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#53 僕らの文化祭~鹿野真side~

今回の中心人物→真

 暗い空間の中、 真は本番での指の動きを確かめるようにギターの弦に手を伸ばした。

 今、 まさに軽音楽部がライブをする体育館の舞台袖で、 真たち【STAY GOLD】のメンバーは待機していた。


 ついに今日、 文化祭のステージの上で、 自分たちは初めて大勢の観客の前で演奏する。

 そして、 こずえ達三年生はこの文化祭ライブをもって引退する。


 つまり、 こずえに見合った男になれたかを示すにはこれが最大にしてほぼ最後のチャンスと言って良かった。

 その事を考えると、 真の手に否が応でも緊張が走る。 

 真は何も言わなかったが、 他のバンドのメンバーも彼のその想いに感づいていて、 神妙な面持ちで真を見つめていた。

 すると、


「おーい【STAY GOLD】の皆、 ステージを降りた人に渡すペットボトル用意してくれる?」


 という二年生の声が聞こえてきた。

 一年は演奏以外にもいろいろやる事があるのである。


 ステージから降りた別バンドのメンバーに水を渡しながら、 真は客席の方を見た。

 舞台袖から少し覗くだけでも、 生徒たちは今のバンドの演奏で大きな盛り上がりを見せているのが分かる。

 中学時代も吹奏楽部で何度も全校生徒の前で演奏した真だったが、 生徒の数も熱気もやはりそれとは段違いだった。

 さすがの真も少し気圧されそうになっていると、


「調子はどうや? 鹿野君」


 と軽く背中を叩かれた。

 あまりになじみ深い声に真が振り向くと、 後ろに出番を控えたこずえが立っていた。


「あっ……先輩。 やっぱ、 スタジオで演奏するのと客の前で演奏するのとは大分緊張感が違うっスね」

「まあ、 今後は嫌でも観客の前で演奏する機会が出てくるから、 そのうち慣れてくるわ。 とりあえず今日は、 頼れる先輩が客席を暖めといたるから、 皆はドーンと構えといたらええよ」


 とサムズアップして、 こずえはステージへと向かって行った。

 その姿を見て、 真は少し心が落ち付いた気がした。

 これが、 俺の憧れの人……そして、 俺が追いつきたいと思っている人。



 こずえ達のバンドがステージに行くのを見送ると、 真たちは舞台袖から彼女達を見た。

 こずえが「私たち【アティチュードフラワー】は今日で解散するけど、 最高に盛り上がる演奏をしたるから、 ヨロシク!」

 と宣言すると、 場内から大歓声、 さらにそれに混じって「やめんといてー」と言う声が上がる。

 それだけで、 彼女たちが今まで積み上げてきた人気が伺えた。


 こずえのヴォーカルと共に、 【アティチュードフラワー】は人気のガールズバンドの曲を演奏し始めた。

 どのパートの演奏もクオリティーが高かったが、 やはり真の目はこずえに注がれた。

 自分も練習してきたが、 やはりこずえの演奏はそれよりもずっと上手く思える。

 声量や歌唱力も凄い。 こずえが間奏で観客を煽ると、 客席が一気に沸く。 その姿には、一種のカリスマ性すら感じられた。


 だが、 何より真を惹きつけたのは彼女の躍動感だった。

 Tシャツ姿のこずえが縦横無尽にギターをかき鳴らし、 曲を歌い上げる。その度に、 彼女の亜麻色の髪はライトに照らされて美しく輝く。

 飛び散る汗さえ、 躍動するこずえの美しさを引き立てるアクセントに思えた。

 そんなこずえを見ながら、 真は彼女に始めて会った時の事を思い返した。


 まだ真が入学して間もない頃。

 部活の勧誘が行われている中を彼が歩いていると、


「君、 ギター持ってるって事は、 もしかして軽音志望?」


 と声を掛けられた。

 その声の主こそが、 こずえだった。


「ウ、 ウッス……」


 と真は言葉少なに答えた。

 その頃の彼はまだ、 まともに話す事もできないほど女子に対する免疫が無かったのだった。

 そんな真の言葉を聞いて、


「フフッ、 クールぶってるんかな? そんなに気取らんと素直に話した方がええと思うよ。 何か好きなジャンルとかある?」


 と、 こずえは少し顔を近づけて聞いた。


(クールぶってるんと(ちご)て、 緊張で声が上手く出ないんスよ!)


 と真は心の中で思った。 今も、こずえと顔を向き合わせるだけで動悸が激しくなる。

 でも、 この人と一緒に部活を頑張れたらええな、 とも真は思った。 そして、 いつか自分の演奏を聞かせられたら……


「オ、 オルタナとか……」


 と、 真はありったけの声を絞り出すように言った。

 これが、 この時の彼に出せる精一杯の勇気だったのだ。


「へえ、 結構渋い趣味してんね」

「あ、 兄貴がいろいろ聴かせてくれたんで……」

「ふうん。 ……うん、 やっぱさっきみたいな感じより、 今みたく素直な感じで話した方がええよ。 君、 名前は?」

「し、 鹿野真……っス」

「よし、 じゃあ、 軽音は○○教室でやってるから、 いつでも来てや鹿野クン」


 そう言って真の肩をポンと叩くと、 こずえは別の生徒の元に向かって行った。

 その時の笑顔が、 真の心に深く刻まれたのだった。

 ……

 …………

 ………………


 やがて、 こずえ達は二曲目の演奏も終えると、 観客に「次は一年の【STAY GOLD】の初舞台や。 応援ヨロシクな」と言って舞台袖へと戻ってきた。

 真はこずえにペットボトルを渡すと、


「本当に凄かったッス、 先輩……」


 と声を掛けた。 それは、 真の心からの気持ちだった。


「フフっ、 ちょっとは後輩たちに格好ええトコ見せられたかな? 次、 鹿野君達も頑張ってな」


 と言ってこずえはペットボトルを受け取った。 それは、 勿論純粋に先輩としての言葉でもあっただろうが、 真には「頑張って、 私に見合うような男になってごらん」というメッセージのようにも思えた。


 だが、 実際の所真は今のライブに圧倒されていた。

 あのステージの後で、 自分たちは観客、 そしてこずえを満足させるライブが出来るのだろうか?

 多少なりとも音楽的素養のある真だからこそ、 こずえ達のパフォーマンスの凄さも分かるのだ。


 そう思っていると、 後ろから鈴木が肩を組んできて言った。 


「まあまあ、 あれだけのライブ見たら不安になるんも分かるけど、 お前も結構凄い奴やと思うぞ? 自分を信じて行こうや」


 佐原も同じく肩を組んできて言った。


「そや。 初めは、 こんなナヨナヨした奴がヴォーカルとギターで大丈夫かなって思たけど、 今はお前に任せて良かったと思うてる。ま、 後ろには俺らも付いてるしな」

「お前ら……」


 と、 真は二人の方を見た。

「……よし、 じゃあ」と真が声を掛けると、 鈴木、 佐原、 そして田井が集まってきた。


「俺ら【STAY GOLD】の初のステージ行くぞ!」


 と真が言うと他の三人も『おう!』と応え、 四人はステージへと上がって行った。



 ステージの向こうの観客たちは、 先のライブの余韻で完全に出来上がっている。

 その観客の前に立ち、 真はマイクを握った。


「どうも、 俺たちさっき紹介のあった【STAY GOLD】です。 お客さんの前で演奏するのは今日が初めてっスけど、 精一杯演奏す()()のでよろしくお願いします!」


 力むあまり、 挨拶を噛んでしまった真に、 鈴木が「あちゃー」と言う表情を向ける。

 真は気を取り直してギターの弦の張りを確かめると、 メンバーに視線を送った。

 それを合図に佐原のドラムがリズムを刻み出し、 曲の演奏が始まった。 中高生に人気のあるバンドの、 ポップながらもテンションの高い曲だ。


 真は、 練習の成果を確かめるようにギターを弾きつつ、 疾走感のあるヴォーカルで曲を引っ張る。

 その後ろでは佐原のドラムが軽快なエイトビートを刻む。

 鈴木の弾くベースラインも曲を支える。

 間奏では、 真のギターの奏でるメロディに田井のキーボードが絡む。

 そして、 真のギターの「♪ジャン」と言う音と共に曲が終わると、 場内から拍手が沸き起こった。


「……」


 そんな場内を見て真は思った。

 確かに反応は悪くない。 演奏も、 他のメンバーも含めて大きなミスはない。

 でも、 何か燃えるものが足りない気がする。 観客もそれを感じているのか、 前の【アティチュードフラワー】のライブに比べてテンションが上がってないように見える。


 これで、 こずえに―――「後輩」としてはともかく―――「男」として認められるのかと言うと、 違う気がする。

 鈴木もそんな真の気持ちに気付いたのか、「次で行けんのか?」と言うような目を向けた。

【STAY GOLD】の持ち時間は二曲分……つまり、 真にとっては次の曲が最後の勝負になる。


 真は考えた。 自分は、 ただ上手い()()の演奏がしたいんか?

 違うやろ。 動画やライブで観たロックバンドのような、 もっと魂から揺さぶるようなライブに憧れたんやろ。

 きっと、 あの時先輩に初めて会った時もそんな演奏がしたいと思ったはずや。

 さっきの【アティチュードフラワー】のライブもそんなライブやった。 少なくとも自分にとっては。


 なら、 もう形だけの上手さには囚われない。 あの時こずえと初めて会った時のように、 自分の気持ちを全力でぶつけて行くだけだ。

 そう思い、 真はマイクを手に取った。


「……次の曲は、 ちょっと昔のバンドの曲っスけど……でも魂込めるんで聴いて下さい!」


 そう言ってギターでリズムをかき鳴らして行くと、 真は声が潰れるのも気にせずに歌い始めた。


「♪夢の破片 握りしめて 夜の果てを 走る影……」


 その真の声に呼応するように、 鈴木と佐原も激しくリズムを刻んでいく。


「♪この心はまだ離れない……」


 Bメロの歌声に合わせ、 キーボードの美しくも鋭い音色が重なっていく。

 そして、 サビに入る所でマイナー調だったメロディがメジャーに転調すると、 真は体育館全体に響かせるように、 顔を大きく上げて歌った。


「♪真実よ 夜を切り裂け この瞬間に鼓動 止まらない この夢の最中で……」


 このライブが終わったら、 もう声が涸れ果ててしまうかも知れないという思いが真の頭をよぎる。

 いや、 そんな事は考えんな。 今は、 この曲ですべてを燃やし尽くす勢いで()ろう、

 そう思って、2番に入っても真はギターとベースとドラムとキーボードの爆音の雨を切り裂くような勢いで歌い上げた。


「……」


 間奏でギターをかき鳴らしながら思う。

 もはや客席を見渡す余裕もないが、 先の曲の時と比べて明らかに客の「圧」のような物が違っている気がする。


「♪どこへ行く? 旅の終わり 夢はまだ 色褪せない あの夜に見た花が開く時……」


 最後のサビへと続くブリッジを歌いながら、 蓬ヶ丘の山の中で悶々としていた時、 吹奏楽部のコンクールが不本意な結果に終わって悔しさを滲ませていた時、 こずえの事を想って眠れない夜を過ごしていた時……様々な記憶が頭に流れ込んでくる。 それらをぶつけるように、 真は最後のサビを歌い上げた。


 そして、 曲が終わった。

 真がギターを演奏する手を止めた時、 客席は一瞬沈黙したかに見えた……が、 その後一拍置いて大歓声が巻き起こった。

 先の曲とは明らかに違う盛り上がりを見ながら、 真は達成感とも戸惑いとも感謝ともつかないような何とも言えない気分に襲われた。


「あ、 ありがとう……」


 そう言って真は他のメンバーと共に舞台袖に引っ込んだ。



 興奮した生徒たちの声が漏れ聞こえてくる舞台袖の中、 真がタオルで汗を拭いていると、どこからか手が伸びてきてペットボトルの水を差し出した。

 真が手の差し出された方を見ると、 そこには顔いっぱいに笑みを湛えたこずえが立っていた。


「先輩……」


 と真は言った。 このこずえの表情を見て、 隠しようの無い喜びと満足感を感じながら。


「めっっっちゃ、 格好よかったよ」


 優しい笑みを浮かべながら、 自分の目を真っ直ぐに見て言うこずえの言葉を聞いて、 真は力が抜けたように倒れ込んだ。

 体を鈴木と佐原に支えながら真は思った。


(先輩への想いに向き合い続けて、 ホンマに、 ホンマに良かったな……) 


 と。

(つづく)


作中の歌詞は、Grokで生成したものに修正を加えました。

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