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#33 真夏の夜の冒険②

今回の中心人物→貫太、はるか

 時間は少し戻って花火の打ち上げ前。

 ラフなポロシャツにジーンズ姿の貫太は、 はるかとの待ち合わせ場所にしていた橋の前に立っていた。

 さすがに少し早く来すぎたかもな、 などと思いながらスマホの時計に目を向ける。

 考えたら、 はるかと話している途中に電話やメールが来るかもな、 と思い立って貫太はスマホの電源を切った。


 しばらくして、 「ゴメン馬路君、 待った?」などと手を振りながら、 浴衣姿のはるかが現れた。

 漫画なら三段ぶち抜き、 アニメなら足元から頭まで三回PANして登場するかのようなインパクトに、 貫太はしばらく目を奪われた。


「フフッ、 馬路君、 もしかしてちょっと顔赤くなってる?」 

 

 実際は暗くて顔色などはっきりと分からないにも関わらず、 はるかは少し悪戯っぽくそう言った。


「多分、 俺をからかってるだけや。 落ち付け俺…… 」


 そう思いながらも、 はるかの姿を見た自分の顔が少し熱を帯びている事に気づかされ、 貫太は黙ってしまう。

 改めてはるかの格好を見ると、 自分の服装のラフさが際立つ。


(俺も、 もっとちゃんとした服着てきた方が良かったんちゃうんかこれ……)


 と今さらながらに貫太は思った。


「じゃあ、 行こか」


 とはるかが言うと、 二人は河川敷を歩き出した。

 この河川敷沿いの道は、 地元の若者たちの一部であまり邪魔が入らずに花火を見られる「穴場」として知られているのだった。


「何か、 うちらだけでこうやって花火観るんって初めてやね」

「……」


 はるかの言葉を、 貫太は無言で噛み締めた。

 彼女の言葉通り、中学時代の貫太は花火の日も練習で忙しく、 二人だけでこうして花火を観るのは初めてだったのだ。

 それにしても―――浴衣を着たはるかの姿は、 彼女自身の力なのか花火の魔力的な物が働いているのか、十分にある種の色気を感じさせた。

 この少女と、 色気など皆無な服装をした自分が並んでいる事に、 少しの恥ずかしさも感じられてきた。


(いや、 俺ははるかに気持ちを伝えるためにここに来たんや。 気合い入れろ )


 と、 貫太は拳に力を込めた。


 やがて二人が川沿いの道をしばらく歩くと、 周囲の人影がまばらになってきた。


(よし、 今が切り出す時や……)


 と貫太ははるかの目を見て、


「莵道、 もう一回俺と……」


 と言おうとしたが、 その言葉をかき消すように轟音が響いた。

 花火が始まったのだった。

 気勢をそがれた貫太は、


「えっ、 何か言った馬路君?」


 と言うはるかから目を背けて「……何でもない」と言った。


 やがて打ち上げは進んでいき、 様々な色の花火が夜空を染めていく。

 それを見ながらはるかは、


「……キレイやね、 馬路君」


 と言った。

 もちろん、 はるかは本当は花火の話をしたかったのではなく、 貫太と距離を詰めるために様子を伺っていたのである。

 だが、やはり自分の気持ちを伝えるタイミングを測りかねていた貫太は、 素っ気なく「お、 おう……」と返した。

 その後は、 お互いに距離を近づけようとするも、 そのきっかけを掴めないまま二人の時間は流れて行った。

 やがて、 はるかは痺れを切らしたように、


「馬路君、 ウチやっぱり馬路君の事が好き……」


 と言い出そうとしたが、 その時一際大きな花火が上がり、 その音で後半の言葉はかき消されてしまった。

 貫太が「ん、 何か言ったか?」と聞き返すのを聞いたはるかは、 悔しさをぶつけるかのように打ち上がる花火に向かってシャドーボクシングをした。


 そんなはるかの突然の奇行を、 貫太はただ唖然として眺めた。

 否、 貫太もさすがに気づいてはいた。 はるかが、 再び自分と付き合いたいと言い出すタイミングを測っているのだと。

 だが、 別々の高校に進学して以来メールのやりとりすらろくにしていない自分に、 そんなはるかを受け入れて行くことが出来るのだろうか。

 そんな事を考えている自分が、 並んでいるはるかより、 ひどくちっぽけな人間に思える。

 本当は自分にも分かっていた。

 はるかと疎遠になって行った真の理由は、 野球もやめた「ダサい」自分を彼女に見られるのが嫌だからだという事を。


 そんな悶々とした気持ちを抱えながら貫太が歩いている時、 はるかの横を自転車が通り過ぎていった。

 地面には、 この日の朝まで降っていた雨の影響で水たまりが出来ている。

 案の定、 水たまりの泥が撥ねられてはるかの方に飛んだ。

 それを見た貫太は、 反射的にはるかの方に回り込んで体で泥を防いだ。


「ご、 ごめん馬路君。 大丈夫やった?」


 貫太のジーンズに泥が付いたのを見たはるかが言った。


「俺は平気や。 気ぃ付けろよ」


 と言いながら、 貫太は少し顔を赤らめたはるかを見た。

 今も、 はるかをかばうために自然に体が動いていた。

 他の女子なら、 きっとここまですぐに体は動かないだろう。

 やっぱり―――俺はこいつの事がどうしようもなく好きや。

 そう思った時、 貫太の口から言葉が溢れ出た。


「莵道。 俺は……やっぱり、 お前の事が好きや」


 だが、 それと同時にはるかも口を開いていた。


「馬路くん、 やっぱり好き……」


 思わぬ言葉の被りに、 はるかは赤面しながら貫太に手で「どうぞどうぞ」のリアクションをした。 


「あ……卒業してから今までの時間で、 やっぱり俺はお前の事がどうしようもなく好きやって事が分かった。 今の俺がお前に見合ってるのかは分からんけど、やっぱりお前の彼氏でいたい。 そう思う」


 はるかはうなずくと、


「私も……やっぱり、 馬路君の彼女でいたい……わ」


 と言った。

 そのはるかの微笑んだ表情を見た貫太は、 照れて思わず顔を背けた。

 貫太の目に汚れたジーンズが映る。

 それを見た貫太は、


ラフな(この)服装も悪いばかりや無かったか……)


 と思った。


「これからは何度でも花火が見られるね、 馬路君」


 と、 はるかは貫太の手を取って花火の見えやすい土手へと移動した。


「ゴメン。 ウチをかばったせいでズボン汚れてもうたよね」


 はるかは貫太の汚れたジーンズを見て言った。


「気にすんなや。 ()()()()()()のは中学の頃から慣れてるからな」


 それを聞いたはるかは、 少し恥ずかしそうに小声で、


「……そういう優しい所も好きやで、 馬路君」


 と言った。 

 貫太はまたも照れて顔を背けながら、


「……今度からは気ぃ付けろよ。 お前は中学の頃からちょっと抜けてるトコあったからな」


 と言った。


「もー、 そんなん言う事ないやろ。 あんまり言うたら彼女やめるかも知れへんで」


 とはるかはむくれた顔をした。

 そんなはるかの顔を見ながら、 貫太は思った。

 こいつは俺のダサい所も知った上で、 俺を受け入れてくれた。

 俺も、 もう可愛いだとかの上辺だけじゃない。

 こういう、 怒ったはるかや面倒臭いはるかもまとめて受け入れて行きたい。

 そう思った時、 貫太は野球をやめてはるかと離れた中学の時より、 少し大人になった気がした。



 その後貫太とはるかは共に花火を堪能したが、 打ち上げが終了した所ではるかが、


「ゴメン、 ウチ明日も部活やから。 もう帰るね」


 と言った。


「ウチも忙しいから、 なかなか会えへんかも知れへんけど……またメール入れるわ。 いろいろやり取りしよ」


 と言うのを聞いた貫太は、


「おう……」


 と言いつつ、


(これで少しは前進できたか……)


 と思った。


 はるかが去った後、 貫太はスマホの画面を見た。

 明日になれば、 このメールボックスにはるかの部活の話でも来るのだろうか。

 そうやってはるかの話が来た時、 自分は何の事を話せるのだろう。


(俺も、 また心の底から打ち込める物を見つけたいな……)


 貫太は高校に入って、  初めて心からそう思った。

(つづく)







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