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ぬいぐるみたちのメンタルヘルス  作者: 三森れと
Karte2『写真嫌いのマーチ』
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Karte2『写真嫌いのマーチ』6

女性ーーコトコさんの言うように、夢野さんからその名前を聞いたことがあった。


その名前を聞いたのはぬいぐるみのクローゼットで働くことが決まった日、店について説明を受けたときだ。


ぬいぐるみのクローゼットの従業員は店主である夢野さん、メリーさん、アルバイト店員として在籍している真宙くん。


…そしてもう一人、社員として在籍している従業員がいるらしいのだが、その人は訳あってしばらく顔を見せていないそうで私も詳細を聞かされていない。


そこに加わる形で私とテディが真宙くんと同じようにアルバイト店員として在籍させてもらっており、以上の面々でぬいぐるみのクローゼットを運営しているが、当然従業員の力だけで店を運営できるわけではない。


例えば、ぬいぐるみのクローゼットの場合はブティックで販売する服飾品を卸してくれる業者が必要だ。


中町コトコさんは、ぬいぐるみのクローゼットのブティックで販売している靴の仕入れ先である、ぬいぐるみ用靴店【猫のステップと幸運の靴】の職人だ。


事務的なことは娘夫婦に任せ、コトコさんは猫のステップと幸運の靴で販売する全ての靴を一人で作っている。


これまでは靴の製作を専門としていた猫のステップと幸運の靴であったが、新たに帽子作りに取り掛かっているのだそうで、ぬいぐるみのクローゼットでも販売できるよう打ち合わせを重ねている…夢野さんからはそのように聞いていた。


「くつしょくにんのコトコさんだー!すごいひとだってきいてるよ!ぼく、あってみたかったんだよー!」


「あははっ!ケイイチ坊ちゃんから聞いていた通りの、無邪気で愛らしい子だねぇ…!」


コトコさんを前にはしゃぐテディをコトコさんは笑いながら撫でると、再び私の方を見た。


「ケイイチ坊ちゃんから“色々”と話は聞いておる。坊ちゃんもメリーも真宙坊も良い奴らじゃが、男所帯ゆえ困ることもあるだろう…奴らに話せない相談事があれば、いつでもワタシを頼るんだよ」


そう言うとコトコさんは胸ポケットから紺色の名刺ケースを取り出し、私に名刺を差し出した。


名刺の裏面にはコトコさんの私用の物だと思われる電話番号が記されている。


“色々”というのは、『もといた世界』から『この世界』に異世界転移してきたことだろう。


動くぬいぐるみが普通に存在している『この世界』だが、それ以外のことは『もといた世界』と変わらない。


つまり、『この世界』の感性でも異世界転移はありえないことーー大々的に公言できることではない。


それでも、何かのタイミングで誰かに助けを求める必要が出てくるかもしれない…その時のためにと、夢野さんが信頼できる数名の人間に私たちのことを説明してくれていたのだ。


コトコさんは、その“信頼できる数名の人間”の内の一人なのだろう。


これは最近メリーさんから聞いたことだが、夢野さんはあまり人を信用するタイプではなく、ぬいぐるみのクローゼットの従業員数が少ないのもそれが理由なのだそうだ。


コトコさんは、そんな夢野さんが信頼できる人間ということ。


初対面の私とテディに対し、まるで昔から見守ってくれているかのように気さくに接してくれる温かさ、夢野さんが信頼しているのも頷ける。


私はコトコさんから差し出された名刺を受け取ると


「ありがとうございます!よろしくお願いします」


と深く頭を下げた。


テディも私の真似をして「よろしくおねがいします!」とお辞儀する。


私たちのやり取りを静かに見守ってくれていた夢野さんが、私とテディが頭を上げたタイミングで口を開いた。


「連絡いただければ迎えに行きましたのに…わざわざお越しいただきありがとうございます。もしかして完成しましたか?」


その言葉にコトコさんは「そうじゃよ!」とニコッと笑うと、メリーさんを手招いた。


メリーさんは「おぉ!それでいらっしゃったんですね!」と、ふわふわの毛を弾ませながらコトコさんの前に立った。


コトコさんはその場にしゃがみ込むと、持っていた紙袋の内の一つから円柱の白い箱を取り出しメリーさんの前に置いた。


「これじゃよ!」


そう言って箱を開けると、その中にはチョコレートのように暗いブラウン色のシルクハットが入っていた。


仕事中のメリーさんが被っているワイン色のシルクハットと似たような型だが、いつも被っているものとは違い、ツバの部分にシルクハットと同じ素材で作られた飾りが施されている。


羊のモチーフと板チョコレートをモチーフにした飾りだが、シルクハットと同色のワントーンで作られているので子供っぽさがない。


外見はわたあめのように可愛いが実はぬいぐるみのクローゼットの年長者であるメリーさんにピッタリのデザインだ。


「おぉ!これはすばらしいシルクハットです!さっそくかぶってみてもよろしいでしょうか?」


「勿論だとも!」


メリーさんは手で頭の毛を軽く整えると、箱からシルクハットを両手で持ち上げそのまま自分の頭に被せた。


「すごーい!!メリーさんにピッタリだよー!!かわいいけどかっこよくて、メリーさんのためにつくられたぼうしってかんじだよー!!」


テディが感嘆の声を上げる。


まるで自分がもらったかのようにはしゃぎながら、シルクハット姿のメリーさんを様々な角度から眺めている。


「そうかそうか!テディもそう思うか!ワタシも、我ながらいい仕事をしたと思っておるぞ!」


コトコさんはそう誇らし気に言った。

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