表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/58

#49 彼らは未来を見つめる

今回の中心人物→貫太、真、謙司、淳太朗

 秋も深まって行き、 少しずつ空が暗くなるのが早くなってきたある日。

 放課後いつものように級友たちと遊んだ後、 貫太が蓬ヶ丘に帰るために電車に乗っていると、 見慣れた小さな人影を見た。

 貫太はその人影の前まで歩くと、 「よう、 真」と声を掛けた。


「おお、 何や貫太か」


 と答えた真に貫太は、


「こんな時間まで部活か?」


 と言った。 秋になって陽が短くなってきた事もあり、外はほぼ真っ暗である。


「文化祭も近くなってきたしな。 部活の時間ギリギリまで練習してたいんや」

「よくやるよなあ、 お前も」


 真にそう言いながら、 貫太は野球に打ち込んでいた中学時代を懐かしく思い出していた。


 そう、 今も野球を続けていれば彼はこんな所で電車に乗っているはずではなかった。

 今頃は桃陽館高校の寮に入って野球漬けの日々を送っていただろう。

 だが、 中学時代には考えられなかった、 早い時間に友達と談笑しながら帰るような日々にある種の安らぎを感じているのも確かだった。

 高校に入って大分経つのに、 未だにその二つの気持ちで揺れ動いている自分の女々しさを振り払うように貫太は言った。


「今からやと、 家に着いたら何時くらいになるんや?」

「なんや急に? まあ、 駅に着いてそこからバスに乗るから、 まあ8時半くらいやな」


 8時半。 中学の頃の貫太なら当たり前のような帰宅時間だが、 高校に入ってからはそこまで遅くなる事はなかなか無い。


「ふーん、 大変やな毎日」

「別に……どうせ帰っても、 練習か宿題か……あとは、 エロ……い事するくらいやからな」


 それを聞いて貫太は思った。 大学に行く時はこいつはどうやって通うんや? 成績は割と良いっぽいから、 たぶん進学するんやろうし……


「なあ、 大学に進学したら真は家はどうするんや?」

「ええ? そら、 家出るに決まってるやろ」


 真が事も無げに言うので貫太は驚いた。 隣に大京市という大都市がある蓬ヶ丘市では、 高校卒業後も実家から大京市の学校や会社に通う者もそれなりに居るのである。


「ふーん、 早いうちから考えてるんやな」

「というか、 俺の(トコ)やとそれが当たり前みたいな感じやからな。 車に乗る言うても、 俺の家から通える大学とか会社なんてそんな無いし。 お前も、 ちょっとは卒業した後のコトも考えた方がええんとちゃう? 下手したら、 あの彼女とも一緒におれへんようになんぞ」


 そうなのだ。 高一とはいえ、 早い者なら今の時期からもう将来の進路について考えている。

 それなのに、 未だに未練がましく中学時代の事を考えている自分がひどく子供っぽく思えてきた。

 自分も漠然と「高校を卒業したら蓬ヶ丘を出る」と考えていたが、 もう少ししっかりと将来の事について考えるべきなのかもしれない、 と貫太は思った。


 そう考えているうちに、 電車はトンネルを抜けて蓬ヶ丘の町に出た。

 考えてもみたら、 こうして電車で外の景色を横目に見ながら友達と帰る経験も、 きっとこの三年間しか出来ないのだろう。


「……」


 やっぱり、 この高校に入った事も悪くない、 と貫太は思った。


 *

 *

 *


 一方、 休日に淳太朗が少し遠くにある新古書店に向けて自転車を走らせていると、 「おう、 淳太朗やん」という聞き慣れた声が聞こえてきた。

 淳太朗が振り向くと、 そこには偶然にも自転車に乗った謙司がいた。

 その自転車も、 淳太朗の乗っている少し錆びかけたものとは違う、 どことなく高級感を感じさせるものだった。


「今から自転車に乗ってどこか行くんか?」


 と謙司は言った。


「うん、 ブック○○に……新しい映画のDVDとか入ってるかもしれへんから。 謙司は?」

「俺はこれから電車に乗って塾や。 ブック○○なら途中まで一緒やから行くか?」


 と謙司は言った。

 二人は一緒に駅の方に走り出した。


「それにしても、 体育祭ではあんな結果になったけどまあまあ元気そうやな」


 と謙司は言った。


「うん、 まあ……元気やで」


 あのリレーの後、 一人で泣いていた事を悟られまいとするかのように、 精一杯明るい口調で淳太朗は言った。

 それが、 自分なりのプライドなのか、 それとも謙司を心配させまいとする心遣いなのかは、 彼にも分からなかったが。


 そんな事を考えながらも、


(もしかして……昔よりペダルを踏む力が強くなってきてる?)


 と淳太朗は思っていた。

 謙司は足も長く、 貫太ほどでは無いが運動神経もそこそこ良い。 自転車が高級な分のアドバンテージもあるだろう。

 それでも、 (向こうは全力で走ってないのもあるだろうが)淳太朗は彼の走りに苦しむことも無く付いていけていた。


 体育祭の後も、 自分なりに筋トレやジョギングを続けていたからかも知れないと淳太朗は思った。

 それは、もう体育祭の時のような悔しい思いをしたくないという気持ちと、 杏香にかっこ悪い奴だと思われたくない気持ちが大きかったが、 それだけでは無く、 純粋に鍛えて向上して行く事の楽しさも淳太朗は感じ始めていたのだった。


(大上さんと二人乗りしてた時より体力付いてきたんかも♪)


 などと淳太朗が考えている所で信号が赤に変わった。


 二人の自転車が止まった所で、 謙司が言った。


「でも、 淳太朗って自転車はけっこう上手く乗ってるやんなあ」


 自分の思っている事を見透かされたようで淳太朗は少しドキリとした。


「そ、 そう?」

「おう。 簡単に思えるかも知れへんけど、 自転車に乗るんって実際は結構複雑な運動やと思うぞ。 リレーの練習の時かて頑張ったらタイム伸ばせたしな。 やから、 淳太朗も自分が思うほど運動が出来ひん事はないと思う」


 どうやら、 「自転車に乗れる」という事自体を凄いと言っているようだったが、 淳太朗にはそれほど凄い事をしてるようには思えなかった。


「そうかな……まあ、 僕は父さんが付きっきりで練習を見てくれてたから……」


 と言ったところで、 淳太朗は謙司の家庭環境を思い出して、

 

「あっゴメン……何かヘンな事言ってもうた? 何か謙司のお父さんってそういう事せえへん気するし……」


 と言った。

 謙司はフフッと笑って、


「いや、 別にええよ。 親父が遊びとかに付き合ってくれんかったんはホンマやからな」


 と言った。

 その表情に淳太朗は、 一見何不自由なく育っているように見える謙司の中の寂しさを見た思いがした。

 一見したら学校に上手く馴染んでいるような者も、 勉強や運動が得意な者も、 裕福な環境で育っている者も、 裏では皆それぞれの生きづらさを抱えているという事に、 淳太朗は気づき始めていた。


 この機に、 淳太朗は以前から気になっていた事を謙司に聞いてみる事にした。


「なあ……謙司ってやっぱ高校卒業したら親の元を離れてどっか別の土地(トコ)の学校に行くん?」

「……まだ具体的にどうしようかとかは考えてへんけど、 一応そうしようとは思って勉強してる」


 やっぱり謙司は凄いな、 と淳太朗は思った。

 自分はまだ朧げにしか考えていない、 「自立する事」をすでに考えて、 行動に移そうとしているのだ。

 それも、 親に甘えられない家庭環境ゆえに考えざるを得なかったのかもしれないが……


(あれ……?)


 そう言えば、 ()は高校を卒業したらどうするんやろう、 と淳太朗は思った。 家の仕事の事もあるやろうし……


「なあ、 旋一って高校卒業したらどうするんやろ……」


 と言ったところで、 淳太朗は謙司の顔に今まで見たことのなかった陰がかかるのを見た。

 その、 ある種の怖さすら感じさせる顔に、 淳太朗は自分の立ち入ってはいけないような旋一と謙司の過去のつながりを感じ、 それ以上言葉を続けるのをやめた。


「ゴメン……何か聞いたらアカン事聞いてもうたかな?」


 と言う淳太朗に謙司はいつもの表情に戻って、


「いや……まあ、 淳太朗は悪うないよ。 うん」


 と言った。

 続けて、


「まあ、 アイツも色々苦労してるからな……」


 と、 少し遠い目をして言うのだった。

(つづく)

「大上さんと二人乗りしてた時より」→#42「羊田淳太朗の冒険」参照。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ