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#18 羊田淳太朗の安息

今回の中心人物→旋一、謙司、淳太朗


※どこかのコメディ漫画あたりで同じようなネタがあったらごめんなさい。

 梅雨入りして10日経った日の放課後。

 今日も今日とて、 街は突然のゲリラ豪雨に見舞われていた。

 謙司とともに遊びに行こうとしていた旋一も、 さすがに外に出るのを躊躇った。


「遊びにも行けへんようになったし退屈やなあ……」


 突然の豪雨に校舎内へ避難してきた生徒で廊下がごった返す中、 「拠点」で旋一が退屈そうに独りごちた。


「……」


 謙司は少し不安を感じてきた。

 いつも、 「楽しい事」を警察犬さながらの嗅覚で嗅ぎ分ける旋一がここまで退屈そうな姿を見せるのはよほどの事なのである。


「あのラジオドラマがどうなったか結果聞きに行こっけ」

「結果が分かんのは1ヶ月近く後って六品先生言ってたやろ」

「やったら、 (なん)かおもろい事言うてくれや」

「急にそんな無茶振りすんなや」


 旋一に毎度ツッコミを返す謙司だが、 急にこういう風にネタを振られると言葉に詰まるタチなのだった。


 そうこう言っていると、 教室の前の廊下を一つの人影が通りかかった。

 その人影が自分たちと同じく足止めを食っていたらしい淳太朗だと気づくと、 旋一は途端に目を輝かせた。


「おーい、 淳太朗、 こっち来いや」


 そう声をかけた旋一を謙司は不安な目で見つめた。 旋一がこういう目をするときは、 大体が面白そうな()()()()を見つけた時なのである。


 淳太朗は少し躊躇したものの、 言われた通りに教室の中に歩いてきた。


「おい、 淳太朗困ってるやろ(多分……)」


 と謙司が言うのも聞かず、 旋一は淳太朗の肩に手を回して言った。


「なあ、 なーんかオモロい事言ってくれへん?」

「お、 面白い事……?」

「せや。 例えば、 『猿蟹合戦』とか……」


 何をトチ狂った事を言うんやコイツは、 と目を丸くする謙司を尻目に、 旋一は「……を、B級ホラーっぽく」と続けた。


「……」


 突然ネタを振られて、 当然のように淳太朗は言葉を詰まらせた。


「いや、 考えんでもええやろ。 こんなアホに付き合うことないぞ」


 そう謙司は言ったが、 淳太朗は切り出した。


「……蟹を殺した猿が、 巨大な蟹や蜂のクリーチャーに復讐される。人形丸出しの」

「ブハっ、 臼と栗と糞はどこ行ったねん。 じゃあ、 次は『花咲かじいさん』を……インド映画っぽく」

「正直じいさんが灰を撒いて桜が咲いた後、 村の人たちとか侍が出てきて皆で踊る」

「ええやん、 ええやん、 それ。 やっぱ期待した通りオモロいな」


 付いていけない、 謙司はそう思った。



 淳太朗が旋一の無茶振りに応じたのは、 彼が潜在的に持っている人の良さに加えて、 自分の趣味が人に認められた(ような気がした)事の嬉しさからであった。

 その後もしばらく同じようなやり取りを続けた後、 旋一は言った。


「じゃあ、 『桃太郎』を、 ……ハリウッドの超大作っぽく」

「……まず、 予告編では、『本年度アカデミー賞最有力!』の文字とともに、 『今までの桃太郎の概念を覆す衝撃だ!』という新聞記者のコメントが入る」

「概念覆しすぎやろそれ」

「テレビのCMでは、 観客が『感動しました』、 『桃太郎サイコー!』と言う映像が入る」

「ワハハ、 で、 内容はどうなんねん」

「こういう映画ってあまり観ないけど……おじいさんは、 何か昔のアクション俳優が『特別出演』枠でやりそう」

「桃太郎おらんでも、 たぶん一人で鬼退治に行けるやろそれ」

「で、 ある日川で桃を見つけてきたおばあさんが『今日はいい知らせと悪い知らせがある。 悪い知らせは川で洗濯をしている時に邪魔が入ったこと、 いい知らせはそれがこんなブツだったことさ』と言って桃を出す」

「ウヒャヒャ」


 まるで謙司がそこに居るのを忘れたかのように、 旋一と淳太朗の話は続いていった。


「で、 犬はどうなん?」

「犬は、 クールな性格で普段は金を積まれへんと仕事を引き受けへんけど、 『今回だけは特別だ』と言ってきび団子ひとつで引き受けることになる。 それで、 二人で車で走ってたらその車にキジが乗り込んでくる。 桃太郎が出身地について聞くと、『○○州よ。 何にも無い所だわ』とか言って」

「何で車で走ってんねんとか突っ込み所ありまくりやけど、 まずサルはどうなったねん」

「……サルは出てこないよ」

「……って、 出て()いひんの?」

「うん。 代わりに、 メカが得意でお喋りな黒人が出てくる。 ハリウッド映画って、 何かよくそんな黒人が出てくるし」

「うんうん」

「それで、 鬼ヶ島に行く途中で4人で焚火を囲むシーンがあって、そこで犬が『俺はこの戦いが終わったら結婚するんだ……』と告白する」

「そんなん、 絶対戦いで死ぬ奴やん」

「いや、 死なへんよ」

「そうなん?」

「ハリウッド映画って、 犬は大体死なへんから」

「あっそう……」

「で、 鬼ヶ島に行くんやけど、 いろいろあって最後は爆発する。 で、 クライマックスは爆発する鬼ヶ島をバックに桃太郎とキジがキスする」


 彼なりにテンションが上がってきたのか、 少し早口になって淳太朗は続けた。


「で、 エンディングやけど」

「めっちゃ長いやつやろ」

「うん。 BGMが3曲くらい流れるまで終わらへん。 しかも、 それが終わってもまだ映画は終わらへんねん。 エンディングが終わった後、 続編の前フリみたいな感じで、『金太郎』が出てくる」

「で、 やっぱりポスターのキャッチコピーは…」

『全米が泣いた』


 そう二人が声を揃えた所で、 謙司が「俺が泣くわ」と旋一の後ろからチョップを見舞った。


「痛あっ…」

「お前かて散々やってきたことやろうが。 俺を置いて勝手に話を進めんなや。 とっくに雨は上がってんぞ」


 痛がる謙司に向かって旋一が言った。


「そんな事言って、 お前かて途中から結構楽しんどったやろ」

「それは……まあ……」


 旋一に自分の気持ちを見透かされたような気がして謙司は声を詰まらせた。

 実際旋一の言った通りだったのだが、 一度は旋一をアホ呼ばわりした手前、 プライドの高い謙司は自分も加わりたいと言い出せなかったのである。


「淳太朗も楽しかったやんな」


 旋一の言葉に同意するように淳太朗はこくこくと頷いた。

 そんな淳太朗を見ながら謙司は考えた。 相変わらず積極的に自己主張する事はないものの、 初めてここに来た日と比べたら随分と彼の印象も変わってきた気がする。

 きっと、 皆が自由に行動できる蓬ヶ丘同盟(オレたち)じゃなかったらそんな彼の変化もなかっただろう。

 そんな謙司の視線に気づいたのか、 淳太朗は少し満足気な笑みを浮かべた。


「よし、 じゃあ次は『金太郎』を……マカロニウエスタンっぽく」


 旋一の言葉に淳太朗は頷いた。


「いや、 やっぱええ加減にしろ!」


 そんな二人を見て謙司は叫んだ。

(つづく)


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