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#39 遥かなる世界の冒険・表

今回の中心人物→貫太・はるか

 9月中旬のある晴れた休日。

 貫太とはるかは、 大京市のとある大型ショッピングモールの前に立っていた。

 そう、 この日貫太は、 はるかの部活が休みなのを利用して交際を再開してからは始めてのデート的な物に誘っていたのだ。

 この場所も、 はるかの意見も聞いたうえで貫太が決めたものだった。

 ここは、 決して懐が豊かではない二人(はるかはお嬢様学校に通ってはいるが)でも通学定期で来れるし、ゲームセンター、 飲食店、 シネコンと高校生カップルが楽しめるスポットはそこそこ揃っている。 二人のデートコースとしては無難な選択と言えるだろう。


「今日は楽しもうな」


 入口の前でそう言いながら、 貫太ははるかの方を見た。

 部活でのはつらつとした姿とはまた異なり、 明るい色のブラウスとスカートに身を包んだその姿は華奢で可憐な美少女そのもの。 貫太は思わず、 少し見惚れてしまう。


「うん、 楽しみやね。 行こ」


 はるかが微笑みながら返すと、 貫太は少し赤面しながら向き直した。


 二人は人で賑わうモール内へと入った。

 はるかは入口近くのゲー厶センターを指差すと、


「最初はあそこに行こっ」


 と言った。

 ゲームセンターか……悪くないなと貫太は思った。

 貫太はこのデートを通して、 少しでも頼れる所を見せてはるかに見合う男になりたいと言う思いを抱いていたのだ。

 店内に入ると、 はるかはクレーンゲームを見て「あれしよ」と言った。

 ぬいぐるみの詰め込まれたマシーンを見て貫太は、


(ここでぬいぐるみを上手く取れたらはるかも「しっかりした男」として見てくれるかもしれんな……)


 と思った。


「よっしゃ、 ここは俺に任せろ」と、 さっそくコインを投入してプレイしてみたものの、 なかなかぬいぐるみを上手く取れない。

 運動神経は抜群の貫太だが、 この手の細かい作業はさほど得意ではないのだった。

 そんな時、


「ダンナ、 クレーンゲームは景品の後ろ側を狙うのがコツやで」


 という聞き慣れた声がして、 貫太は振り向いた。


「何や……って旋一か」

「誰なん? 友達?」


 とはるかが聞いた。


「俺は馬路くんと同じ高校に通ってる犬塚って言うんやけど……。 貫太、 もしかして、デーt……」


 そう聞こうとした旋一を押しのけるようにしながら、貫太は小声で、


「ええから、 今日は俺とはるか(コイツ)で遊んでんねん。 お前はもう帰れや」


 と言った。

 旋一を下がらせると、 貫太はもう一度クレーンゲームに挑戦した。

 試しに旋一のアドバイスに従ってみると、 今度は見事に熊のぬいぐるみを獲得した。

 それを見届けた旋一は「おおー」と大げさに拍手すると、


「じゃあ、 貫太(コイツ)をよろしくね」


 とはるかに声を掛けて立ち去って行った。


「なんか、 おもろい人やね」


 と笑いながら言うはるかに調子を狂わされながらも貫太は、


「ああ、 ほら……コレ」


 と、 先ほど取ったぬいぐるみを渡した。


「どうせなら、 ()()()のぬいぐるみにしてくれたら良かったのに……なんて、 有難うな」


 と微笑みながら言うはるかを見て、 貫太は胸の高鳴りを覚えつつまたも赤面した。


 やがて、 二人が観る予定の映画の上映時間が近づいてきた。

 貫太は、 はるかと二人で観ようとあらかじめ恋愛系映画の上映時間を調べてきたのだった。

 二人はチケットを買ってシアターの前へと行った。

 流石に恋愛系の映画だけあり、 上映を待つ観客には明らかにカップルが目立つ。 劇場で恋愛映画など観たことがない貫太は少し身構えた。

 すると、 マイナーなホラー映画を上映していた奥のシアターから、 映画が終わったのか淳太朗が現れてきた。


「アッ、 馬路クン……ト莵道サンヤ。 二人デ映画観二キテタンヤー」


 と、 淳太朗はぎこちなく声を掛けてきた。


「おう、 淳太朗。 お前も来とったんか」

「うん、 この映画はこの辺ではここでしかやってへんから……」


 と言って淳太朗は二人の姿を見ると、


「ジャア、 二人デユックリ映画観テヤ……」


 と言ってそそくさと去って行った。


「何やったんや? あいつ……」


 と呟く貫太にはるかが、


「なあ、 今のって中二の時ウチと一緒のクラスやった羊田君? 仲良くなってたんや?」


 と言った。


「おう……」


 と言いながら、 貫太は何かがおかしいと感じていた。

 いくら淳太朗でも、 あの反応はよそよそし過ぎる。 大体、 知ってる奴がこんなに都合よくポンポン現れる事なんてあるか?

 貫太は、 違和感を感じながらシアターへ入って行った。


 上映が終わった。

 はるかは、 「色々あったけど最後は二人が結ばれて良かったなー」と貫太に言った。

 本当は恋愛映画などあまり興味のない貫太だったが、 はるかの喜ぶ顔を見て、 満更でもない表情で「おう」と答えた。

 貫太はチラとスマホの時計を見た。 時間はすでに正午をかなり過ぎている。


「そんなら、 そろそろ飯にでもすっか?」


 と貫太が言うと、 はるかも同意した。


 二人は飲食店が並ぶフロアーへと来た。

 貫太は、


「じゃあ、 ワクドにでも行くか?」


 と言ったが、 はるかは先の映画の余韻を覚まさないでと言わんばかりに貫太の服の袖を引っ張ると、 ある店を指差した。

 そこは、 メルヘンチックな装飾に包まれた、 見るからにオシャレでキラキラした雰囲気の喫茶店だった。 客も、カップルや女子のグループばかりで男だけの集団など皆無である。


(俺みたいな()()()()奴がこの中に入ってええんか……)


 と貫太は戸惑った。

 だが、 隣にいるはるかのウキウキした表情を見て覚悟を決めた。

 はるかの喜ぶ顔を見るためなら、 男・馬路貫太、 入ってみせる。


 二人は店の中へと入って行った。

 はるかは呪文のような長い名前のパフェを流暢に注文した。

 きっと、 あらかじめ調べとったんやな……と貫太は思った。

 続いて貫太も、 はるかに合わせるように慌てて、


「えっと……クリームソーダ一つ」


 と注文した。

 やがて、 山のようなクリームの上に色とりどりのデコレーションを乗せたパフェが運ばれてきた。

 太らへんのか? という言葉が貫太の口から出かけたが、さすがに思いとどまった。

 きっと、 部活で動いてるから大丈夫なのだろう……多分。

 同時に運ばれてきたクリームソーダに貫太が手を出そうとすると、 はるかが「待って!」と言った。


「学校の友達とやってるイソスタに送るねん」


 と言いながら、 はるかはスマホでパフェの写真を撮った。


「おい、 俺はまだ口を付けたらあかんのか?」


 と、 貫太はアイスの溶けつつあるソーダを見て言ったが、


「やって、 馬路君と一緒に食べ始めたかったんやもん……」


 と、 はるかは少し赤い顔をして言った。


(ああ、 『俺か友達かどっちの方を優先するんや』というツッコミもどうでも良くなるくらいホンマに可愛いな、 コイツは……)


 などと思っていると、 店の外に小さな人影を見付けた。


「……真?」


 なぜか泣きそうな表情をしていたが、 確かに真だった。


「……」


 貫太はようやく理解した。

 コイツらは、 何らかの形で示し合わせて自分たちのデートを見物に来ているのだと。

 普段の貫太ならもっと早く気付いているだろうが、 デートの浮ついた気分が彼の感覚を鈍らせていたのである。


 その後、 二人はパスタを食べて店を出た。

「今度はどこ行こっか?」などと明るく言うはるかの陰で、


(最初のクレーンゲームはええとして、 ずっとはるかに振り回されっぱなしな気がする……俺ももっと頼りになるトコを見せたいな……)


 と貫太の心はモヤついていた。

 やがてプリクラコーナーの前に来たところではるかが、


「そうや、プリクラ撮ろっ」


 と言いだした。

 またもはるかに振り回される形になった貫太は、


「お、 おう……」


 と言いながらはるかに従おうとしたが、 マシンの前に来た所で、


(いや、 今までのパターンからしてまたアイツらが…)


 と思い立った。

 その予想通りに、 プリクラを撮ろうとした貫太の後ろから、


「兄さん、 プリクラの上手な写り方は……」


 という旋一の声が聞こえてきた。


「お前なあ、 ええ加減にせえ……」


 と貫太が言おうとした所で、


「その辺にしとけや」


 という、 やはり聞き覚えのある声が聞こえてきて旋一の頭にチョップを見舞った。

 貫太が振り向くと、 そこには謙司が立っていた。


「オマエまで来とったんか、 ここに」

「俺はコイツらがしょうもない事せんか、 心配でついて来ただけや。 ……とにかく、 旋一(コイツ)がまたアホな事せんうちに、 二人でどっかコイツらの()んようなトコに行っとけ」

「……分かった。 スマンな」


 貫太はそう言うと、 何が何やらという表情のはるかの手をその大きな手で握り、


「とりあえず、 オレらは行くぞ!」


 と歩き出した。


「ちょっと、どこ行くん?」


 と、 手を引かれながらはるかが言う。


「とりあえず、 邪魔が入らへん所までや!」


 そう言って、 貫太はモールの中をあても無く進んで行った。



 結局、 二人は駐車場のあるフロアーの、 ポツンと置かれたベンチのそばに来た。 ここなら、 さすがに旋一たちも来なさそうだった。


「スマンな、 こんな寂しいトコに来てもうて」


 と言って、 貫太は自販機で買ったジュースを差し出した。


「ううん、 何かよう分からへんけど、 こんな所で二人でいるんも雰囲気があってええよ。 ……それに、 さっき馬路君に手を引っ張ってもうて、 ちょっと嬉しかったし……」


 そう言って、 はるかは顔を赤らめた。


 ―――まあ、 結果的に格好ええ所を見せられたし、 はるかが喜んでくれたからええか……

 と、 人気のないフロアーの中で貫太は思った。

(つづく)

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