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ぬいぐるみたちのメンタルヘルス  作者: 三森れと
Karte2『写真嫌いのマーチ』
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Karte2『写真嫌いのマーチ』2

夢野さんの家及びぬいぐるみのクローゼットは、ある政令都市の最も人口が多い区に位置する。


市役所の所在地でもあり、様々な商業施設が集積している、まさに市の中核だ。


この都市のシンボルともいえる中央公園は全長一・五キロメートル程の長さがあり、季節ごとに植え替えられる花壇は訪れる人々を魅了する。


観光でこの都市を訪れる人はまずはこの区にある中央公園を訪れ、公園を出発地点として地図を片手に観光するのだそうだ。


その為、中央公園の周辺には商業施設を始め大中小様々なジャンルのお店が並んでいる。


私とテディが向かっているレストランは中央公園の西端側にあり、観光客向けのホテルがたくさんあるエリアなので、海外からの観光客も多く利用するレストランなのだそう。


それもあり平日でも満席になる事が多いと聞いていたので、数日前から予約していた。


ちなみに『この世界』と『もといた世界』は、動くぬいぐるみの存在、企業名や商品名、住んでいる人間こそ違うが、逆を言うとそこくらいしか違いがないので、この都市(ここ)も『もといた世界』に存在していたが、私とテディが住んでいたのは別の地方なので、まだまだ土地勘がない。


なので、私もしばらくは地図を手放せなさそうだ。


レストランに到着し、入口に立っていた女性スタッフに予約名を告げると「お待ちしておりました」と柔らかな笑顔で店内に迎え入れてくれた。


ステンドグラス製の窓とランプ、石畳風のタイルが張られた床、昔見た魔法使いものの映画に出てきそうな幻想的な店内は結婚式でも使われるというだけあってとても広い。


そんなレストランの利用者はというと、ネットで話題になっているということもあり若い女性客が多く、そして、やはり海外からの観光客も多いようだ。


そんな若い女性客の席にも海外からの観光客の席にも、持ち主と共に、動くぬいぐるみ…生命を宿したぬいぐるみが座っている。


テディのように大きなぬいぐるみは人間の大人サイズの椅子に座り、もう少し小さな作りのぬいぐるみは人間の赤ちゃんサイズの椅子に座っている。


ただ、よく見ると人間の椅子と比べ高めの作りになっているようなので、ぬいぐるみ用に作られた椅子なのだろう。


更に小さい手のひらサイズのぬいぐるみは持ち主の肩や膝の上に座っていたり、テーブルの上にお行儀よく座っている。


キャリーケースをあえてクロークに預けずに、それを椅子代わりに使用しているぬいぐるみもいた。


『この世界』では有名なキャラクタービジネス企業の看板キャラクター、老舗ぬいぐるみ会社のテディベア、ハンドメイドと思われるフェルトのマスコット…様々なぬいぐるみが、持ち主と共に食事を楽しんでいる。


『もといた世界』ではありえない光景だが、『この世界』ではごくごく普通の光景だ。


只、ごくごく普通の光景とはいっても『この世界』の人間全員がぬいぐるみ愛好家というわけではない。


興味がない者もいれば、苦手意識を持つ者だっている。


ぬいぐるみとの関りが多い世界ゆえに『もといた世界』よりも大々的にぬいぐるみとの日常を楽しむ人が多いだけであって、全員が全員ぬいぐるみと一緒に生活しているわけではないのだ。


それにも関わらず、このレストランの利用者のほとんどがぬいぐるみと共に食事を楽しんでいるようだった。


幻想的な店内と美味しいオムライスで有名になったレストランだと聞いていたが、もしかしたらぬいぐるみと過ごしやすいレストランとしても有名なのかもしれない。


私とテディは“予約席”と書かれたプレートが置かれた席に着き、女性スタッフから受け取ったメニューブックを一緒に眺めた。


「テディはやっぱりオムライス?」


「うん!あとね、ぼく、クリームソーダものみたいんだー!」


「昨日の夜、アイス三個くらい食べてたよね…?お腹壊さない?」


「ぼく、おなかつよいからへいきだよ!あとね、ミートソーススパゲティもたべたいなー」


「じゃあスパゲティは私が注文するから、一緒に食べよっか」


「うん!…あっ!でもまって、やっぱりぼくスパゲティじゃなくてグラタンがいいかも…おいしそうなのいっぱいあって、まよっちゃうよ~!」


「ゆっくりえらんでいいよ!今日はお休みだから、時間はいっぱいあるしね」


魅力的なメニューの誘惑により涙目になりながら悩むテディに私は笑いながら言った。


テディが決めるのを待っている間、私は周囲を眺める。


斜め向かいの席では真珠色の上品なセットアップを着こなしたシニア世代の女性が、デザートが入ったパフェグラスの横にビーズクッション仕様のしろくまのぬいぐるみを座らせ、それをカメラで撮影している。


その隣の席では二十センチ程の大きさの黒猫のぬいぐるみと、その黒猫のぬいぐるみに覆いかぶさるような体勢でポーズを取る女性を、男性がスマートフォンの画面に収まるよう画角を変えながら撮影していた。


どちらの席も、所謂“ぬい撮り”を楽しんでいるようだ。


とは言っても、どちらの席のぬいぐるみも生命を宿したぬいぐるみなので、この場合はぬい撮りと言うよりも記念撮影と言ったほうが正しいのかも知れない。


ちなみに、自宅や外出先、旅行先等の様々な場所でぬいぐるみの写真を撮るぬい撮りという文化は『もといた世界』にも存在した。


只、私はテディとそういったことをしたことがなかった。


単純にする時間がなかったというのもあるし、撮影した写真を公開するようなSNSを利用していなかったというのも理由ではある。


だけど、それ以上に、大好きなはずのテディと一緒に外を歩きたくなかったというのがぬい撮りをしたことがなかった理由だ。


他のぬいぐるみと比べ体が大きいテディと外を歩けば、どうしても目立ってしまう。


人の視線を気にしてしまう私には、テディと外を歩く勇気が持てなかったのだ。


だから、『この世界』で人目を気にせずテディと一緒に外を歩けることがうれしい反面、『この世界』のような環境にでもならない限り、テディと堂々と歩くことが出来ない自分が腹立たしくもある。


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