが浅くなったり…寝苦しさを感じたことはあったかな?」


「きゅうにねむれなくなっちゃったの……」


そう言うと白ウサギちゃんは、隣に座る那須さんの太ももにぎゅっとしがみついた。


「そっか…。白ウサギちゃん、話したくないことであれば無理に話す必要はないんだけど、白ウサギちゃんが眠れなくなっちゃった日、白ウサギちゃんにとって辛いこととか悲しいこととか、何かあったかな…?」


「ううん!まいにちリョウコとたのしくすごしてるから、かなしいことはなにもないよ!」


那須さんを気遣ってだろうか、白ウサギちゃんは身体をガバッと上げて強く否定した。


夢野さんは優しく笑うと、


「そっかそっか。白ウサギちゃんが悲しい思いをしていないのであれば僕も安心したよ」


そう言って那須さんに向き直った。


「確か那須さんはこの後お仕事でしたよね?普段お仕事されてる間、白ウサギちゃんはどのように過ごされてますか?」


「家で留守番してもらってます。職場の規則で、この子を連れて行けないので…」


「では、今日もこの後一度白ウサギちゃんをお家に戻してから出社されるご予定でしたか?」


「はい」


那須さんが頷くと夢野さんは「ふむ」と頷き、私の横で話を聞いていたテディを手招く。


それに気づいたテディはキョトンとした顔で首をかしげる。


「え!ぼくのことよんでるの?」


「そうだよ。テディ、こっちに来てくれるかな」


「うん、わかったよー!」


テディは駆け足で夢野さんの元に向かうと、「ぼく、なにかする?」と夢野さんに尋ねた。


「うん、君にお願いしたいことがあるんだ!」


そう言って今度は再び那須さんに向かってこう提案した。


「まずは白ウサギちゃんが眠れなくなった原因をつきとめたいです。とはいえ無理矢理話を聞くようなことはしたくありませんから、白ウサギちゃんにはリラックスした状態で過ごしてもらい、その様子を観察させていただきたいです」


「リラックスした状態…ですか?」


「はい。そのために、この子に協力してもらいます」


そう言って夢野さんはテディの肩をポンッと叩いた。


突然の指名にテディは一瞬驚いた表情をするも、役目を与えられたことによる嬉しさからかすぐに顔を輝かせ「ぼくなにすればいいー?」とはしゃいだ。


夢野さんはテディに「ちょっと待ってて、今話すから」と言うと、那須さんに


「ぬいぐるみのことはぬいぐるみが一番理解出来ると思うんです。僕達では気付けないことでも、この子なら気付いてくれるかもしれません。ですので、今日那須さんが出社されている間、白ウサギちゃんをこの子…テディと過ごさせたいんです」


この言葉に反応したのは白ウサギちゃんだった。


「そのこといっしょにあそんでいいってこと?」


「そうだよ!この子はテディって言うんだ」


「そう!ぼくはテディだよー!しろウサギちゃん、よろしくねっ!」


「うん!テディ、よろしくねっ♪」


白ウサギちゃんはそれまで座っていたソファからピョンっと下り、テディのもとへ駆け寄った。


テディもだが、白ウサギちゃんも全く人見知りしない性格のようで、二人はすぐに打ち解けた。


その様子を見て那須さんの心配も薄れたのか、ソファから立ち上がり一礼した。


「白ウサギが眠れなくなった原因が分かるのであれば、白ウサギのことお任せします。よろしくお願いいたします」


…………


「さて」


出社の為、那須さんがぬいぐるみのクローゼットを後にした応接室には、夢野さんと真宙くんと私の三人だけが残っていた。


テディと白ウサギちゃんは、一旦ブティックをクローズにしたメリーさんと共に家で遊んでいる。


ぬいぐるみ達だけで遊ばせることによって白ウサギちゃんのことをより深く知る…という目的も勿論あるのだが、夢野さんも真宙くんも、そして私も、"ある可能性"が頭に浮かんでいた。


それを確認し合う為、私たち三人は応接室に残ったのだ。


先程まで那須さんと白ウサギちゃんが座っていたソファーには、私と真宙くんが座っている。


「真宙くんと彩さんも、気づいたかな?」


那須さんと白ウサギちゃんが部屋を出た後に改めて淹れた紅茶を飲みながら、夢野さんは私と真宙くんに視線を向ける。


夢野さんに問われ、真宙くんは角砂糖を溶かす手を止めた。


「まぁな。ここで働き始めていろんなぬいぐるみと依頼人を見てきたんだ、これくらいのことは気付くよ」


「彩さんは、どう?」


「はい…私も気づきました。多分、眠れなくなってしまったのは白ウサギちゃんではなく、ーー那須さんの方ですよね」




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