#21 彼女の視線
今回の中心人物→さやか
ある日、 所用があって少し部活の時間に遅れていたさやかは、 いつもは通らないA棟第4教室前の廊下を通って部室へと急いでいた。
教室の前に差し掛かろうとした時、 中から謙司の声が聞こえてくるのに気がついた。
あの日ラジオドラマの収録を手伝ってから、 さやかは謙司を取り巻く生徒の不思議な関係が気になっている。
(虎井君はここで自習してる繋がりや言うてたけど、 多分そんな事無いやんな……)
そう思って、 教室から聞こえる声に耳を傾けてみた。
さやかの目から見ても謙司はイケメンであり、 なおかつ高身長だった。
それに加えて、 本当はもっと偏差値の高い学校に行けたが、 何らかの事情でランクを下げてここに来たと噂されるほど学力も高い。
おまけに運動もそつ無くこなし、 性格にも別段問題があるとは思えなかった。
これで彼女いない方がどうかしてるやろ、 とさやかは思う。
実際、 彼に好意を抱いている女子も少なくないのだが、 彼が誰かと付き合っているという話は聞こえて来なかった。
よほどガードが固いのか、 いや実は男の方が好きだったりするのかも……
などと考えていると、 教室内から旋一の声が聞こえてきた。
(こっちでも、 あのラジオドラマの時みたく犬塚くんと一緒にいるんや……)
とさやかは思った。
旋一はいわゆるクラスの盛り上げ役であり、 男女問わずクラスメイトの中での人気は高かった。
もっとも、 女子の言う「好き」は謙司に対するそれとは違い、 異性というよりも楽しい仲間としての「好き」だったが。
それにしても、 謙司のような真面目な人と旋一のようなタイプがつるむのはなかなか珍しいのでは、 とさやかは思う。
高校に入る前から一緒やったらしいけど、 一体どんなきっかけで仲良くなったんやろう? そんな事を考えながら歩いていると、 教室の中に大柄な男子が入って行った。
(馬路君や……)
大きな背中と、 廊下にまではっきり届いてくる大きな声はいかにも体育会系という感じだ。
彼の声を聞いていると、 ここまで漂ってくるはずのない汗の匂いがする錯覚を覚えるほどだった。
しかしそんな彼なのに、 今は部活には入っていないと言う。
中学までは野球をしていたらしいけど、 一体どんな事情で辞めたのだろうか。
(まあ、 ああ言うタイプが好きな人もいるやろうけど、 私はええかな……)
そうこう考えているうちに、 今度は小柄な男子が教室に入った。
真だった。
彼を見ていると、 つい同学年である事を忘れそうになる。
それほど、 さやかから見ても彼は小柄であり、 幼い雰囲気だった。
なので、それなりに異性として魅力を感じている女子はいるものの、 謙司とは違って可愛い弟のように見ている者が多かった。
「女子の前ではクールで、 あまり喋らない所が魅力的」という者もいたが、 さやかは気付いていた。 あのラジオドラマ収録の時、 彼が明らかに自分の姿を見てキョドっていた事を……。
(むしろ、 そういう所が可愛いっていう子もいそうやけどなあ。 まあ、 そういう事言うと怒りそうやけどね)。
などと考えていると、 教室の中から大人しそうな男子が出てきた。
ラジオドラマの収録の時にもいたはずだが、 正直あまり印象には残っていない。 確か、 ヤギ田とか羊田とかいう名前の子。
ほとんど話もしていないのでどんな性格なのかもよく分からないが、 この集団の居心地が悪くない事は彼の雰囲気から見てとれた。
……彼らの事を考えているうちに、 さやかはいつの間にか部屋の前に立ってしまっていた。
改めてこの5人を見ると、 タイプはてんでバラバラなのに皆楽しくやっているように見える。 そこには、 皆が同じ方向を向いて頑張る部活とはまた違った喜びがあるように思えた。
男子は皆あんな風に出来るのか、 それとも彼らだからこそ仲間とあんな関わり方が出来るのかは分からなかったが、 少し彼らが羨ましい―――
などと考えていると、 教室の扉が開いた。
*
*
*
さやかが前を見ると、 謙司が扉を手に持って立っていた。
「あれ? 椛島さん? どうかした?」
「ええと……皆のこと考えてたらここにいたって言うか……」
さやかは慌てて口走った。
「皆の事?」
「ええと……虎井君と犬塚君の関係とか……」
「え……? 俺とアイツの関係って……?」
怪訝そうな顔をして謙司が言うとさやかはアタフタしながら、
「そ、 そう言えばこの間のラジオドラマの結果ってどうなったん?」
と誤魔化した。
謙司は、
「ああ、 まだ結果は分からへんけど……。 椛島さんのおかげでドラマ完成させられたわ。 ありがとう」
と微笑んで言った。
それを聞いたさやかは顔を赤らめたのを隠すようにさっと振り返ると、
「✩♯∀$……じ、じゃあね」
と去っていった。
「あれ? 椛島さんどうしたんやろ」
と、不思議な顔をしながら謙司は言った。
「……そういうトコやぞ、 天然」
それを聞いた貫太が、呆れたように呟いた。
「やっぱ、 アイツよりは先に彼女作れるような気がしてくるな……」
旋一も、 小声で呟いた。
(つづく)
※ラジオドラマ収録の時、旋一と謙司以外もさやかの前で名乗ってます。




