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#17 ある日の彼ら〜Rainy Side〜

今回の中心人物→5人全員

 近畿地方もついに梅雨入りした。


 蓬ヶ丘で育った者の多くは、 この高校一年の一学期に初めて「山で囲まれた土地」の現実を知る。 この、 梅雨入りから数日経った日の朝もそうであった。

 大京市では晴れていても、 山で阻まれた蓬ヶ丘は雨雲で覆われているという事はしばしばあるのである。


「大京と蓬ヶ丘が天気予報で同じになってるん間違いやろ」 


 登校中、 濡れた傘を持った旋一が言った。

 この日、 彼が家を出た時は雨が降っていたのに、 高校の周りでは青空が広がっていた。

 従って、 傘を持っているのはほとんどが蓬ヶ丘から通っている者なのだった。


「夕方以降は『警報級の大雨』の可能性って言ってんぞ」


 同じく、 少し濡れた傘を持った謙司が言った。


「うえー。 さすがに今日は大京(こっち)で遊ばんと早く帰った方がええか……」


 旋一が寂しそうに言った。

 旋一と言えど、 「雨で電車が止まって帰れなくなる」という最悪の事態は避けたいところであった。

 そんな傘を持った二人を、 周囲の生徒が物珍しそうにチラチラと見ていく。

 何やら、「ヨモ生」のレッテルが可視化されたようで二人は決まりの悪さを感じた。


 二人がしばらく歩いていると、 前方に淳太朗の姿が見えた。


「おーす、 淳太朗」


 旋一が後ろから肩を叩く。


「はわっ……」


 そう言って、 淳太朗は慌ててふり向いた。

 旋一が改めて淳太朗を見たら、 彼は傘を持っていなかった。


「傘持ってへんのか。 勝ち組か淳太朗」


 旋一の言葉に「か、 勝ち組……?」と困惑する淳太朗に向かって謙司が、


「傘持たんで、 朝の雨は大丈夫やったんか?」


 と聞いた。


「傘は、 折り畳みのが鞄に入ってるけど……」

 

 と答える淳太朗に旋一が、「なるほどなー。 賢いやん淳太朗」と言ったが。


「……いや、 そうやなくて、 強い風が吹いてきた時に僕の力やと普通の傘は持てずに飛ばされてしまうから……」


 恥ずかしそうな顔をしてそう言う淳太朗を見て、 二人はバツが悪そうに『ああー……』と呟いた。


 やがて、 三人となった彼らは校舎に向けて歩き出した。

 謙司の後ろを歩いていた旋一が、


「スキ有り」


 と謙司の頭にチョップを見舞おうとしたが、 謙司はそれを傘で防いだ。


「そう何度も同じ手を食らうかボケ」


 ……そんな事を言いながら歩いていると、 三人の視界に傘を持った大柄な背中が入ってきた。


「貫太?」


 謙司が声を掛ける。


「おう、 お前らか」


 貫太の右手を見ると、 スマホが握られていた。

 どうやら謙司と同じようにネットで天気予報を確認した後らしかった。


「電車通学始めると、 いちいち天気を気にするようになんな」


 共感を求めるような口調で謙司が言った。


「いや、 俺は部活の関係で中学の頃から予報はよく見てたけどな……。 何なら、 高校に入ってから今までより見んようになったくらいや」


 野球に打ち込んでいた中学時代を懐かしむように、 遠い目をして言う貫太を見て謙司は「ああー……そうか」と力なく言った。


「まあ」


 そう言って、 謙司と貫太の肩を後ろから旋一が掴んだ。


『人が話してる時にいきなり割って入んなや』


 二人はそう声を揃えて返したが、 旋一は二人の持つ傘を見渡しながら言った。


「なんか、 こうやって見たら傘も悪くないと思わへんか? やって、 俺たちを見つける目印みたいで」

「ああ……」

「まあ、 それもそうかもしれんな」


 と謙司と貫太は返した。

 少し濡れた靴を履いた謙司と貫太の肩を掴みながら、 旋一はへへっと笑った。


 やがて四人が歩いていくと、 彼らよりさらに濡れた小柄な体が目に入ってきた。


「……真?」


 そう謙司が呼びかけると真は振り向いた。


「……ああ、 どないしたんや、 みんな揃って」


 謙司たちに自分の姿を見られた真は、 少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。


「どうしたんや、 そんな濡れて」

「うっさい、 山舐めんな。 平地では大した事なくても山ではいっぱい降ってる事とかザラにあんねん」


 心配そうに声を掛けた謙司に向かって真が言った。

 そんな真を見る謙司、 貫太、 淳太朗の中に気まずそうな空気が流れた。

 さっきの大京の生徒と同じように、 真を好奇の視線で見ているかも知れない自分たちを認識させられたのだ。

 そんな空気を振り払うように、 旋一が真に声を掛けた。


「まあまあ、 俺ら濡れ仲間やんけ」


 そして、 自らの手が濡れるのも構わずに真の肩に手を置いて自分の元に引き寄せる。


「お、 おう……? 濡れ仲間……?」


 そう言う真を見て、 謙司と貫太は苦笑して顔を見合わせた。

(つづく)


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