Karte2『写真嫌いのマーチ』19
「コトネさんがあのふたりにいじめられていたことは、コトネさんがてんこうしてから、さんかげつほどたったときにしったのです…!コトネさんのひっこしさきをしりたいとせんせいにおたずねしたときに、じじょうをしるせんせいが…ナツミにだけほんとうのことをおしえてくれました…!」
「そう…そして、事情を知った私は当然あの二人が許せなかった…。でも、それと同時に…自分のことも許せなかったんです。大切な親友が辛い目にあっていたというのに、それに気付けずにいた自分が許せなくて…だから、この写真は"罪"なんです…この罪を忘れてしまわないよう、罪に気付いたあの日からずっと身につけているんです…」
私たちが抱いていた疑問、何故あえて忌々しい写真を身につけていたのか、その答え。
それは、親友を救えなかった自分に与えた罰だった。
ナツミさんは、コトネさんを傷付けた同級生二人以上に、自分のことが許せなかった。
だから、その罪の意識を抱えながら生きていくことを自身への罰としていたのだ。
「マーチが写真嫌いになった理由に心当たりがないと言ったけれど…きっと、この写真に写る笑顔に耐えられなかったからなんでしょうね…。裏では残酷な行いをしている人間が、写真では満面の笑みを浮かべている…その事実を知ったから、嫌いになったんだと思います…。マーチもコトネが大好きだったから…そうよね?マーチ」
マーチさんは、泣きながら大きく頷いた。
「ナツミのいうとおりです…。ボクは、いまのいままでわすれていました…このしゃしんのことも、コトネさんのことも…!ですが、わすれながらも、しゃしんにたいするけんおかんのようなものはおぼえていて…それでしゃしんがきらいになったんです。そして、このけんおかんのしょうたいに、ナツミもくるしめられているんだろうということを、わすれながらもかんじていました…ナツミを、そのくるしみからかいほうしたい…なぜか、そうおもっていたんです…!」
マーチさんは溢れて止まらない涙を何度もぬぐいながら、そう話してくれた。
「だから、俺たちとナツミさんを会わせたがってたんですね。理由は分からなくても、とにかくナツミさんを救わなくちゃいけないって思ったから…」
『ナツミさんに無理をさせなきゃいけないくらいの事情があるが、その事情をマーチさんは隠している』
私たちは当初そのように考えていたが、隠していたのではなかった、ーーマーチさん自身も分かっていなかったのだ。
何故そうしなければいけないのか分かっていなかったが、分からないながらもナツミさんが苦しんでいることだけはハッキリ分かっていて、そんなナツミさんを救うためマーチさんなりにがむしゃらに行動していたのだ。
「ふふっ…バカなくらい真っ直ぐで優しいあなたらしいわね、マーチ…ありがとう…」
ナツミさんはマーチさんを抱え上げ、優しく抱きしめた。
ナツミさんの細い腕は、自身の腕に爪を立てる自傷的行為に使うのではなく、大切な家族を抱きしめるためだけに使って欲しいーー二人を見ていると、そう思わずにはいられない。
マーチさんとナツミさんのやり取りを見守りながら泣いていたテディだったが、ふと、何かを思い出したように「うーん…」と唸った。
「どうしたの?テディ」
「あやちゃん…こんなこというの、くうきがよめないぬいぐるみだっておもわれちゃうかもしれないんだけど…。マーチさんがしゃしんぎらいになったりゆうも、ナツミさんにむりさせてまで、ぼくたちとあわせたがったりゆうもわかったよね。それが、マーチさんのこんぽんのなやみだってことは、ぼくにもわかるんだけど…つまり、つぎはマーチさんのこんぽんのなやみをかいけつするひつようがあって、そうしなきゃ、しゃしんぎらいをこくふくできないってことだよね?」
「おー、テディのわりに賢いじゃん。偉い偉い」
真宙くんは意地悪な笑みを浮かべながら、テディの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ぼくのわりにって、どういういみー!!?」
ぷんぷんと怒るテディを見て、マーチさんは「あははは!」と笑った。
「ありがとうございますテディさん!それにかんしては、おそらく…もうだいじょうぶだとおもいます。かんざきさん…もういちど、ボクをさつえいしてくださいますか?」
そう言うとマーチさんは、初めて会った時と同じように、真宙くんに自分のスマートフォンを渡した。
あの時と一つだけ違うのは、今のマーチさんの表情は憑き物が落ちたかのように清々しい。
スマートフォンを受け取った真宙くんは勿論、私もテディも、もう大丈夫だと自信満々なマーチさんに疑問を抱いた。
疑問を抱きながらも、真宙くんはスマートフォンを構え画角を調整しマーチさんに声をかけた。
「それじゃあ撮ります…ハイチーズ!」
《カシャッ!》
スマートフォンの画面には、多少強張ってはいるものの、カメラに向かって笑顔を作っているマーチさんの姿が写っていた。
「と、とれた…!しゃしんとれたよマーチさん!!」
「はい、テディさん!ボク、しゃしんさつえいをこくふくできました!!」
テディとマーチさんは「いぇーい!やったー!」と、元気にハイタッチした。
嬉しそうなぬいぐるみコンビとは裏腹に、私と真宙くんは呆気に取られていた。
ナツミさんは何か勘付いているのか、黙ってその様子を見守っているようだった。
空気が読めないと思われるのではないかとテディは言っていたが、テディが抱いていた疑問は正しい。
私たちがマーチさんから受けた依頼は、あくまで写真嫌いの克服を手助けすることであって、マーチさんが写真を苦手とする理由を解明することではなかった。
しかし、マーチさんが写真を苦手とする理由を解明することが出来れば、マーチさんの…そしてナツミさんが抱える根本の悩みを知ることができるのではないか。
そして、それを解決することができれば、そこから生まれたであろう写真嫌いという悩みも克服・解決できるのではないか…私たちはそのように考えていたのだ。
マーチさんとナツミさんが抱える根本の悩みである、コトネさんと同級生二人との過去を知ることができたーーこれが、現在の私たちの状況だ。
ここから私たちは、この根本の悩みから二人を救う方法を考え、写真嫌いも克服できるよう動く…はずだったのだが、どういうわけか段階を飛ばして、マーチさんは写真嫌いを克服することができたようなのだ。
「克服出来たのは良かったけど…何で克服出来たんだ?今の段階じゃ、マーチさんとナツミさんにとって辛いことを思い出しただけだよな?」
「うーん…理由が分からないモヤモヤから解放されたから…とか、辛いことだとしても忘れていた記憶がよみがえってスッキリしたから…とかかな」
釈然としない様子の私と真宙くんを見てマーチさんは申し訳なさそうに微笑みながら、こう言った。
「すみません、そうですよね…!おふたりがぎもんにおもうのもむりはありません。なぜボクが、かこをおもいだしただけでこくふくできたのか…そのこたえをおおしえします。そのこたえは、みなさんのもうひとつのぎもんのこたえでもあるんです!」
「もう一つの疑問?」
私と真宙くんは顔を見合わせた。
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