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ぬいぐるみたちのメンタルヘルス  作者: 三森れと
Karte2『写真嫌いのマーチ』
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Karte2『写真嫌いのマーチ』10

「え?」


マーチさんの意図が分からないお願い事に真宙くんは困惑の表情を浮かべるが、指名された以上断ることもできず「分かりました…」とマーチさんの身体の上に乗せられたスマートフォンを取った。


マーチさんに言われた通り、スマートフォンを構えマーチさんを画角に収める。


スマートフォンを向けられたマーチさんは、表情こそ笑っているが心なしか顔色が青ざめており身体が小刻みに震えているようにも見える。


そんなマーチさんの様子に真宙くんも気づいているようだが、こちらから中断しない方がいいと思ったのか画角の調整を続けている。


ベストポジションが見つかったようで、真宙くんは動きを止めスマートフォンを持つ手を固定する。


「じゃあ撮りますよ、ハイチーズ...」


真宙くんが『ズ』と発した時だった。


「わあああああああああああああああああああああ!!!!!」


マーチさんは突然叫び声を上げると真宙くんの手に向かって思い切りタックルをかまし、その衝撃を利用しスマートフォンを床に落とさせた。


「うわっ!!!な、何するんですか!?」


「マーチさんがまひろくんをこうげきした!?な、なんでぇ!?」


真宙くんはタックルが直撃した手をさすりながら唖然とし、テディはマーチさんと真宙くんを交互に見ながら怯えている。


「ま、マーチさん大丈夫ですか!?真宙くんも大丈夫!?」


私は床に落ちたスマートフォンを拾った。


マーチさんのスマートフォンは『この世界』でシェア率一位のスマートフォンOSの端末で、確かその最新機種だ。


『この世界』のことを知るために様々な情報を仕入れていた際、昨年末に最新機種の販売を開始したことを知ったのだが、最新機種の販売を開始してからまだ半年も経っていないはずなのにマーチさんのスマートフォンには沢山の傷が出来ていて、その傷の全てが落とした時の衝撃によって出来るであろう傷だった。


「もしかして、今みたいな反応をしてしまったことが過去にも何度かあるんですか?」


私の問いに、マーチさんは申し訳なさそうな顔をしながら頷く。


「はい…みていただいたとおり、ボクはしゃしんをとられることがにがてでして、じぶんのいしでさつえいしようとおもっても、いまのようにはんしゃてきにカメラをたたきおとしてしまうんです」


無理やり撮影されるようなシチュエーションならともかく、自らの意思で撮影したいと思った場合でもこのような反応をしてしまうということは、生理的に受け付けなくなってしまっているということだろうか。


マーチさんは私からスマートフォンを受け取ると、人間がぬいぐるみを抱くようにスマートフォンをぎゅっと抱きしめた。


その姿は必死に恐怖を抑えようとする子供の様で痛ましい。


「てんちょうというたちばじょう、ざっしのしゅざいをうけたりと、しゃしんさつえいのきかいはこれまでもありましたが、ボクのしゃしんはとらず、パンとみせのしゃしんのみというじょうけんでおうけしていたんです。ですが、さらいしゅうまつにはいっている、あるざっしのしゅざい...このしゅざいでは、きかくのこうせいじょうボクのしゃしんさつえいがひっすなのです。そして、そのしゅざいをボクはことわりたくないんです…」


「断りたくない?何か理由があるんですか?」


そう、真剣な表情で尋ねる真宙くんにマーチさんは「あぁ、すみません!ちがうんですちがうんです!」と慌てて否定した。


「ことわりたくないというのは、しじょうといいますか、たんじゅんなりゆうでして…ナツミのすきなざっしだからことわりたくないだけなのです。ほら!」


そう言ってマーチさんはスマートフォンに入っているブックアプリを開くと購入済みの項目を選択し、【ぷろむなど】という雑誌のバックナンバーを見せてくれた。


雑誌名の横には私たちが住むこの都市の名前が記載されており、どうやら各都市毎に内容を変えて発行している旅行・グルメ雑誌のようだ。


「このブックアプリはナツミときょうゆうしているものなんですが、このぷろむなどというざっしはナツミがよんでいるものなんです」


「あぁ、この雑誌なら俺も何回か買ったことあります。この都市を旅行する人に向けて作られている雑誌ではありますが、グルメ情報が多いから新しい店を開拓したい時に便利な雑誌なんですよね」


「はい!ナツミも、しんしょうひんかいはつのさんこうになるのと、ざっしのかんばんキャラクターであるねこちゃんのファンということで、このざっしをあいどくしているんです。だから、このざっしにのることができれば、ナツミもとてもよろこぶとおもうんです」


マーチさんはブックアプリを閉じると、再びスマートフォンを抱きしめる。


「ですのでみなさんにおねがいしたいのは、さらいしゅうまつのしゅざいとうじつまでに、ボクのしゃしんぎらいをこくふくできるよう、おてつだいいただきたいのです。しじょうでこのようなおねがいをするのももうしわけないのですが...」


「依頼の理由は人それぞれですし、犯罪絡みの依頼じゃない限りお断りすることはありません」


真宙くんの言葉にマーチさんは安堵したように微笑む。


「ありがとうございます!なにとぞよろしくおねがいいたします!」


「お役に立てるよう努めますので、こちらこそよろしくお願いします」


真宙くんのお辞儀に続く形で、私とテディもマーチさんにお辞儀した。


“何か”を克服したいという依頼はよくある依頼で、私も過去に一度携わったことがある。


あの時は依頼人であるぬいぐるみの持ち主から聞いた、ぬいぐるみの生活習慣から解決方法を導き出した。


今回のケースであれば、過去に撮影に関することで何かトラブルに遭遇したり恐怖を感じたことはなかったか、勿論撮影とは全く関係のないところから何らかの影響を受けている可能性もあるので、マーチさん自身の経歴や別の悩みを抱えてないか、これらを確認していくところから始める。


又、マーチさんにとって近しい人物…今のところ該当するのは持ち主であるナツミさんと友人のコトコさんだが、本来であれば彼女たちにも話を聞きたいところではある。


だが、コトコさんはともかく、マーチさんが写真を克服したい理由であるナツミさんに話を聞くのはマーチさんにとっては複雑な心境ではないだろうか。


勿論、ナツミさんが気負ってしまわないよう克服したい理由は伏せた上で話を聞くつもりではあるが…。


「嫌でしたら断っていただいて構わないのですが、もし可能でしたらナツミさんにもお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか…?」


嫌な顔をされる可能性が高いだろう、私はそう思いながらマーチさんに尋ねた。


ところがマーチさんの返答は私の予想に反するものだった。


「はい!さきほどもおはなししたとおりナツミはひとづきあいがニガテでして、しょたいめんのかたとはなすには、かなりのこころのじゅんびがひつようなのです。さいそくでもあさってあたりになるとおもいますが...それでもよろしいですか?」


「それは構わないですけど、そこまで人と話すことが苦手なのであれば無理強いはしないのでお断りいただいても...」


「いえ!」


私の言葉に被せるように、マーチさんは食い気味に断言した。


「ナツミにはボクからつたえておきますので、ぜひナツミからもはなしをきいてみてください。ナツミはボクのことをよくわかっています。ボクじしんにもわからないボクのことをしっているかもしれません」


「よろしくおねがいします」と頭を下げるマーチさん、その姿からは何か切実な事情を抱えているように感じられる。


切実な事情ーーきっとそれは、今私が感じている“マーチさんの発言の矛盾の理由(わけ)だろう。


真宙くんも同じく何か引っかかっているようで、マーチさんに気づかれないようこっそり私の肩を指で叩くと「一旦出よう」とアイコンタクトを取った。


私は頷き、ナツミさんへのアポイントはマーチさん経由で取ること、解決に向けて今後どのように動いていくか等を確認し、はりねずみベーカリーを後にした。


............





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