#59 ハロウィンの冒険①
今回の中心人物→五人全員
十月も終わり近いある日の放課後。
旋一は、 「拠点」で謙司と貫太に向かって言った。
「なあ、 今度大京港の公園でハロウィンのイベントがあるねんけど」
「ハロウィン……」
「都市伝説や無かったんか」
そう謙司と貫太は口々に言った。 蓬ヶ丘では、 そのようなハイカラなイベントは起こらなかったのである。
「で、 そのイベントに何かあるんか」
と謙司が言った。
「よう聞いてくれた。 実は、 そのイベントでコスプレコンテストをすんねん」
「コスプレコンテスト……?」
と謙司は返した。
その顔には、 「また変な事考えとんな」という色が宿っていたが、 旋一は構わず続けた。
「おう、 俺らでコンテストに出t」
『却下』
と、 謙司と貫太は同時に言った。
「いくら何でも、 それは勘弁しろや。 そんな大勢の人に見られるんは、 文化祭でコスプレをするんとは訳がちゃうわ」
そう謙司は言ったが旋一は、
「エエんか…? 優勝の商品は商品券三万円分やぞ? お前、 この前新しい本が買いたいけど金があんま無いって言うてたやんな?」
と返した。
それを聞いた謙司は、 「う……」と黙ってしまった。
家はそれなりに金持ちと言える謙司だが、イコール自分で使える金が多いというわけでは無いのである。
「まあ、 別に俺ら五人全員がコスプレする必要は無いから。 協力さえしてくれれば、 後は三万円を山分けしてもええからな」
と旋一が言った所で、 教室の扉が開いた。
「あ、 みんな居たんや」
「おお、 淳太朗か。 今日は映研の活動は無かったんか?」
と旋一は言った。 最近の淳太朗は、 映画研究部に顔を出す事が多くなり、 「拠点」の方に来る事は減っていたのだった。
「うん。 今日は観る映画も無いから、 皆がどうしてるか気になって来たんやけど……」
「心配症やなあ、 淳太朗はぁ。 俺らはいつでもメッチャ元気やん。 それで、 淳太朗は映画研究部の活動は上手く行ってんの?」
「うん。 まだこれって言う目標があるわけや無いけど、 映画の話したりとかは思ってたよりも出来てるし楽しい……な。 何やかんや言って、 皆ええ人やし……」
それを聞いて少し顔を綻ばせた旋一だったが、 ふと何かを思い立ったような表情になった。
「そや。 俺らでハロウィンのコスプレコンテストに出るんやけど、 映研に特殊メイクとかの勉強してる人って居いひん?」
旋一の質問の意図を察した淳太朗はためらいがちに、
「いると言えばいるけど……」
と答えた。
「ホンマに!? やったら、 その人にコスプレのメイクして貰えるか頼んでみてくれへん? もちろん、 優勝の商品が入ったらその人にも渡すから」
案の定、 旋一は聞いてきた。
淳太朗は迷ったが、 やはり「特殊メイク作業の現場が見られるかもしれない」という好奇心には勝てなかった。
「一応頼んでみるけど……でも、 ちょっと変わった人やから引き受けてくれるかは分からへんよ?」
「おう、 ダメ元でお願いするわ。 後は……真にも頼んでみんとアカンな。 コンテストで優勝するためにはアイツの力も欲しいからな」
と言って、 旋一はメールを打ち始めた。
「何か、 なし崩しに参加させられる事になってへんか? 俺ら……」
「割といつもの事やと思うぞ……」
と、 貫太と謙司は言い合った……
*
*
*
一方その頃。 真は、 以前と変わらず軽音楽部で練習に打ち込んでいた。
あの日の告白以降、 こずえは本格的に受験勉強に入り、 部に顔を出す事も無くなっていた。
真は、 そんなこずえを「彼氏」として支えるべく、 部活が終わった後はまめに会ったり、 メールを送ったりしていた。
もちろんそれだけではなく、 よりこずえに相応しい男になるべく練習にも熱を上げていた。
ひと言で言えば、 今まで以上に忙しい毎日を送っていた。
そんな時、 旋一からメールが送られてきた。
(「部活が終わったら校門裏に来い」……一体何の用事や?)
真がやや訝しげに思いながらも校門裏に行ってみると、 そこには旋一と謙司がいた。
「こんな所に呼んで何の用や?」
と言う真に旋一は、
「今度皆でハロウィンのコスプレコンテストに出るんやけど、 真も出場してくれへん? もちろん、 優勝したら賞金も分けたるから」
と単刀直入に言った。
「付き合うてられへんわ。 俺はいろいろ忙しいねん。 金が欲しかったらバイトするし、 悪いが他を当たってくれ」
と言った真だったが、 旋一は、
「エエんか? もし参加したら、 秘蔵のエロ本を見せたんぞ」
と迫ってきた。
それを聞いた真は、 「う……」と固まってしまう。
やがて、 「おい、 それでエエんか彼女持ち……」と言う謙司のツッコミも虚しく真は、
「やる」
と答えたのだった。
「でも、 俺コスプレなんてした事ないけど大丈夫なんかな?」
と言う真に旋一は、
「なんか、 淳太朗がメイクとか詳しい人に頼んでくれるらしいぞ。 まあ、 忙しかったら最悪、 当日に一発勝負でも何とかなるやろ。 そんなら、 また連絡するわ」
と言った。
そして、 何度かの打ち合わせを経てコンテスト当日の夕方。
案の定、 忙しくて打ち合わせには参加出来なかった真だったが、 旋一たち他の四人とともにとある家へと向かっていた。
旋一によると、 そこでコンテストの準備をするらしかった。
家の扉を開けると、 カラフルなバンダナを巻いて赤い縁の眼鏡を掛けた少年が待っていた。
「えーと、 この人が映研二年の鷺沼先輩。 プロのメイクアップアーティストを目指してはる」
と淳太朗が紹介した。
「やあ、 鹿野君とは初めましてやね。 今紹介して貰うたけど、 ボクが映研の鷺沼。 この前羊田君にコンテストへの協力を頼まれたんやけど、 特殊メイクの練習にもなるし是非にもとボクも協力させてもうたワケや」
と鷺沼は言った。
「僕のパパは画家やから、 使わなくなったアトリエをメイクの練習室としてボクが使わしてもうてんねん」
鷺沼は家の奥へと歩きながら軽い口調で説明した。 いかにも、 芸術家肌と言った感じの少年だった。
「さあ、 ココがメイクのアトリエや」
と、 家の奥の扉を開けて鷺沼は言った。
中には、 メイク道具や映画キャラが着るような衣装が所狭しと並んでいる。 淳太朗が、 興奮気味の表情でそれを見つめた。
「まあ、 そんな時間も掛けられへんし実際にコスプレするんは三人くらいになるかな。 この前言ってた通り、 犬塚君、 馬路君、 そして鹿野君でええかな」
まだ少し抵抗のある真だったが、
(秘蔵のエロ本のため、 秘蔵のエロ本のため……)
と心で繰り返してテンションを高めて行った。
「おう。 団体の部は三人から出られるし、 言い出しっぺの俺は出るとして、 後コスプレ映えしそうなんはその二人でしょ」
と旋一は言った。
「ふむ。 そんなら、 早速やって行こう。 まあ、 さすがに映画みたいに本格的なわけには行かへんけど」
と、 鷺沼はメイク道具を手にして言った。
「馬路君は……体格がええから、 フランケンシュタインの怪物とか似合うんとちゃうかな」
「文化祭の時と同じか……」と小声で貫太は言ったが、 それを気にせずに鷺沼は貫太の顔に化粧の粉を付けて行った。
そして30分ほどが経った。
「さあ、 出来たで馬路君」
鷺沼は貫太に鏡を渡して言った。
「おお……」
最初はあまり乗り気で無かった貫太でさえ、 感嘆の声を上げた。
「映画みたいなわけには行かない」と言っていたものの、 やはりそのクオリティは文化祭の時とは段違いだった。
「これは優勝イケるんちゃう!?」
と、 旋一がはしゃぎながら言う。 それを見る他の面々の表情にも、 高揚感が漂ってきていた。
「じゃあ、 次は犬塚君」
「俺は何のコスプレさせてくれんの?」
鷺沼の言葉に、 旋一がワクワクした様子で答えた。
「犬塚君は……ゾンビとかええんちゃう?」
「ベタやなぁー」
と旋一が返すやいなや、 鷺沼はメイクの準備に取りかかる。
そして、 やはり30分ほど後。
旋一は、 まさにゾンビを思わせる風貌になった。
「ヘヘっ……イケてるやん」
と、 旋一は満足気に言った。
「さて、 最後に鹿野君やけど……」
と、 鷺沼は真の顔をしげしげと見つめた。
「……素晴らしい! 君には、 ウィッチのコスプレをして貰うわ」
「……えっ、 魔女??」
事態を飲み込めないといった風に真が言う。
そうしているうちに、 鷺沼は部屋の奥からウィッチの衣装とウィッグを持ち出してきた。
「いやあ、 さすがに女子には練習台になって貰いづらいからなあ。 君が来てくれて良かったわ」
自分の身に何が起きようとしているか理解した真は鷺沼の手を取って「ちょ、 待っ……」と言おうとしたが、 鷺沼の「あ、 ちょっと押さえといて」という声を聞いた旋一と貫太によって、 両手の自由を封じられた。
「やっぱ、 もっとフリフリの付いた服がええか」
「思ったより筋肉があるねんな。 ハリウッド女優みたいでええ感じや」
「君の顔立ちやったら、 こうした方がもっと目がパッチリして見えるで」
などと言いながら、 鷺沼は真のメイクと衣装合わせを進めていく。
そして何十分かが経ち、
「ふぅ……出来たで」
と鷺沼は言った。
旋一たち四人は思わず目を奪われた。
そこに居たのは、 まだウィッグも衣装も付けていないものの、 「美少女」と言っても違和感の無い顔立ちをした存在だった。
鏡を見た真は戸惑った。
自分が中性的な顔をしていると言う自覚はあったが、 メイクをするとここまで「化ける」ものか。
「イヤア、 メイクッテスゴイッスネー。 ココマデカワルナンテ」と棒読みで真は言ったが、
「いや、 メイクだけやなくて君の素材が良かったからや」
と鷺沼は追い打ちを掛けるように言った。
「まあまあ、 秘蔵のエロ本見せたるから」
と旋一が笑いを堪えるように言った。
「お前、 そう言えば何でも済むと思ってるやろ……」
と真が言うやいなや、
「じゃあ、 ウィッグや衣装は向こうで着けたらええし行こか」
と鷺沼が言って、 真たちは鷺沼の祖父の運転するワゴン車へと乗り込んだのだった。
(つづく)




