003
(DANKU’S EYES)
秋田の郊外に、とある一軒家があった。
閑静な住宅街というのがぴったりのこの場所に、赤い屋根の一軒家があった。
それが俺の家というより、シェアハウスだ。
リビングの真ん中には、こたつが置かれていた。
大きな掘りこたつで、足を暖めながらタブレット端末をペンで操作していた。
今、俺はタブレットで絵を描いていた。
(ここを、こうすればいいんだよな)
こたつテーブルの上には、スマホも置かれていた。
俺はスマホに表示されたメモを確認しながら、タブレットで絵を描いていた。
「おっ、描いているな」
背が高く日に焼けた男性は、爽やかな顔で俺に声をかけてきた。
スポーツ刈りの金髪、ピアスもしている若い男だ。
白のロンTに、黒のズボンのチャライ男。
彼の名は、鹿山 遼。
この一軒家……『仙志荘』で、一緒に暮らしていた。
「出来たよ、次のモンスター。
雪男モンスターの『サスクワッチ』だっけ?」
「おっ、雰囲気出ているじゃん!」
描いているのは、毛むくじゃらのずんぐりむっくりモンスター。
二足歩行で大きな足が特徴で、顔も真っ白な毛で覆われていた。完全な雪男だ。
「大きさは2メートルほど、体重150キロ、力士だな」
「細かい設定は、全てプロデューサー様の指示通りだからな」
「相変わらず、プロデューサーには忠実だな。
見た目アニメっぽいところが、あまり怖さを感じないけど」
「いいんだよ、『グランドファンタジア』はポップなRPGだから」
まもなく俺が、タブレットで絵を描き終えた。
描いているのは、ゲームに出てくるモンスターの絵。
一応中ボスキャラなので、気合を入れて描いていた。
「でもお前はモンスター描いているよりより、キャラグラの方が好きなんだろ」
「当たり前だ。一日に一回俺は、少女のキャラを描かないと飢え死ぬ。
少女キャラ、幼女キャラ……超描きてぇ」
アレルギーのように、ボリボリ自分の顔を搔きむしっていた。
「相変わらずロリコンだな、男駆は」
金髪日焼け男鹿山が、呆れた顔を見せていた。
俺の名は、伊伝居 男駆。
鹿山と同じで、ここに暮らしている人間の一人だ。
この仙志荘は、シェアハウス。元々、俺たち四人で暮らしていた。
「次のゲームは、この後も作るのか?」
「『グランドファンタジア・機械の塔』は、ちゃんと制作するさ。
プロデューサーがいなくても、残されたメモがあるし」
「プランナー芝童森も、ちゃんとプラン立てているのか?」
「アイツは、代理プロデューサーだからな。
シナリオはほとんど出来ているし、プロデューサーが残してくれたメモがあるから」
「でも、プロデューサー……恵太はいない」
鹿山は、しんみりとした顔を見せていた。
そばに座った鹿山に、俺は前を向いていた。
「それでも、次の作品を作るのが俺たちの役目だ」
「言っておくが、スポット参戦だぞ!俺は」
鹿山が、必死に首を横に振っていた。
「でも、今回も楽曲制作しているんだろ」
「一応しているけど……なんかプロデューサー直根がいないと……」
「同じ、この仙志荘だったしな」
『直根 恵太』という人物が……いた。
元々このシェアハウスにもいた同居人だけど、一ヶ月前突然いなくなった。
理由は分からないが、突然の行方不明だ。
一ヶ月経った現在も、警察が行方不明事件として捜索が続いていた。
「まだ、死んだって決まったわけじゃない」
「そうだけど、夜勤のバイト帰りに……ここに帰ってこなかったんだろ」
鹿山の言葉に、返す言葉がない。
それは事実だし、現実として今もそうなっていた。
いなくなった直根 恵太こそ、グランドファンタジアのプロデューサーであり、最高責任者。
俺たちの同人ゲームサークル(インディケーター)のリーダーでもある人物。
何より直根はこの俺にとって、一番付き合いの長い人間でもあった。
「俺は、このゲームを完成させたら恵太が戻ってくるんじゃないかと思っている」
「それは、あくまで漫画だけの世界だろ」
「奇跡……ってヤツを、信じたいだけだよ。
アイツは……恵太は絶対に死んでいないし」
俺は恵太のことを、信じていた。信じるしか無かった。
だからこそ、俺はこのゲームの完成を進めていた。
スマホには、最後のストーリーまでのプロットやキャラのメモが残されていた。
「分かったから、いいゲームになると……」
「間違いなく、いいゲームになるさ。早々バグ取りのことだけど……」
「グラの方は五十土に頼んだから、俺はプログラムの方を確認する。
後は、担当であるキャラの方はやるけど……」
鹿山に指示を出しながら、俺は立ち上がった。
タブレットを持ち、こたつから出ていた。
「どうした?」
「仕事の時間は終わりだ。
俺はきっちり仕事を終えたんだし、無論定時退社だ」
「定時退社って……ここお前の家だぞ」
「鹿山の分は、手伝わない。
それと、まだ前作をクリアしていないから……そろそろしないとな。
テストプレーはやったけど、ちゃんとやったこと無かったから。俺たちが作ったゲーム」
「ああ、『グランドファンタジア・闇の大地』か」
「そそ。今ちょうど、魔城トーリーに行ったところだから」
「思いっきりラスダンじゃん」
鹿山の言葉を背に、俺はリビングを出て、自分の部屋に戻っていった。