002
(YUUSHA’S EYES)
神は世界に、光と闇をもたらした。
闇の大地、フォートマス大陸は魔王バロルを生み出す。
光の大地、オーシャンタン大陸は僕を生み出した。
闇を晴らす、正義の存在……それが勇者スピカ。
短い髪に、青い服。勇者の冠を被って、茶色のズボン。
胸当ての鎧を着けた、キリッとした目の女。
僕の名前はスピカ、勇者だ。
勇者は代々受け継がれていて、世界の闇を晴らす使命を持つ。
僕が歩いている場所は、フォートマス大陸の中心にある魔城トーリー。
魔王バロルの居城で、仲間と共に長い旅を経てここにやってきた。
勇者である僕は、歩いていた。
魔城トーリーの長く続く廊下を、僕の後ろから仲間が一緒に歩いていく。
手には、長い『勇者の剣』を握って周囲を見回した。
「スピカ、魔物の襲撃が無くなったわね」
「そうだな」
後ろから、女の声が聞こえた。
緑色のローブを着た、厚化粧の女。
年上の女は、僕の仲間の一人『新緑の魔女』アルクだ。
高名な魔女で、森に住んでいたところをスカウトした僕の仲間。
「だが、こういう所こそ油断は禁物なのだろう」
アルクの隣、赤い鉄の鎧を着た男が姿を見せた。
手には鎖のついた鉄球、重そうな鉄球をジャラジャラと音を立てて歩いていた。
中年男性は、赤い鉄の兜を被っていて目が細い。
背も僕より高く、小太りだ。
彼の名は、『千人斬りの戦士』デボネラ。
彼も、僕が選んで仲間にした人物。
「そうだな、デボネラ。それと、ケイ」
「はい」
デボネラの後ろには、一人の人間。
黒く短い髪で、青の神官服を着た男性。
彼の名前は、ケイ。若い神官は、影が薄い。それでも魔法の腕は一流だ。
大人しい青年の彼は、手に短い木の棒を持っていた。
「三人、僕の旅につきあってくれてありがとう」
長く続く廊下、この奥にはまがまがしい気配を感じた。
奥には、魔王の存在を感じていた。
僕はそれが分かったし、三人もそれを感じているだろう。
「よせやい、まだ終わっていないだろ」
「そうよ、最後の大物が残っているでしょ」
アルクとデボネラが、気持ちを高ぶらせていた。
「いまここで、感謝を伝えようと思って。
最後の戦いが終わったら、ちゃんと話すことが出来なくなるかもしれないし」
「それ、死亡フラグよ」アルクのツッコミに、デボネラが笑う。
それを、ケイが黙って見守っていた。
そんな仲間に出会えて、僕は最高だ。
この仲間達に出会えて、本当に良かった。
最後の魔王を倒せば、僕らの長い旅は終わる。
「大丈夫、僕らは死なない。絶対に負けない」
「そうね、かなり強くなったし。
ここに入ってからも、あたしたちは強くなった実感があるからね」
「この建物、三十階建ての魔城だったよな。俺たち一体何日、ここにいる?」
くたびれた顔を見せていた、デボネラ。
それを、アルクが優しくなだめていた。
「戦いが終わったら、デボネラ……あんたはダイエットね」
「えー、ダイエットか」
「太りすぎだから、疲れやすいのよ」
「鉄球を振り回すのに、この体系がいいんだ。
なあ、ケイ。お前の力で、痩せさせる魔法は無いのか?」
「ない」ケイは、真顔で速攻で否定した。
「魔法の力に頼っては、ダメよ。デボネラ、ちゃんと痩せなさい。
アンタは痩せないと、長生きできないわよ」
アルクに小姑のように言われて、デボネラは拗ねた顔を見せていた。
そんな仲間を見ながら僕は、前を向いていた。
「行こう。僕らの最後の戦いに。
神が与えた、僕らの使命を果たすために」
僕らは前を進むと、間もなくして奥に王座が見えた。
王座のそばには、一人の猪男。
執事服を着た猪と、王座には一人の老人が姿を見せていた。
僕は、すぐに理解した。王座に座る人物こそ、僕が倒すべき敵である事を。
「魔王バロルっ!」
「よくきたな、勇者スピカと仲間達よ」
魔王バロルは、月並みの言葉で僕たちを出迎えていた。
だが、このときの僕らはまだ知らない。
この後、まさかの悲劇が起ることに。