Karte2『写真嫌いのマーチ』20
「これをみてください!」
そう言ってマーチさんは自分のスマートフォンにはぷろむなどのバックナンバーを、ナツミさんから借りたナツミさんのスマートフォンにはコンクリート仕立ての小さな建物の外観が撮られた画像を表示させ、私たちに見せてくれた。
画像の見出しには【中央区美術館】とある。
「この美術館って、もしかしてこの街にあるという美術館ですか?」
「そうです!そして、あのしゃしんをさつえいしたばしょでもあります。といっても、いちどかいそうこうじをおこなっておりまして、あのしゃしんをさつえいしたとうじとは、がいかんがことなりますが…」
マーチさんは、画像がスクロールされない程度に軽くタッチしながら微笑み、
「すくなくとも、このびじゅつかんでコトネさんとナツミとボク…さんにんだけですごしたじかんは、とてもたのしい…ゆめのようなじかんだったはずなのです」
真っ直ぐな言葉を真っ直ぐな瞳で紡ぐマーチさんは、「これもみてください!」と私たちの視線を自分のスマートフォンに表示させた、ぷろむなどのバックナンバーに誘導した。
「もともとこのざっしをよまれているかんざきさんはごぞんじだとおもいますが、このざっしのきほんてきなこうせいは、つきがわりのとくしゅうと、ちいきのおみせのしょうかいのふたつがメインコンテンツでして、ページすうもおおめで、だいだいてきにとくしゅうされることになっています」
そう言うとマーチさんは、自分のスマートフォンとナツミさんのスマートフォンをピタッと並べ、
「はりねずみベーカリーがけいさいされるのは、ちいきのおみせしょうかいのページなのですが、はりねずみベーカリーがけいさいされるナンバーのつきがわりのとくしゅうというのが…このびじゅつかんについてなのです!」
「あぁ、でもほんらいは、はつばいまでヒミツにしないといけないことですので、だれにもいわないでくださいね!」と慌てるように手足をジタバタさせながら、そう言った。
ジタバタさせていた手足を止めゴホンと咳払いするとマーチさんは、再び真っ直ぐな瞳で私たちを見た。
「ボクは、コトネさんのことも、コトネさんとのたいせつなおもいでがあるこのびじゅつかんのことも、きょうまでわすれていました。ですが、ぷろむなどのへんしゅうしゃさまからけいさいのおはなしをうかがったさい、このびじゅつかんもけいさいされるとしりまして…ボクはそのとき、なぜかはわかりませんが、ぜったいにこのびじゅつかんといっしょにけいさいされたいと、つよくおもったのです」
「写真嫌いを何とか克服して、絶対に掲載されたい…そう思ったんですね」
真宙くんの問いに、マーチさんは大きく頷いた。
「そうは思ったものの、その理由も写真嫌いの理由同様分からない…だから、とりあえずナツミさんの愛読書ってことにして俺たちに依頼したってことか」
「はい…ですが、なぜけいさいされたいって思ったのか…いまならわかります!コトネさんとのおもいでがあるこのびじゅつかんといっしょにはりねずみベーカリーが…ボクのしゃしんがけいさいされれば、このびじゅつかんのことをおもいだしてぷろむなどをよんだコトネさんがボクのことをみて、ボクに…ナツミにあいにきてくれるんじゃないかって、むいしきのうちにおもったからなんです!」
「マーチ、それは…!」
ナツミさんが困ったようにマーチさんの言葉を静止しようとしたが、マーチさんは首を横に振り話し続けた。
「ナツミが、コトネさんがくるしんでいることにきがつかなかったじぶんのこともコトネさんはうらんでいて、だからコトネさんはれんらくをくれなかった…そうおもっているのはしっています。でもボクは、きっとそうじゃないとおもうんです…なにかりゆうがあったのだと…」
マーチさんは、ナツミさんの手をぎゅっと握り、まるで今にも泣き出しそうな子供をあやすような声色で、
「コトネさんとわかれ、なんじゅうねんとねんげつがながれ、ボクもとしをとりました…。だから、あのときはわからなかったかんじょうも、いまならわかるんです。ボクたちがコトネさんのくるしみにきづけなかったのは、コトネさんがひっしにかくしていたから。そして、それはなぜか…ボクたちにしんぱいをかけたくなかったからですよ。それくらいボクたちをあいしてくれていたコトネさんです。ナツミにあいたいっておもってくれてるんじゃないか…そんなふうに、ボクはおもうんです」
そう、ナツミさんに向かって言った。
マーチさんのこの言葉は、言ってしまえば理想論でしかない。
マーチさんの言う通りかもしれないし、ナツミさんが思っているように自分の苦しみに気付いてくれなかった悲しみからナツミさんたちを遠ざけたのかもしれない。
その答えを知っているのはコトネさんだけだ。
一つだけ分かるのは、マーチさんが写真嫌いを克服できた理由。
コトネさんのことを思い出したマーチさんは、コトネさんとの絆を疑いもせず信じているーーただただ真っ直ぐに。
この真っ直ぐさは、マーチさんの強さだ。
コトネさんとの絆を真っ直ぐな気持ちで信じているマーチさんは、自分の写真が雑誌に掲載されることによって、コトネさんに見つけてもらえると、コトネさんと再会出来ると信じている。
その為であれば自分に出来ることは何でもしたいという強い思いが、写真への恐怖すらも打ち消したのだろう。




