Karte2『写真嫌いのマーチ』4
「そういえば真宙くんは荷物が届くまで寝てるんじゃなかったの?」
私は低い声で唸るテディのお腹を撫でながら真宙くんに尋ねた。
プレイに熱中しすぎてグラスに注いでから今の今まで誰も口にしていなかったのであろう、グラスいっぱいのオレンジジュースを飲みながら、真宙くんは「あー…」と顔を上げた。
「そのつもりだったんだけど、このゲームに入ってるミニゲーム、いくつか懐かしいのがあってやりたくなってさ。例えばこのミニゲームとか!」
そう言って真宙くんは一時停止状態にしていたゲーム画面を再開させ、十字ボタンを何回か押してミニゲームを選択した。
《みんなでおおなわとび!》というミニゲーム名のテロップが表示されると、すぐにルール説明の画面に切り替わる。
「せっかくだし、彩さんもやってみてよ!俺とメリーさんが相手になるからさ!」
「なんと!あやさんとプレイするのははじめてです!これはたのしみですねぇ!」
私と一緒にゲームが出来ると目を輝かせて喜ぶメリーさんを見てしまっては断ることが出来ない。
真宙くんからコントローラーを受け取ると、私はルールの説明画面に注目した。
ルールを確認しながら練習も出来る仕様になっており、説明のテロップの下には、大縄を持ったライオンのぬいぐるみとプレイヤーキャラクターが四体表示されている。
プレイヤーキャラクターはどれも動物のぬいぐるみで、今画面に表示されているのは黒い羊のぬいぐるみ、白い羊のぬいぐるみ、ヤギのぬいぐるみ、キリンのぬいぐるみだ。
黒い羊のぬいぐるみは夢野さん、白い羊のぬいぐるみはメリーさん、ヤギのぬいぐるみは真宙くんが使用しているプレイヤーキャラクターで、キリンのぬいぐるみはCPUのキャラクターだ。
先程まで夢野さんが使用していたコントローラーを使わせてもらっているので、私は夢野さんのプレイヤ-キャラクターである黒い羊のぬいぐるみを操作する。
縄に引っかからないようタイミングよくボタンを押してプレイヤーキャラクターをジャンプさせるだけのシンプルなゲームだが、徐々に回すスピードが速くなったりタイミングをずらされたりと、意外と難しいゲームだ。
「練習はもう大丈夫だよ!」
何回か練習させてもらい、私は二人に声をかけた。
「オッケー!」
「それでは…いざしょうぶです!!」
メリーさんがスタートボタンを押すと《3,2,1》とカウントが始まり、《ゴー!》のテロップと音声を合図にライオンのぬいぐるみが大繩を回し始める。
練習したばかりで操作に慣れている私は勿論、真宙くんもメリーさんもタイミングよくボタンを押す。
しかし、中盤の大繩が逆回転したところでまずは真宙くんが操作するヤギのぬいぐるみが脱落し、同じテンポで回されていた大繩が突然速度を緩めたところでメリーさんが操作する白い羊のぬいぐるみが脱落した。
《フィニッシュ!》の掛け声で大繩の動きが止まる。
なんと、私が勝ってしまった。
正確には私と、強さを《げきつよ》に設定されていたCPUが勝ってしまった。
メリーさんは興奮気味に
「すごいですあやさん!!あやさん、じつはゲームがとくいだったんですねぇ!!げきつよコンピューターさんとおなじレベルのうでまえだなんて!」
と、ふわふわの毛を弾ませながら私に向かって身を乗り出した。
「練習させてもらったからだよ。あと、『もといた世界』にもこういうゲームがあってね。自分から進んでプレイすることはほとんどなかったけど、子供の頃は仲良くしてた友達の家で遊ばせてもらってたんだ…懐かしいなぁ」
「でしたら、ほかのミニゲームもできますよね!あやさんも、ワタクシたちといっしょにあそびましょう!コントローラーはもうひとつありますので、げきつよコンピューターさんにはおやすみしてもらって、あやさんのプレイヤーキャラクターをえらびましょう!」
メリーさんはテレビボードの引き出しにしまわれていたコントローラーをゴソゴソと取り出す。
体調を崩しているとはいえテディを仲間はずれにしてしまうことに負い目を感じ、私はテディの方をチラッと見た。
テディは私がゲームをしていることにも気づかずに「もうたべられないよう…むにゃむにゃ……」と寝言を発しながら熟睡している。
食べ過ぎによる体調不良で寝込んでいるにも関わらず、夢の中でもお腹いっぱいになるまで食べ物を口にしているらしいテディを見て、私はさすがに呆れてしまった。
「うーん…テディもしばらく起きなさそうだし、少しだけ遊ぼうかな!」
メリーさんがコントローラーを探している間にキッチンから私の分のグラスを用意して、みんなが飲んでいるものと同じオレンジジュースを注いでくれていた真宙くんは、グラスをテーブルに置くと意地悪な笑みを浮かべ私の隣に座った。
「じゃあ彩さん、どっちがより多くのミニゲームで勝てるか、俺と賭けない?」
「まひろさん、かけごとはかんしんしませんねぇ…」
「別にお金賭けるわけじゃないし良いだろ。負けた方が勝った方の願いを叶えるとか、そういうのだって!ね、彩さん!」
「うん!私、負けないよ!」
「あれ?彩さんも一緒に遊んでくれるのかい?嬉しいなぁ!」
いつの間にかリビングに戻ってきていた夢野さんが、熟睡するテディを起こさないよう頭をそっと抱え、テディの頭の下に枕を挟んでくれていた。
続けて毛布をそっとかけ、テディの頭を優しく撫でると
「この子のことを起こしてしまわないように、ちょっとだけ静かにしながら、みんなで思いっきり楽しもうか♪」
と口元に指を当てて無邪気にウインクしてみせた。
「そうときまれば、このすばらしいじかんをさらにすばらしいものにするために、ポップコーンと、いつでもおかわりできるようにあたらしいジュースををよういしましょう!」
「いやいや、さっきも全然ジュース口付けてなかったじゃん。なくなってから取りに行けば良いだろ。ポップコーンだけ持ってくるよ」
「あぁ、ポップコーンならこの中に入ってるよ。真宙くんにも教えたことなかったっけ?ゲームプレイ中に食べる用のお菓子ストックの置き場所」
そう言って夢野さんはテレビボードの引き出しを開けようとした。
「ケイイチ、そのなかにはポップコーンはいっていませんよ?さきほど、あやさんのコントローラーをとりだすためにあけましたが、ポップコーンはありませんでした!」
「あれ?おかしいな、こういう時の為に多めに入れておいた筈なんだけど…ここにないならストックはないから、また買っておかないとね」
「ワタクシ、ストックをそのなかにいれていたことはしりませんでしたが、そのストックをかったひのことはおぼえてますよ。このまえかったばかりで、それもさんふくろほどかいましたよね?…まぁないのならしかたありませんねぇ…きょうはクッキーにしましょう!ポップコーンをたべながらのゲームはつぎのきかいにとっておくとして、そのときはテディさんもいっしょに、みんなであそびましょうね、あやさん!」
「うん!」
メリーさんの言葉に返事でもするかのように、寝返りを打ったテディが幸せそうな顔で「やったー…!むにゃむにゃ…」と小さな寝言を発した。
…….……




