#19 女の園の冒険①
今回の中心人物→旋一、真、貫太
6月も下旬に差し掛かろうとしていたある日。
珍しくスマホを見ながら顔をしかめている旋一を見て、 謙司は「どうしたんや、 難しい顔して」と聞いた。
旋一は、 無言でスマホの画面を見せた。
「これは……綾女坂女子の学園祭?」
綾女坂女子は、 大京市のいわゆるお嬢様学校である。 歴史や品格だけでなく、 生徒のビジュアルの格も市内でトップクラス……と男子高校生の間で都市伝説のように語られていた。
そして、 その学園祭は一般にも解放しているとあって、 男子高校生も含めて各地から多くの人が集まって来るのであった。
「それがどうしたんや?」
「前に俺、 真に女子校の学園祭に連れて行ったるって言うたやろ」
そう言って旋一は真からのメールボックスを見せた。
「これは……」
そう言って謙司がスマホの画面を見ると、 そこにはまるでホラー映画の呪いのメールさながらに「学園祭に連れていってくれ、 この前約束したやろ」という文字が並んでいた。
「いや、 俺かて行きたいしアイツと一緒に行くのはええねん。 約束した手前もあるしな。 ただ、 行ったら約束した事を盾にあいつが色々振り回してくるんちゃうかと思うと……」
「自分で約束したことなんやから、 自分で責任を取りなさい」
そう言って、 謙司は旋一の背中をペしりと叩いた。
そして放課後。 旋一と謙司は、 貫太と真とともに「拠点」にいた。
案の定、 真は旋一に「今度の日曜、 綾女の学園祭に一緒に行こうや。 前、 女子と関わる経験を積ませてやる言うてたやろ」と声を掛けた。
「分かってる。 行くから、 そうがっつくなや」
と旋一は言った。
当然ながら、 その裏には、 ルックスだけはいい真に寄ってきた女子を自分でゲットしたいという魂胆があるのである。
(こいつらを二人で行かせて大丈夫か……?)と謙司は思った。 いくら一般に解放しているとはいえ、 あまりに女子に馴れ馴れしい態度を取っていると、 学校からキツく注意、 最悪出禁になってもおかしくない。
「……しゃあないから、 俺も一緒に行くわ」
そう謙司が言うのとほぼ同時に貫太が、
「日曜なら、 俺も行くわ」
と言った。
「何や、 澄ました顔して自分も彼女作りたかったんか」
そう旋一はからかったが貫太は、
「そう言うんやなくて、 人に会いに行くねん」
と返した。
「会いに行くって誰にや」
旋一が食いつく。
「莵道はるかって言う子や」
「誰なんやそれ」
旋一はさらに続けた。
「……まあ、 彼女…………みたいなモンや」
それを聞いた他の三人は一斉に、
『いたんかい!』
と驚きの声を上げた。
「綾女の子と付き合うとったのに黙ってんなやアホー! ゴリラー! 映画化したらガタイがいいだけで演技のできない新人が演じそうな奴ー!」
あからさまに嫉妬の炎を燃やしながら、 旋一が貫太に向かって叫ぶ。
「いや、 もしかしたら相手もゴリラかも知れんぞ」
同じく、 嫉妬の炎を燃えあがらせた真が旋一に言った。
「……お前ら、 マジでキレんぞ……」
そう言って、 貫太はスマホに入った画像を見せる。
画面には、 こちらを見て微笑むツインテールの少女が映し出されていた。
それを見た旋一たち三人は『普通に可愛い……』と感嘆の声を上げる。
貫太が少し赤面しながらスマホをしまうと、 謙司はもう一度画面を見ようとする旋一と真を押しのけて「でも、 他校の子なのによく知り合えたな」と聞いた。
「いや、付き合い始めたんは高校に入ってからと違て中学の時からや。 俺が練習してる時によくグラウンドの端で見てたから、 声を掛けてみたらその……俺に好意を持ってるみたいで、 俺も悪い気はせんかっかたら、 付き合い始めたんや。その頃は練習漬けやったけど、 暇を見つけてはちょくちょく二人で会うとった」
旋一と真が呪詛の言葉を吐きそうな勢いで睨んでいたが貫太は気にせず続けた。
「……でも、 野球部を辞めてからは何となく距離が離れて行った。 結局、 アイツが好きやったんは野球してる俺で、 俺もアイツの内面なんて見てへんかった。 二人ともガキ過ぎたんやな。 ……で、 俺らが別々の高校に入ってからは一度も会うてへん」
「やったら、 別に二人で会うてイチャコラするのを見せつけたりするん違うんや?」
旋一が貫太に食いつく。
「アホか。 やから、 様子見に行くだけって言うてるやろ」
それを聞いた旋一は少し安心したように、
「よっしゃ、 じゃあ俺らも当日は頑張って女子の心をゲットするぞ」
と宣言した。
真も「おー」とそれに続く。
貫太はそんな旋一と真を見て溜息をつきながら、
「全く、 人をエロ魔人みたく言うなや。 ホンマに様子見に行くだけやのに」
と言った。
「でも、 こうやって今も会いに行こうとするって、 お前も本当はその子とヨリを戻したいと思ってるんと違うんか?」
と謙司が聞いた。
「……好きに考えたらええ」
貫太は、 自分の表情を悟られまいとするかのように顔を背けて言った。
(つづく)
「女子高の学園祭に連れて行ったる」→6話参照
「女子と関わる経験を積ませてやる」→5話参照
現実には、貫太みたく自分のことを簡単にポンポン喋らないと思いますが、そこはフィクションと言うかそうしないと話が進まないので…
※次話は9/12に投稿します。