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ぬいぐるみたちのメンタルヘルス  作者: 三森れと
Karte2『写真嫌いのマーチ』
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Karte2『写真嫌いのマーチ』1

那須さんと白ウサギちゃんがぬいぐるみのクローゼットに訪れた先週の木曜、あの日はここ最近で一番の快晴と言われていたが、あの日から一週間連続で快晴が続いており、陽気な太陽に誘われた人々が平日・週末問わず外に出ていた。


そんな雲一つない快晴が続いていた昨日までとは様子がやや異なり、今日は一割程ではあるが雲が見えていて、時間が経つにつれ少しずつ雲が増え始めると天気予報のキャスターが言っていた。


それでも天気がいい事には変わりないし、何より、今日はテディと一緒に外出しようと前々から約束をしていた日なので、私とテディにとっては今日が一番の快晴日であるかのように心が踊っている。


今日はぬいぐるみのクローゼットの定休日、従業員各々が自分にとって最高の休みを楽しむ日だ。


夢野さんとメリーさんは最新作のテレビゲームを二人でプレイすると昨日の夜から言っていた。


『もといた世界』ではあまりゲームをしてこなかった私でさえ知っているパーティーゲームシリーズによく似たタイトルのゲームで、最大四人まで同時にプレイできる。


その為、朝食を終え、みんなで紅茶を飲んでいるとメリーさんが目を輝かせ「きょうはまひろさんもいっしょにプレイしましょう!みんなでプレイしたらぜったいたのしいです!」と真宙くんを誘った。


朝食後すぐにダイニングテーブルから二・五人掛けのメインソファーに移動した真宙くんは、メインソファーよりやや小さいサブソファーでメリーさんと共に紅茶を飲みながら、スマートフォンでゲームの電子説明書を読んでいる夢野さんを指さし、


「この人のせいで俺は今日も寝不足なんだよ!だから俺は寝る!夕方に俺宛の荷物が届くはずだから、それまでは絶っっっ対に起きませんー!」


と夢野さんへの文句を交えながら今日のスケジュールを宣言した。


文句を言われた夢野さんは、説明書を表示させていたスマートフォンをサイドテーブルに置きニコッと笑うと、


「ごめんね真宙くん、大音量でプレイしないと気分が上がらないんだよ。今度耳栓買ってくるから、それまで我慢してくれるかな?」


と悪びれる様子もなく言った。


実年齢よりも落ち着いた印象を与えるラウンドフレームの眼鏡も今はかけていない、知的さと柔らかさが混ざり合ったアーモンドアイを細めて夢野さんは笑った。


「何で俺に耳栓させようとしてるんだよ!!そっちがヘッドホン着けるべきだろ!!」


「ヘッドホン着けてたら君たちに何かあった時に気づけないでしょ?ねぇ、テディ」


「うん!」


テディは紅茶にイチゴのジャムを入れながら元気に返事をする。


「何でお前は夢野さんの味方してんだよ!絶対俺の言い分が正しいだろ!」


「でも、としうえのひとのいうことはきいたほうがいいんだって、メリーさんがおしえてくれたんだよー!それに、ゆめのさんは、ゲームしながらぼくたちのこときにかけてくれるんだよ!ゆめのさんやさしいんだよー!」


「そのとおりです!」


テディからジャムの瓶を受け取りながらメリーさんは「テディさんはいいこですねぇ、ホッホッホ!」と笑った。


真宙くんは諦めたように深いため息を吐くとメリーさんからジャムの瓶を受け取り、ティースプーンからこぼれそうな量のジャムを紅茶に入れ、適当に溶かしてから勢いよく飲んだ。


私と真宙くんは同年代の二十代で、夢野さんは私たちより少し年上の三十代。


とはいえそこまで大きく年が離れているわけではないので、仕事や真面目な話をする時以外の夢野さんは、年上の友達のような接し方を私たちにしてくれる。


特に真宙くんには同性ということもあってか、無遠慮な振る舞いをすることも多い。


全てを優しく包み込むような包容力を纏う仕事中の夢野さんの姿しか見たことがない人は、プライベートの夢野さんの姿を見たら驚くのではないだろうか。


溶けきらなかったジャムをスプーンで口に運びながら真宙くんは私の方を見た。


「彩さんはテディと一緒に出掛けるんだっけ?」


「うん!」


「そうだよー!」


私の言葉にかぶせるように、テディが一段と元気に答える。


「あやちゃんとね、ちゅうおうこうえんのちかくのレストランにいってくるんだー!オムライスがおいしいってゆうめいなんだってー!」


「あぁ、あそこのレストランか」と呟きながら真宙くんはティーポットに残っていた紅茶を自分のティーカップに注ぐ。


勢いよく飲んだせいで足りなかったのだろう。


「行ったことはないけど、テレビのロケにもよく使われてるし、ネットでも口コミとかレビュー記事がよく流れてくるから店のことは知ってるよ」


夢野さんも真宙くんに同調し、


「ブティックのお客さんにもファンが多いお店だから僕も知ってる。楽しみだね、テディ。彩さんといっぱい食べておいで」


とテディに笑いかけた。


「うん!たべるー!」


朝食を食べ終えたばかりだというのに、オムライスに思いを馳せたテディの口元からはよだれがたれていた。


私はテディのよだれを拭きながら


「そういうことでして、私とテディは夕方頃家に戻ります。レストランの後にインテリアショップにも行きたいので、それくらいの時間になるかと…。お昼ご飯にクラムチャウダーを作ったので、よかったら常備菜と一緒に食べてください」


と、家の主である夢野さんに私とテディのスケジュールを報告した。


「ありがとう、お昼に頂くよ。彩さんも、今日は何も考えずゆっくり楽しんでおいでね」


「はい!」


レストランも楽しみだが、レストランから歩いて十分程の場所にあるらしい、全国展開している大手インテリアショップに行くことも楽しみにしていた。


夢野さんの家には調理器具こそ揃っていたが食器は必要最低限の数しかなく、本来客人用の食器を使用することによって五人分の食事を並べることが出来ていた。


この家に来てから、料理が日々の作業から趣味へと変わったことで、『もといた世界』では興味すら湧かなかったオシャレな食器やテーブルグッズにも興味が出てきた。


テディも夢野さんも真宙くんもメリーさんも、飲み物の好みこそ若干異なるものの食べ物の好みはほぼ一緒で、みんなの好みに合わせた結果、和食よりも洋食を作ることが多いのだが、夢野さんの家に元々あった食器はどちらかというと和食向きだ。


夢野さん曰く食器は人から貰ったものばかりで、その貰った食器は偶然にも和食器ばかりだったそうだ。


先日作ったトマトスープの時もそうだったが、今日作ったクラムチャウダーも何人かは味噌汁椀で飲むことになる。


メインディッシュ用の大きなお皿、グラタン皿にスープマグ、欲しいものがたくさんある。


買ってきた食器は早速今夜の夕食から使おうか…。


朝食を終えたばかりだというのに既に夕食のことを考えている私もテディのことが言えないではないか…私は可笑しくなって一人で小さく笑った。


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