005
(SUPIKA’S EYES)
僕は勇者、スピカ。
青い服に、茶色のズボン。女で生まれても、髪を短く切っていたのが僕だ。
顔つきも、男っぽく凜としていた。
男として、育った。女であることは、勇者としてはマイナスにしか働かないからだ。
世界を救う為に、魔王軍と戦っていた。
長い旅の果てに、僕は魔城トーリーに辿り着いた。
仲間と一緒に辿り着いて、魔王バロルと戦っていた、筈だった……
戦っていたはずなのに、途中からの記憶が無い。
僕は気がつくと、不思議な部屋に辿り着いていた。
見慣れない機械、見慣れない本棚と本、それから二つの気配。
一つは、まがまがしい気配。
小さな女の子から、感じる邪悪な気配。
邪悪な気配は、魔王バロルのオーラによく似ていた。
もう一つは、感じた事がない気配。
不思議な感覚で、まるで別次元のオーラのようなものを感じられた。
それは、女の子の隣の男から感じた。だが、普通の人間ではないと僕は直感した。
「ここは、どこだ?」
僕は周囲を見回し、右手には勇者の剣を持っていた。
室内なのは分かるが、仲間の姿がない。
さっきまで戦っていた魔城トーリーの城内で無いことだけは、理解は出来た。
「危ないぞ、その武器」男が、怯えている様子だ。
「やはり来たか、女勇者」女の子は、不敵な笑みを浮かべていた。
僕が女の子を見ると、黒のワンピースを着ていた。
優雅な女の子は、怪しく笑う。
赤く大きな瞳で、ツインテールの女は立っていた。
すぐさま僕は、剣先を女の子に向けていた。
「魔王の気配がする。お前は、ここで生かしておく訳にはいかない」
「だろうな」女の子が、不敵に笑う。
「ちょっと待て、こんな狭い場所で剣を振るな!」
僕と女の子の間で、男が困った顔を見せていた。
男の方を振り向いた瞬間、僕はなぜか少し照れくさい顔を見せていた。
「あっ」思わず、剣を治めてしまう僕。
「どうした?勇者よ?」女の子は、怪しく笑う。
僕が見たのは、ボサボサ髪の男性。
年齢は二十代ぐらいの男だろうか、僕と同じぐらいの年齢だ。
背は少し高く、肌つやもいい男性。
赤いシャツを着た男を見るだけで、僕は急に照れくさくなってしまった。
(な、なんだ、この男……)
普通ではないのは、直感で感じた。
見た目こそ普通の男性だけど、神々しさと……かっこよさを感じられた。
まるで別の生き物ではないかと思えるほど、美しさに僕は目を奪われた。
僕の顔が、急に自然と赤くなっていた。
熱でもあるのかと思うほど、体も熱くなった。
そんな男が、僕の方をじっと見てきた。
「お前、もしかして……」
「な、な、なんだ?」動揺している僕。
「勇者スピカだろ」
「あ、え、え、うん」
モジモジとして、僕は答えていた。
女の子は、両手を広げて深いため息を吐いていた。
「やれやれ……」
「全くだ。とりあえず、俺の名前は『伊伝居 男駆』。
こっちがエフネ……まあ、知っているかもしれないが」
「魔王の娘のエフネだ」
女の子が自己紹介をした瞬間、僕はただならぬ気配の正体を知った。
この女は、やはり魔王関係の人間だった。
しかも、まさか魔王に娘がいたとは。
顔を凜とさせた僕は、すぐにエフネから距離を取って剣を構えた。
「魔王は、いかなる理由でも許してはおけない」
「だから、落ち着け。スピカ!」
「これが落ち着いていられるか!」
「ここは、君たちがいた世界……ルドファークじゃない」
男……男駆が言うと、僕は一瞬迷ってしまう。
なんだ、この男。男駆……とかいったな。声も甘く……僕を魅了してくるのか。
そうだ、彼の事を僕は何も知らない。
そんな彼の目を見ると、僕は剣を躊躇ってしまった。
それと同時に、照れて顔を赤らめている僕がいた。