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ぬいぐるみたちのメンタルヘルス  作者: 三森れと
Karte2『写真嫌いのマーチ』
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Karte2『写真嫌いのマーチ』8

キャスターが告げた予報通り時間の経過と共に雲が増え始めた昨晩、その雲達はどこへ行ってしまったのだろうか、ここ数日で見慣れてしまった晴天が今日も広がっている。


ここまで晴天が続くとどこかで悪天候になるのではないかと、気象についての知識が全くない私は安直な不安を覚えてしまう。


それでもいざ外に出てみると、その不安を一瞬で忘れるくらい気分が高揚する。


セロトニンのおかげか、それとも私が単純なだけだろうか。


穏やかな気温の中を気を抜いて歩いてしまえば、仕事中であることを忘れ、のんびり散歩をしている気分になってしまいそうだ。


案の定テディは「おでかけしてるみたいだねー!」と上機嫌で私の右横を歩いている。


「キョロキョロしながら歩くなよ、お前のことだから転ぶか人にぶつかりそう」


テディの反対側...私の左横を歩く真宙くんが、私の横からテディの顔を覗き込み注意した。


「だいじょうぶだよ!」と反論するテディだったが、その直後何もないところで躓きそうになっていたので、真宙くんの注意喚起がなければ転んでいたかもしれない。


「まぁでも、テディが浮かれる気持ちも分かるわ」


躓きそうになったテディを見て呆れたように笑いながら真宙くんは言った。


「そうだね!こんなにいい天気だとお散歩してる気分になるよね」


「散歩というか、彩さんとデートしてるみたいで楽しいなって」


「え!?」


真宙くんの言葉に思わず叫んでしまい、近くを歩いていた人達が此方を見る。


今いる場所は街中ではなく住宅街なので、そこまで人が多くなかったのが不幸中の幸いだろうか。


私の反応が面白かったのだろう、真宙くんはこらえきれない笑い声を洩らしながら私の頭を軽く叩いた。


「ごめんごめん!冗談だよ。そんな反応するとは思わなかった」


どう返していいか分からず黙っていると、テディが何かを言いたそうに真宙くんの前に立ちふさがる。


テディが一緒にいてくれることによりこれ以上気まずくならずに済んで助かった...そう思ったのは一瞬で、


「ちょっとまひろくん!ぼくいるのわすれてないよね?あやちゃんくどくのやめてくれる!?あやちゃんはじゅんすいなんだから、もてあそぶようなことしないでよね!」


と、私を更に気まずくさせるようなことを言い出した。


「冗談だって言ってるだろ!さすがに俺も、仕事中に口説かねーわ」


「しごとちゅうに、ってことは、それいがいのじかんにくどこうとしてるってこと!?だったらちゃんとぼくにきょかとってよね!」


「なんでお前の許可が必要なんだよ!ったく…」


そう言って真宙くんはテディのことを抱きかかえ、


「とにかく、今は“マーチさん”のところに向かうぞ。だから前避けろ」


とテディが避けるよりも早く、力業で強制的に避けさせた。


「あの角を曲がったところにマーチさんの店があるはずだから、早く行くぞ」


「はーい...」


何事もなかったかのように仕事のスイッチを入れる真宙くんと、その真宙くんの肩に拗ねた表情でしがみつくテディ。


そんな二人の背を見ながら、私は気まずい気持ちのまま後を歩いた。


私のこの気まずさは、真宙くんが構ってくれたことによる嬉しさと、気持ちがすぐに伝わってしまいそうな反応しかできないことへの恥ずかしさが入り混じったものだ。


気持ちを切り替えられないまま角を曲がると、すぐに本日の目的地へとたどり着いた。


そこは五階建ての小さなマンションの一階に入ったパン屋さんで、軒先に吊るされた木製の看板には【はりねずみベーカリー】という店名とハリネズミのイラストが描かれている。


小さな丸窓から店内の様子がチラッと見える。


数十種類の様々なパンがぎっしりと並ぶチェーン店とは違い、厳選されたパンのみが置かれた棚は余白が目立つが、こんがり焼けたパンと同系色で統一感があるからなのか簡素ながらお洒落に見える。


私とテディが窓から店内を覗いていると、その横で真宙くんが看板と同じ木製のドアを開いた。


店内に入ると、丁度焼き上がったタイミングだったのか香ばしいパンの匂いが漂ってきた。


朝食を終えてからそこまで時間が経っていないにも関わらず急激にお腹がすいてしまいそうな魅惑の匂い。


「いいにおい!おいしそ~!」


よだれを垂らしながら店内を見まわすテディに、キャッシャーから「ふふふっ!」と優しい笑い声を上げたのは看板に描かれていたイラストにそっくりなハリネズミのぬいぐるみだった。


その身体は食パン一斤程の大きさしかないので人間のようにキャッシャー内に立つのではなく、レジと金銭の受け渡しトレーが置かれたテーブルの上に立っていた。


「おいしそうでしょう!いまちょうどクロワッサンがやけたばかりでね、あらねつをとったらてんとうにならべるから、クロワッサンがたべたいならすこしまっていてください!もちろん、ほかのパンもオススメですよ」


そう言ってハリネズミのぬいぐるみは自信に満ちた笑みを浮かべながら私達に会釈した。


「あ、いえ...」


真宙くんはキャッシャーに近付き、目線が合うよう身体を屈めてハリネズミのぬいぐるみの前に立つと、名刺入れから名刺を取り出した。


「俺達はぬいぐるみのクローゼットの者です。神崎真宙と花咲彩、そしてテディです」


名刺を差し出す真宙くんに続く形で私とテディもお辞儀する。


名刺を受け取ったハリネズミのぬいぐるみは「あー!」と納得したような声を発し、


「そうでしたか!そうともきづかずしつれいしました…!コトコさんから、あなたたちであればボクのなやみをかいけつしてくれるだろうときいておりました!」


そう言ってハリネズミのぬいぐるみは、キャッシャーのテーブルからピョンッと床に降りると「こちらにどうぞ!」と店内奥に併設された小さなイートインスペースに私達を誘導した。


「どうぞおすわりください!せっかくですから、おすきなおのみものとパンをめしあがってください!あ、もうしおくれました...!」


そう早口に言ったかと思うとハリネズミのぬいぐるみは姿勢を正し、


「はりねずみベーカリー店長のマーチといいます!コトコさんとはよんじゅうねんほどのつきあいになりますかね。どうぞよろしくおねがいします!」


そう挨拶するとニコッと目を細め「おのみものはこちらからおえらびください!」と私達にメニュー表を差し出した。

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