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#54 僕らの文化祭~馬路貫太side~

今回の中心人物→貫太、はるか

 真が舞台袖で待機していたまさにその頃。

 貫太は、 クラスの出し物であるお化け屋敷でフランケンシュタインの怪物の衣装を着て立ちながら、 (アイツ)はそろそろ舞台に出る頃かな、 などと考えていた。


(吹部は野球部員の応援をするモンやのに逆に励まされてもうたなとか()うてたけど、 こっちこそ夢中で頑張るお前に勇気付けられてんねん)


 そう思いながら、 スマホでこの日の予定を確認していた。

 今日、 貫太ははるかを文化祭に誘っていた。

 そして文化祭の雰囲気に乗じて、 あわよくば二人の関係をもっと進めて……などと考えていたのである。

 基本的には純情な貫太だが、 彼も一介の高校生男子であるからして、 こういう考えを抱くのも無理からぬ事であろう。

 そして、 その計画を実行するのははるかの部活が無い今日でなくてはならなかった。


(よし、 まだ莵道からのメールは来てへんな……)


 と思いながら貫太はメールボックスを見た。

 貫太の考えている予定はこうだった。


 はるかから学校に来たという連絡が来たら、 自分の仕事が空いた時を見計らってお化け屋敷を抜ける。

 誰かから一緒に文化祭を回ろうという誘いが来ても、 何か理由をつけて一人になる。

 そして、 あらかじめ決めていた待ち合わせ場所にいるはるかと落ち会うと、 二人で人気のない所まで行ってあれやこれや……


 そう長いこと模擬店を開けるわけにも行かないので、 はるかからの連絡が来たら迅速に彼女の元に向かわなければならないが、 自分の体力なら問題ない。

 そう貫太は考えていた。

 ……その時は。



 やがて、 貫太のスマホにメールが来るのとほぼ同時に、 「交代の時間やでー」という声が聞こえてきた。

 貫太たちのクラスのお化け屋敷は、 全員に文化祭を回れる時間が取れるように、 同じ役を体型の似た複数の生徒が持ち回りで担当する事になっているのである。


 貫太は先のメールを見た。

 やはりはるかからの物で、 ご丁寧に待ち合わせの時間まで指定してある。

 きっと、 あいつも早く俺に会いたいんやろうな。

 などと思いつつ、 フランケンの衣装を他の生徒に渡して貫太は教室を出た。

 一刻も早くはるかに会いたいと、 逸る気持ちを抑えながら階段を降りていると、


「ちょっとええか? 馬路君」


 という女子の声が聞こえてきた。


「何や?」


 と貫太が振り向くと、 別のクラスの女子たちが看板を持って立っていた。


「ウチのクラスの店に看板を運びたいんやけど、 私らだけやとキツいし、 馬路君やったら力あるやろうから手伝ってほしいんやけど……」


 それを聞いて、 貫太はスマホで時計を見た。

 まだはるかとの待ち合わせの時間には少し余裕があるようだった。


「よっしゃ、 そういう事やったら手伝うわ」


 貫太はそう言うと、 女子たちと一緒に……いや、 実質的には彼一人で看板を教室の前まで運んでいった。


 看板を床に置き、 女子たちの「ありがとう、 馬路君」という声を聞くと、 貫太はスマホの時計を見た。

 今からでも、 余計な事をしなければはるかとの待ち合わせ時間には間に合いそうだった。


 貫太は再び歩き出した。

 ……だが、 階段を降りて廊下に差し掛かった所で二年生の教室の方から、


「君、 一年の馬路君やんな。 ちょっと手伝ってほしいんやけど……」


 という声が聞こえてきた。


「……はい、 馬路っスけど何スか?」


 と言う貫太に、


「君身体デカいやんか。 ウチの模擬店の飾り付けが外れてもうたから、 取り付けを手伝ってほしいんやけど……」


 と、 その二年生女子はクラスの天井近くを指差した。


「……」


 そこらの二年生より背の高い自分を少し恨めしく思いながらも貫太は、


「はい、 分かりました」


 と答えた。

 やはり根は体育会系なだけあって、 先輩の頼みは邪険に出来ないのだった。

 貫太は模擬店の中に入ると、 小柄な体格の二年男子を肩車しながら飾りの取り付けを終えた。


「助かったわ、 馬路君」

「あざっす」


 先輩の言葉にそう答えると、 貫太はスマホを見た。


「げっ……」


  取り付けをしている間に、 急いで歩いてもはるかとの待ち合わせ時間に間に合うか間に合わないかという時間になっていたのだった。


(ヤバい、 ヤバい、 ヤバい……)


 頼むからもう誰も声を掛けないでくれ、 そう思いながら貫太は待ち合わせ場所へと急いだ。

 だが、 無情にも三年の教室の方から、


「あっ、 そこの()()()()君、 ちょっと来て!」


 という声が飛び込んできた。


「今度は何じゃ……いや、 何スか……?」


 さすがに少し声を荒げながら貫太が言うと、


「ちょっとウチのクラスの喫茶店で、 無料サービスにするのはコーヒーがええか紅茶がええかってモメてるねんけど、 君強そうやからちょっと止めに入ってくれへん?」


 とその三年生女子は答えた。


「…………」


 こうして考えている間にも、 はるかからの物と思われるメールの通知が鳴る。

 貫太は頭が爆発しそうになりながらも、


「わ、 分かったっス……言い争いを止めたらいいんスね……」


 と言った。

 貫太が扉を開けて教室に入ると、 言っていた通りに三年生の男子二人が言い争っていた。

 貫太は二人の間に割って入ると、


「いいっスか……? コーヒーも紅茶も同じ飲み物っス。 どっちかに決めてしまわずに、 お客さんの飲みたい方をサービスしてあげたらええでしょう……」


 と言った。

 その貫太の血走った目とドスの利いた口調に二人はたまらず、


『は、 はい……』


 と言うのだった。

 貫太はその二人の姿を確かめると、 教室を出た。


 貫太はスマホを見た。 案の定画面には、 はるかからのメールが山のように連なっていた。


(うおおおおおっ!!)


 心の中でそう叫びつつ、 貫太は猛然と走ってはるかとの待ち合わせ場所に向かった。


(アカン、 息が切れてきた……中学の頃ならこれくらいでは全然平気やった気がする……やっぱ、 野球やめて体力が落ってきてんのか? クソっ……)


 などと考えながら校舎を出て校庭に向かい、 ようやくはるかとの待ち合わせ場所に着いたのだった。



 校庭の外れの、 やや目立った木の下にはるかは立っていた。


「遅いわ、 馬路君」


 と、 はるかはややむくれた顔で言った。


「ハァ……ハァ……わ…悪いな……」


 と、 頭を下げながら言う貫太に向かってはるかは、


「……なんてな、 冗談やで」


 と、 笑顔になった。


「馬路君の事やから、 ただのワガママと(ちご)て、 みんなの助けになってあげてたんやろ?」


 そう言うと、 改めて貫太の方を見つめて言った。


「ウチさ、 中学時代(あのころ)馬路君と別れた時、 たぶんちょっとワガママやったんやと思う。 でも、 今もう一回付き()うて思うてるねん。 ちょっと困ったりとか、 気が合わない時があっても全然受け入れられるくらい、 馬路君の事が好きやって」

「……」


 はるかは、 俺より全然大人やなと貫太は思った。 

 それに比べて俺は、 一人ではるかとの関係を深めたいとかイキって、 挙げ句こんなつまらん事ではるかに嫌われるかもとか気にして。

 考えたら、 逆にはるかが待ち合わせに遅れたとしても、 そんな事で俺がこいつを嫌いになるはずなんて無いのに。


 そう、 自分もそれくらいはるかの事を思うてる。 貫太は改めて思った。


 そんな時。 体育館の方から、「♪夢の破片 握りしめて 夜の果てを 走る影……」という真の声が聞こえてきた。

 その歌声に背中を押されるように、 貫太は言った。


「……なあ、 ちょっと体育館の裏まで行かへんか?」


 それを聞いて、 はるかもゆっくりと頷く。

 貫太は()()()()()()、 教師や他の生徒たちの目を気にしつつ、 二人で人気のない体育館裏へと移動した。


 真たちの演奏が微かに聞こえる中、 貫太とはるかは見つめ合った。

 人でごった返す文化祭。 だが、 彼らにとって、 この瞬間世界にいるのは確かに二人だけだった。


「……なあ……お前の事、 ()()()って呼んでええか?」

「……じゃあ、 こっちも言わせてもらってええ? ()()君」


 夕陽を受けて照らされるはるかの顔。 体育館の中から聞こえる歓声。

 そのムードに当てられて、 はるかへの想いが限界まで燃え上がったかのように、 貫太は大きく乗り出すと彼女の細い肩にその大きく逞しい手を置いた。

 そして、 二人は互いにその唇と唇を近づけようとする――

 が、 やはり顔を赤らめてどちらからともなく顔を背けてしまった。


「やっぱり、 これ(キス)はまだちょっと早いか……」


 と貫太が言うとはるかも、


「そ、 そやね……」


 と返した。

 貫太は頭を冷やすように空を見上げると、


(ま、 まあ、 一歩一歩やな……)


 と思うのだった。

(つづく)




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