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#47 体育祭余話〜旋一・謙司と真の場合〜

今回の中心人物→旋一、謙司、真

 日は遡って、 体育祭数日前の旋一たちのクラス。


 クラス委員長が謙司に向かって、


「なあ、 今度の体育祭、 二人三脚に出てくれへん?」


 と言った。


「はあ、 ええけど相手は誰と?」

「……犬塚君と」


 委員長にそう言われて、 謙司は旋一の方を振り返った。 旋一は乗り気なのか、 すでにワクワクした表情で謙司の方を見ている。


「……高校の二人三脚って、 もっとこう男女で組んでギクシャクしたりとか、 それをきっかけに恋が芽生えたりとかを楽しむモンな気がするんやけど……」


 色恋沙汰にはあまり興味がある方ではない謙司だが、 旋一と一緒に走る姿を全校生徒に見られるのは勘弁という思いからこう返した。

 だが委員長は、


「うん、 こっちもそんな感じにしたいのは山々やねんけど、 もう皆大体出る種目が決まってもうてん。 そんで虎井君ならまだ決まってへんし、 犬塚君なら仲ええから組んでもらえるかなって思ったんやけど……」


 実は委員長に声を掛けられた女子たちは、 一応はイケメンに類する謙司と一緒に走ることに気後れしていたのだが、 男女間のことに疎い謙司はその事に思い至るよしもない。

 考えあぐねている謙司に向かって、 目立ちたがりの旋一はすでにやる気満々で、


「男女で組むのがええんなら、 俺が女装すっか?」


 と言った。


「したら、 マジで殺すぞお前……」


 と言う謙司に向かって委員長は、


「……と言うワケやから、 何とか頼むわ。 犬塚君の方はやる気みたいやし」


 と畳み掛けるように言った。

 結局、 その委員長の勢いに押されて謙司はしぶしぶ出場を決めたのだった……



 そして体育祭当日。 謙司は、 旋一と一緒に二人三脚のスタートラインにいた。

 隣にいる旋一がいつも通りの格好をしているのを見て、 謙司はホッとしていた。 何しろ、 旋一は皆に受けるためなら女装くらいしかねない奴である。


 が、 大人数の観客に見られる中、 旋一と肩を組んで一緒に走ることを思うとやはり暗澹たる気分になる。

 しかし真面目で根が負けず嫌いな謙司は気持ちを切り替えて、


「まあ、 出場する事になったからにはちゃんと勝ちに行くぞ。 ええな?」


 と言った。 


「うん、 一緒に頑張ろ♡」


 と、 この前の女装云々のやりとりを意識しているのか、 体をくねらせるようにして旋一は言った。


「……なけなしのやる気を奪うような事を言うのはやめろや」


 謙司がそう言った所で、 スタートの合図が鳴った。


 謙司と旋一は、 肩を組んで走り出した。

 やはり……と言うか、 二人の息はなかなか合わない。

 クラスでも上位に入る長身の謙司と平均レベルの身長の旋一では、 当然ながらそもそも足の長さも歩幅も違うのである。


「お前、 もっとちゃんと足出せや」


 と謙司が言うも、 旋一も、


「そんな事言うても、 俺ははそんな足長ないんやからちょっとはこっちに合わせてくれてもええやろ」


 と言い、 二人は噛み合わない。

 そんな事を言っているうちに、 一クラス、 また一クラスと二人を抜かして行った。


 その光景に歯軋りをする謙司に向かって、 旋一は声色を変えて、


「じゃあ、 もし勝てなかったらゴールした後二人で抱き合おっか♡」


 と言った。

 それを聞いた謙司は、 「うおおおおっ!!」と叫んで猛然と走り出した。

 衆人環視の中旋一と抱き合う……想像する事すら拒絶するほどおぞましい光景だが、 とにかくそれだけは死んでも嫌だとばかりに、 謙司は必死に走った。

 そして前を走っていた選手たちをごぼう抜きにして行き、 見事二人は……いや、 ほぼ謙司が旋一を引きずるようにして一着でゴールしたのだった。


「ハァ……ハァ……どんなスポーツ系の習い事よりも疲れたかもしれん……」


 とゴールの後ろで言いながらも謙司は、


(旋一と一緒に走るのを見られるのは恥ずかしいとか、 余計な事を考えずに必死で走ったら勝てたな……)


 と思った。


「ど、 どうや……これで勝てたやろ……オエッ」


 と、 目を回しつつもサムズアップしながら旋一は言った。

 そんな旋一を見て謙司は、 ああそうか、 競技中(さっき)あんなフザけた事を言うたんは、 勝ちたいと言う俺の気持ちを汲んだからか(というか、 そうであってくれ……)と思った。


 そうや、 こいつはやり方はどうあれ、 友達の事を思って行動出来る奴やったなと、 謙司は旋一の顔を見た。

 二人は爽やかな表情で見つめ合……うことも無く、 やはり気持ち悪くなってどちらからとも無く互いに顔を背けたのだった。


 *

 *

 *


 それからしばらくの後。

 真は、 部活対抗リレーに出場するための準備をしていた。

 部活対抗リレーとは、 部活に所属する生徒のうち何人かが組んで各部活に因んだパフォーマンスをしながら走る、 いわば余興のような物であり真剣に走る生徒は少ない。

 しかし、 真は本気で走ろうとしていた。

 彼はもともと勝負事に熱くなりやすいタイプというのもあるが、 それだけでは無かった。


 真は幼い頃から小柄だったが、 運動の類は人一倍頑張ってきたつもりだった。

 運動が出来ないと、 周囲から「やっぱりチビやから……」という目で見られそうだったから……それは彼にとっては、 他の子より体格的に劣っている自分を受け入れる事を意味していた。

 だから、 少なくとも自分よりは体格的に恵まれているのに運動が出来ない、 かと言って向上させようとする様子もない淳太朗を見ているとつい辛く当たってしまうのだった。


 昨日淳太朗が50Mを走るのを見た時も、 最初は「別に騒ぐほど大したタイムとちゃうやろ……」と思っていた。

 だが、 淳太朗の必死な表情と十二日前からの変化(何があったのかは分からないが)を見ていると、 突っ込む気にはなれなかった。

 それどころか、 「アイツがあんなに頑張ってるんやから、 俺もダサい走りは出来ひんよな」とすら、 真は思っていたのである。


(あと……)


 と、 真は観客席の方を見た。 その視線の先にはこずえがいた。


(ここで頑張れば利栖先輩にも格好ええトコ見せられるし……)


 とも、 真は思っていた。

 真は持っているギターに目をやった。 各々が自分の担当楽器を持ちながら走るのが、 軽音楽部の部活対抗リレーでのお約束なのだった。


(大丈夫や……中学の頃は重さ10Kgのスーザフォンを演奏しながらパレードした事もあるんやから、 ギターを持って走るくらいわけ無い……問題は……)


 と、 真は他の出走メンバーの方を見た。


「ベースを持ってる鈴木……はまあええ。 問題はお前や」


 と、 真はスネアドラムを持つ佐原に向かって言った。


「やって、 そういう競技なんやからしゃーないやろ」

「……」


 真は歯軋りをした。

 自分が格好よく走るだけでも利栖先輩にある程度のアピールは出来るだろうが、 やはり引退間近の彼女に向かって部の勝利をプレゼントしたい。 真はそう考えていた。


「まあ、 お前は利栖先輩のために部を勝たせたいんやろ? 俺らも協力すんぞ」


 と鈴木が言う。


「お前らのそのカッコで言われても説得力無いわ」


 と真は言った。


(お前もな……)


 と鈴木と佐原は思った……。


 そしてリレーが始まった。 前の走者から真にバトンが渡される。

 真は力の限り走った。 ギターのせいで上手く手が振れない分少し速さは落ちるが、 それでも今出来る最高の走りが出来たと思った。

 真にバトンを渡された鈴木も、 ベースを持ちながらではあるがそこそこの速さで走っている。

 そして佐原にバトンが渡された。


 佐原は走り出した…

 が、 当然のごとくドラムを抱えながらでは上手く走れるはずもない。


「うおおい、 しっかりしろや元テニス部!」


 と真が言う。


「そ、 そんな事言うても、 どんな部活でもこんなん持ちながら全力で走れるわけ無いやろうが」


 と、 佐原は息も絶え絶えになりながら言った。


「というか、 何でスネアドラムやねん。 ドラム関連やったらスティックにしたらええやろ!」

「ハァ…ハァ……そんな事言うても、 部の伝統らしいんやからしゃあないやろが!」


 ……そんなこんなで、 結局軽音楽部は運動部どころか一部の文化部よりも下の順位になってしまった。


「残念やったね、 鹿野君」


 こずえが、 競技を終えた後の真に声を掛けた。


「あっ、 先輩。 ……ごめんなさい。 本当は皆で部を優勝させたかったんスけど……。 楽器持ちながら走るって言う、 変な決まりさえ無かったらな……」

「……楽器持ちながら走るって決めたん、 ウチらの代なんやけどね」


 とこずえは軽く笑みを浮かべながら言った。

 その言葉を聞いて真は、


「……そっスか……」


 とガックリ肩を落とした……

(つづく)




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