Karte2『写真嫌いのマーチ』13
「二人の関係はとても羨ましいのう…。作った物を送り出すことを生業としているからか、ワタシは物に愛着が湧かないんじゃ。いや、敢えてそうしてると言った方が良いのかな。だからお前たちやナツミとマーチの関係がたまにとても羨ましくなるよ」
確かに、完成した品がどんなに気に入った物であっても最終的に手元から離れてしまうのであれば愛着など持たない方がいいのかもしれない。
寂しそうな表情をするコトコさんにかける気の利いた言葉一つ思い浮かばない自分が嫌になる。
情けないが、この空気を換える為に私が出来ることは本題に入る事以外にない。
「今日はそのマーチさんとナツミさんのことでお話を伺いたいんです」
コトコさんは俯きかけていた顔を上げると怪訝な顔をする。
「連絡を貰った時も思ったが、マーチのことだけではなくナツミのことも知りたいのか?」
私は事の顛末を話し、一通り話を聞き終えたコトコさんは「うーん…なるほどなぁ」と腕を組んだ。
「例えばですが、マーチさんとナツミさんに共通の悩みがあるとか、そういった話を聞いたことはありませんか?今回マーチさんが写真嫌いを克服したい理由も、もしかしたらそこにあるのではないかと考えているんです」
「あっ!!」
私の問いに反応したのはコトコさんではなくテディで、何かを思いついたように「はいはい!」と元気よく挙手する。
「そもそもだけど、ナツミさんもしゃしんがニガテだったりしないの?ナツミさんって、ひととおはなししたりすることがニガテなんだよね?そういうひとって、しゃしんもニガテそうなイメージがあるよ!」
テディのこの言葉にコトコさんは困ったように顔をしかめる。
そして、どういう風に答えるべきか悩んでいるのか「うーん…」と呻くように考え込んだ。
「そうじゃのう...説明するより見てもらった方が早いかもしれないな」
しばらく考え込んだコトコさんはそう言ってスマートフォンを操作したかと思うと、画面に写真らしき画像を表示させ私とテディに見せてくれた。
「ワタシとナツミのツーショット写真じゃ!出会ったばかりの頃に撮った写真なんじゃが、ワタシの隣にいる女がナツミじゃよ」
二人で一緒に見ることができるようテディを抱っこし、スマートフォンに映し出された写真をまじまじと見る。
くすみがかっておりところどころ影も出来ていて鮮明ではないもののノスタルジックな質感が魅力のフィルムカメラ写真、それをスマートフォンで撮影したものだろうか。
古い写真を更にスマートフォンで撮影しているため鮮明ではないものの、バストアップの構図なのでどのような人物が映っているか認識できる。
そこには二人の人物が映っていて、まず向かって右側に写っているのはコトコさんだろう。
今の私と同年代であろう写真のコトコさんは、当然ながら今より若い...というより、華奢で小柄な体型と今も変わらないエネルギッシュな笑顔から、活発という意味で年齢よりも幼く見える。
その当時流行っていたのであろう大きな柄物が特徴のファッションがよく似合っている。
そんなコトコさんの隣には、派手なコトコさんとは対照的に装飾も柄もない白いブラウス姿の、コトコさんが小柄ということを差し引いても長身の女性と思われる人物が映っていた。
腰回りや胸のふくらみから女性であることは間違いないだろうが、断言できない理由がある。
ーー顔がハリネズミなのだ。
正確には、マーチさんによく似たハリネズミのヘッドマスクを被っている。
生地こそマーチさんとは別物のようで、ファーで表現された針が特徴的なマーチさんに対し、そのヘッドマスクのハリネズミの針は太い毛糸のようなもので表現されている。
しかし顔はマーチさんに本当によく似ているので、おそらくマーチさんが作られたメーカーと同じメーカーがヘッドマスク用に生地を変えて作ったものなのだろう。
「こ、このなまくびハリネズミさんがナツミさん!?」
「そうじゃよ。二人も知っているようにナツミはかなりの人見知りでのう、このマスクを着けないと人と話せないんだ。だから、ナツミも写真が苦手かどうかはワタシには断言できない。この写真を撮った時、ナツミも進んで撮りたがっていたから苦手ではないと思うのじゃが、このマスクを着けているから平気なだけで外したら苦手なのかもしれないし...」
「普通に平気かもしれないし、本当は苦手だけどヘッドマスクのおかげで克服しているだけかもしれないということですね。そして、ここに写っていないということは、この時からマーチさんは写真が苦手だったんですね」
「あぁ、だからマーチにはカメラ役を頼んだよ」
言われてみれば、やや下側から撮ったようなアングルだ。
小さいマーチさんでも撮影できるよう何か台の上に乗って撮影したものの、それでも高さがやや足りずこのようなアングルになったのが想像できる。
「ちなみになんですが、ナツミさんの人見知りって元々の性格なのでしょうか?マーチさんが写真が苦手になった理由と同じ理由で人見知りになってしまったとか、そういったことは考えられませんか?」
「いや、それはないよ」
コトコさんは先程の問いへの返答とは打って変わって今度はハッキリと言い切った。
「まずナツミの性格に関してだが、これは幼い頃からのものだと本人が言っていたし、人見知りゆえ友人も少なかったナツミのことを心配したナツミの両親がプレゼントしたぬいぐるみこそマーチなんだそうだ。次にマーチが写真嫌いになった理由じゃが、苦手になった理由についてはワタシにも分からないが、苦手になったタイミングは聞いたことがある」
「そっかぁ…ニガテになったりゆう、コトコさんもわからないんだねぇ…まぁマーチさんほんにんがわからないんだし、とうぜんだよねぇ…」
ガッカリとした物言いのテディを見て、コトコさんは再び顔をしかめた。
「客観的に見てこれが理由なのではないか、そう思い浮かぶことがあるのではないかとワタシに聞いてくれたんだろうが、役に立てずすまないのう…」
そう、昨日はりねずみベーカリーを後にする前、真宙くんがマーチさんに、
「肝心なことを聞いていませんでした。マーチさんが写真を苦手に思うようになった理由と言いますか…キッカケに心当たりや自覚はありますか?」
と確認したのだが、
「それが、きづいたときにはすでにニガテになっていたといいますか…もともとそんなにしゃしんをとるタイプでもなかったので、めいかくにいつからニガテになったのかも、そのりゆうもわからないんです」
と、マーチさんは困ったような表情を浮かべながら言っていたのだ。




